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‐帰還‐5.湯治 [アスカケ第1部 高千穂峰]

5.湯治
 温泉の噴出した周辺を切り払うと、湧き出した湯の流れる先が一段低くなっているのが見えた。ミコト達は、湯の流れた辺りを掘り返してみた。そこには、石を敷き詰め固められた水路のようなものがあり、さらに一段下がったところには岩を並べて、湯を溜めるような設えがあるのがわかった。皆、湯と泥に塗れながら、辺り一帯を掘り返していった。日暮れ近くになると、おおよその様子が見えてきた。昔、ここには湯殿があったようだった。掘り返した土の下からはいくつかの柱のようなものも現れた。
巫女と長老がその場に現れた。そしてミコト達に向かって言った。
「これは古人の設えた湯場だな。・・よく見つけた。」
「おさ様・・なぜ、古人はここを隠したのでしょう。」
一人のミコトが尋ねた。
「・・判らぬ・・何か災いがあったのやも知れぬが・・・。」
カケルは、館で読んだ書物を思い出していた。湯場について書かれたものが確かにあったはずだ。だが、なかなか思い出せなかった。
そうしていると、別のミコトが大きな声で皆を呼んだ。
「おい、ここにも何かあるようだぞ。」
湯の噴き出している場所の更に上に、カケルが見つけたものと同じような石組みで蓋のある場所があった。近づいてみると、全体に黄色く変色し、異様な臭いもしていた。ミコト達は、すぐに蓋を開けようとした。カケルが急に思い出したように叫んだ。
「だめ!そこを開けてはいけない!」
その声にミコト達は止まった。
「そこを開けると毒気が上がってくる。・・毒気を吸うと、皆もだえ苦しむとあった。止めて!」
皆、カケルの話を聞いて、その場を飛び退いた。巫女セイが言う。
「そうか・・昔、そういう災いがあったのじゃな・・それでここを埋めたのじゃな。」
「その場には触れるでない。・・・そこは今一度埋め戻すのだ。・・そうだ、辺りの岩を集め、さらに蓋を頑丈にして、二度と毒気の出ないようにしておく。」
ミコト達は、辺りに散らばっている岩を集め、乗せ、土をかぶせて埋め戻した。
一通り、作業を終えた頃には日暮れとなり、皆、家に戻った。

翌朝、村人は皆、温泉に集まっていた。ミコト達が家に戻り、温泉の話をしており、みな興味深く、湯の湧き出す様子を見ていた。そこを分け入るように巫女と長老、カケルが入ってくる。
「皆、聞くのだ。」
長老の一言で、静まった。
「さあ、カケル、話すがよい。お前の知っている事を皆に伝えるのじゃ。」
巫女が促し、カケルは皆に聞こえるよう、岩の上に上がってこう話した。
「これは、温泉といって・・・大地の命が湧き出ているんだ。古人の伝えでは、この湯で、体を清めれば穢れが取れる。それから、湯に体を浸け温めると病の元である毒を抜いてくれる。」
カケルがそう言うと村人は皆どよめいた。
「じゃあ・・傷も治してくれるのかい?」
誰かが聞いた。みな、同じように頷いて、カケルの返答を待った。
「はい、ゆっくり浸かって傷を癒せば良いと・・。」
村人は顔を見合わせ、喜んだ。森で見つけた薬草に続いて、温泉を見つけ、村人の病を治療する術をカケルは見つけたのだ。
「おお、それなら・・ナミを・・お前の母様を一番に入れてやれ!」
誰かが言った。みな、賛同した。だが、カケルは、俯いたまま返答しない。父ナギが皆に言った。
「すまない。・・夕べ、ナミにカケルが話したんだ。だが・・ナミは嫌だと言うんだ。」
「せっかく、病を治せる湯をカケルが見つけたのに・・。」
「よし、俺たちがナミを説得してやる。行くぞ・・おい。」
「いや、よしなさいよ。判るよ、私は。ナミの気持ちがさ。」
「何が判るんだよ!」
口々に皆言い争いを始めた。ナギは皆を制するように言った。
「みんな、すまない。・・・・俺も如何してなんだと訊いた。・・そうなんだ・・ナミは、随分痩せてしまった。・・だから・・皆に見せたくないんだと。・・」
それを聞いて皆押し黙った。気づくとカケルは涙を零している。
「大丈夫よ!・・ねえ、皆でこの湯の周りに囲いを作りましょう。目隠しを作れば、かか様も気にすることなく入れる。」
言い出したのは、イツキだった。すぐに、近くの竹を切りだした。竹は四つに割られ板にした。ナギが家から細縄を持ってきて、竹の目隠しを作った。出来上がった頃、ナギは、ナミを迎えに行った。背負子に乗ったナミを、村の皆で迎えた。
「さあ、これでいいだろう。・・俺が抱えてやる。大丈夫だ。カケルが見つけた湯だ。綺麗に体を清め、毒を出してやればきっと良くなる。さあ。」
ナギは、ナミを抱え、目隠しの中へ入っていった。しばらくすると、湯船に浸かる音がした。
「ああ・・・良い気持ちだ・・なあ、ナミ、どうだ?」
「ええ・・とっても・・・体が芯から温まる・・・気持ちいいわ。痛いのを忘れられる・・ほんとに、ありがとう、カケル。皆さん・・本当にありがとう・・・」
ナミは、ナギに抱えられたまま湯船に浸かり、涙を流していた。
「おい、カケル。イツキ。お前たちも来い。カカ様の体を綺麗にしてやろう。」

亀石.jpg
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