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-帰還-8.海辺の村 [アスカケ第1部 高千穂峰]

8.海辺の村
「海って・・あの波に飲まれたら死んじゃうっていう怖いところ?」
カケルは海を見たことが無い。ケスキの旅立ちの日に、ケスキの父から聞いた話でしか知らなかった。
「ん?・・・海って、お前は知らないのか。」
カケルはこくりと頷いた。
「海は広くて青い。どこまでも続いている。優しい時も厳しい時もある。確かに、海に出て死ぬ事もある。だが、海には、もっと良いことがたくさんある。魚は、ここの川魚とは比べ物にならないくらい大きい。・・そうだ、お前の背丈以上の大きな魚だっている。旨い貝や海草も取れる。食い物には困らないんだよ。」
「銛を使って獲るの?」
「ああ、だが、皆は網を使う。舟で海へ出て網を広げ、泳いでいる魚を捕らえるんだ。それはにぎやかで楽しい。そしてたくさん獲れる。」
「アラヒコは、そこでアスカケを探したの?」
「ああ・・そのために、先ず、舟を作る技を教えてもらって、海へ出ることにしたんだ。」
「船を作るって・・どれくらいの舟を作ったんだ?」
タカヒコも興味深そうに訊いた。
「いや・・そんな大きなものじゃない。自分が乗るくらいの舟さ。海辺には、そんなに大きな木もないからな。だが、それでもなかなか手間が掛かる。削って縛って、波にもひっくり返らないように何度も何度も作り直す。ちゃんと乗れる舟ができるのには1年くらい掛かるんだ。」
「それで・・海に出たの?」
今度は、イツキが訊ねた。アラヒコは、イツキのほうを向いて、にやりと笑ってからこう言った。
「ああ、天気の良い日に、村のみんなと一緒に沖へ出た。しばらく行くと、陸が見えなくなる。自分がどっちへ向かっているか判らなくなるんだ。そりゃあ怖かったよ。・・だけど、近くに仲間がいる。声を掛け合って沖へ沖へと向かったんだ。それから、みんなで網を広げた。びっくりするくらい魚が獲れたよ。もう夢中で魚を捕まえた。」
カケルも川では鮎やヤマメを捕まえている。だが、アラヒコの話に出てくる魚はもっともっと大きい。カケルも、そんな大きな魚を捕まえたくて、アラヒコの話を聞きながらドキドキしてきた。
「ぼくもいつか海へ行きたい!そして大きな魚を捕まえたい!」
「おおっ、そうか。カケルも捕まえたいか。なら、アスカケに出るんだな。お前なら、きっと鯨も捕まえられるだろう。」
耳慣れない言葉が出てきて、カケルは戸惑った。
「くじら?」
「ああ、くじらはなあ・・大きいんだ。俺なんかよりずっと大きい。口も大きくて、飲み込まれたらひとたまりもない。舟だって木っ端微塵だ。黒くておっかない。」
「そんな恐ろしいものが海にいるの?」
イツキがそっと訊いた。アラヒコはイツキを見て、ちょっと言い過ぎたと反省して、
「いや・・滅多に会うもんじゃない。それに、普段は何も怖くない。人間が捕まえようとして銛を打ったり、追い込んだりするから暴れるのさ。・・生き物はみなそうさ。森にいる熊だって鹿だって、猿だって、みな、おとなしく生きてる。こっちから何かしない限り、滅多に襲ったりはしないんだ。」
タカヒコもナギも、頷いて、イツキやカケルを見た。そして、ナギが、
「そうだぞ。・・人間ってのが一番厄介なんだ。それぞれ、生き物には自分の縄張りがあって、静かに暮らしてる。でも、人間は、どこにでも入っていく。山深くまで踏み入れて、生き物を取る。木を切る。実を摘む。・・みな、生きてるんだからな。やたらに傷つけてはならんのだ。」
カケルとイツキは神妙な面持ちで、ナギの話を聞いた。周りに居た村人たちも、押し黙った。
「なんだい、俺の話の続きはまだあるぞ。」
静かになった様子を破るように、アラヒコが話を続ける。
「実はな、何度か海に出るうちに、俺も要領を得た。海には、小さな島というのがある。・・そうだな・・川から岩が突き出るみたいに、海にも岩が突き出ているところや、大きな山があるんだ。それを島というんだが・・ある日、俺は、その島が並んでいるところまで舟を進めたんだ。村の長からも、あそこにはいい魚が獲れるところがあると聞いたんでなあ。」
アラヒコは、濁酒をぐいっと飲むと話を続ける。
「そこで俺は人に会った。・・・いや、その島に人が居たんだ。・・そう、海の向こうにある国からの使者だった。荒波で舟が壊れ、流されてたどり着いたらしい。三人居たが、二人はもう死んでいた。たった一人残っていた男も、随分、弱っていた。すぐに俺の船に乗せて、村に戻ったんだ。しばらく養生してから、話を聞くと、海の向うにあるイヨの国王の使者だと言うんだ。ヒムカの国へ王の手紙を届けるところだったらしい。だが、荒波で全てを無くしたと言った。」
「それで、どうしたの?」
「俺は、その男を連れて、イヨの国へ行く事にした。このまま、ヒムカの国へ行っても、無駄だと教え、俺の舟で海を渡る事にしたんだ。」

日南海岸2.jpg

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