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-旅立ち‐7.試しの儀式 [アスカケ第1部 高千穂峰]

7.試しの儀式
「試しの儀式」が館の大広間で開かれた。
ミコトや女たちが、壁に沿って座り、広間の真ん中には、カケル・イツキ・エンが正座していた。巫女セイは、祭壇に向かって祈りの言葉をささげ続けている。銅鐸の静かに響き、巫女の祈りも止んだ。
5人のミコトが大きな面を被り、ゆっくりと現れ、3人の前に座った。五人のミコトは、水の神・地の神・火の神・風の神・山の神に扮している。
最初に口を開いたのは、火の神である。火の神には、エンの父が扮していた。
「子等よ、お前たちはわが身を生む術を知っておるか?」
三人はこくりと頷いた。
「ならば問う。火を作りしのち、何が大事か?」
三人は顔を見合わせた。エンが「絶やさぬようにする事」と答えた。イツキが「見守る事」と答えた。最後にカケルは、「風を見る事」と答えた。答えを聞いて、火の神に扮したミコトが考え、カケルに訊いた。
「カケルよ。何故、火を見ずに風を見るのだ?」
「はい、風は火と遊びます。強き風には火も暴れだします。火が暴れると手がつけられません。森を焼き、獣を焼き、命を奪います。だから、火を作る時には、風を見る事が大事です。」
その答えを聞いて、シシト扮する風の神が立ち上がって訊いた。
「風に何を教わるか答えよ!」
じっと考え込んで、エンが、「雨を教わります。風が重く吹く時には雨が近づきます。」と答えた。すると、カケルが、「季節を教わります。西からの風が吹けば、冬支度を始めます。東からの風が吹けば、春が来ます。田畑の支度をします。」と答えた。それを聞いていたイツキが、「父や母、ナレの村の様子を伺います。風のささやきには、遠いところの出来事がそっと聞こえるのです。」
次に立ち上がったのは、水の神であった。
大きな水の神はそれがアラヒコだとわかった。アラヒコは、何を聞くべきか考えきれず、少しおどおどしながら、「俺はどこに居る?」と訊いた。
三人はその聞き方が可笑しくて、イツキなどは噴き出してしまった。エンは、「みたりの御川に居る、泉に居る、西の谷に居る」と少しおどけるような言い方をしたので、「こら、ちゃんと考えるのだ!」と周りから怒られた。
水の神は、今一度問うた。「俺を見つけるにはどうする?」
カケルはじっと考えていた。そして、「森を見ます。」と答えた。その答えはアラヒコが思っていたものとは違っていた。そこで「何故、森を見る?」と訊いた。
「水は空から雨として落ちてきます。そして、山々に降った雨が地に浸みてやがて泉となり湧き出て、流れを作り、川となります。しかし、ただ降っただけの雨は水溜りとなりやがて消えてしまいます。湧き上る水は、豊かな木々が作り出してくれるのです。だから、豊かな水は豊かな森にあります。」
村の皆も見事な答えにおーっという声を上げたのだった。
次は、地の神だった。地の神には、カケルの父ナギが扮していた。地の神は、しばらく沈黙してから、「目の前に、森の獣が現れたらどうする?」と三人に訊いた。
エンが、「すぐに弓を構えます。」と答えた。「構えて如何する?」「向かってくるならば、射抜きます。」「射抜いてどうする。死んだ獣はどうなる?」と地の神が訊くと、エンは押し黙ってしまった。
「イツキ、お前はどうする?」
イツキは答えに困った。村に居る限りは、獣に出会う事などなかったからだ。そしてようやく出した答えは、「逃げます。」「どこへ逃げる?」「・・走って・・それから・・そうだ!木の上に登って逃げます。」「そうか・・。」
「カケルは如何する?」
カケルは二人の答えを聞きながらじっと考えていたが、
「身を隠します。そして、じっと獣の様子を探ります。」
「ほう・・何を探る?」
「獣は、人を襲う事など滅多にありません。手傷を負っていない限り、人を怖がり逃げ去るはずです。だから、様子をじっと伺い、向かってくる気配がなければじっと待ちます。」
「そうか・・ならば、怪我をし、正気を失って襲ってくれば如何する?」
「戦います。・・ですが、命を奪わず獣が怯めばすぐに逃げます。」
「そうか・・・よいか、地に生きるもの全てに命がある。むやみに奪ってはならぬぞ。エン、お前の弓の腕は本物だ。お前が狙いを定めれば確実に仕留める事ができよう。だが、むやみに使ってはならぬ。心せよ。イツキ、木の上に逃げるのは良かろう。木に登れぬ獣であればな。騒がず落ち着き獣を見よ。おのず如何すれば良いか判るはずだ。・・カケル、お前の言うとおり、獣は人を襲う事はない。だが、もしも襲ってきたら、全てをかけて戦うのだ。自らの命を守るためではない、供に旅をするエンやイツキを守るためなのだ。良いな。」

最後に、長老が扮した山の神が三人の前に立った。
「火も水も風も大地も、人々が生まれるよりずっと前からこの世にあった。人は万物に守られて生きておる。獣も魚も木も草も同様である。アスカケの最中、幾多の苦難に遭うであろうが、その時には、神々に問うのだ。如何にすれば良いかとな。神々はきっと答えてくれる。良いな。」
そう言うと、長老は面を外した。神々も面を外した。
「試しの儀式はこれで終いだ。・・アスカケは明日朝行くが良い。・・ただし、ひとつだけ約束がある。カケル、エン、お前たちは、イツキを伴ってウスキの村を目指すのだ。イツキを無事にウスキの村に届けた後、それぞれのアスカケに出ればよい。良いか?」
「はい。」

双子勾玉.jpg
タグ:勾玉 神
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月夜のうずのしゅげ

ムラ人による演劇形式の対話は文化的ですね。
苦楽賢人さんのブログでは、住んでみたいようなのどかな集落の写真を見かけますが、双子の勾玉を見たのは初めてです。
by 月夜のうずのしゅげ (2011-03-28 10:11) 

苦楽賢人

写真は、お話を作る中で突き当たたびに、HPやブログで情報を貰っている時に偶然見つけたものとか、自分の取り溜めた写真とか・・戴き物も多いので、差し支えあるようでしたらぜひ苦情としてお寄せ下さいね。すぐに削除します。

村人の演劇形式の対話・・・古来から伝わる日本の祭りの多くは、天狗や鬼や動物に扮して、追い回したり、舞踊をしたりしますね。おそらく、神代の昔はもっともっと神聖なものとして、こうした儀式は存在したのだと思っています。今よりも精神生活はきっと高かったと思います。
by 苦楽賢人 (2011-03-28 18:24) 

ami

こんばんわ^^
ご訪問ありがとうございました。
双子の勾玉とても珍しいものですね。
by ami (2011-03-28 20:42) 

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