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-旅立ち‐8.旅立ち [アスカケ第1部 高千穂峰]

8.旅立ち
儀式の後、三人には旅支度が渡された。
「エン、お前からだ。」
エンの父タカヒコがエンを呼んだ。
「お前には、まず、サチ(箭霊)だ。この日のために、村で一番の弓を作ってやった。受け取れ。」
タカヒコが持つ弓は、今まで使っていたものより一回り大きく太く立派なものだった。そして、「カケル、お前にもサチ(箭霊)を渡そう。八つの時、お前が作ったものだ。小さいかも知れぬが、お前はこのサチをいきなり干し肉を射抜いたのだ。エンのような大きなサチ(箭霊)はお前には危険だ。身を守るにはこれくらいが良い。」
次に、母ハルが前に出て、
「エン、お前は食いしん坊だからね。腹が減ると力がでない。これをもっていきなさい。」
そう言って、大きな麻袋を差し出した。中には、木の実や干し肉が詰まっていた。
「これは3人分なんだからね、お前だけで食べるんじゃないよ。」
次に、アラヒコが前に出た。
「おれも渡したいものがある。これだ。」
そう言って目の前に差し出したのは、筒状に丸めた鹿の皮のようだった。
「それぞれにひとつずつある。こいつを広げると体を包む事ができる。山の中は冷える、雨の日にも困る、こいつを使えば雨や寒さをしのげる。・・イツキのはちょっと綺麗な色の奴だ、女の子だからなあ。」
そう言って三人に手渡した。
最近、アスカケから戻ったばかりのケスキも居た。
「お・・俺からもひとつ。・・こいつは俺が使っていたんだが・・瑠璃の国で貰ったんだ。」
そう言って取り出したのは、小さな石だった。
「これはな、こうやって使うんだ。」
そう言って、石と石をぶつけるように打ち鳴らすと、火花が出た。
「枝を使って火を起こすより簡単だ。これをもって行ってくれ。」
そう言うと、小さな青く染まった布袋に入れて、イツキに手渡した。

巫女セイが立ち上がった。そして、長老とナギのほうを見て目で合図をした。
長老とナギは祭壇に向かい、祈りを奉げてからそっと祭壇の上に置かれた剣を持ち上げた。そして、ゆっくりとカケルの前に持ってきた。
「カケル、この剣を持っていきなさい。お前がこさえた剣じゃ。」
「ですが・・これは、この村の守り神にと・・」
「いや、前々から決めていたのだ。この地の全ての神の力が生み出したハガネから、お前が削りだした剣じゃ・・お前にしか使えぬはずじゃ。アスカケに持っていくが良い。」
カケルはそう言われても手が出せなかった。この剣を持つ資格が今の自分にないと思っていたのだった。その様子をナギが見て言った。
「これを柄に巻け。この荒縄には、わしとナミの黒髪が編みこんである。これを持ち手にするのだ。・・それから・・これが鞘だ。ナミがお前のために作った。さあ。」
そう言われ、カケルは荒縄と鞘を受け取り、躊躇いながらも剣に触れた。何か光が生まれたような輝きが館の中に広がった。言われたとおり、荒縄を持ち手に捲き、鞘に収めた。鞘には紐がついていた。カケルは、肩に紐を通し、剣を背負った。
「おお・・凛々しき勇者のようじゃな。」
長老がため息をつくように言った。
「お前の持っている小刀を、イツキに持たせておやり。」
カケルは懐から小刀を取り出すと、イツキに手渡した。
「わが身を守るためのものじゃ。大事にするのだぞ。」
長老に言われ、イツキはこくりと頷いた。
その時、ナギに支えられるように座っていたナミが言った。
「イツキに渡したいものが・・」
イツキは、ナミの傍に行き、体を支えるようにした。
ナミは、自らの首にかけていた飾りを外した。
「これを持っていって。・・・これは定めを示す首飾り。あなたを産んだセツ様からお預かりしていたの。ウスキに着いたら、これを見せて。あなたが誰なのか、皆わかるはずだから。」
そう言って、優しくイツキの首に掛けた。首飾りの先には、緑色の石で作られた勾玉が背をつけて二つ繋がっていた。イツキはじっとその首飾りを見てから、
「ありがとうございます。母やナミ様の願いを必ず果たせるよう誓います。」
イツキは強いまなざしをナミに向けてそう言った。
「よし、旅仕度も整ったな。・・では、旅立ちの宴としよう。・・・お前たちは櫓に上がるのだ。ほら、皆、宴の支度を!」
長老の掛け声で、皆、館を出てそれぞれの家に戻った。
ナミは、体調がすぐれぬからと言い、ナギとともに家に戻った。
夕日が沈む頃、村の真ん中に大きな篝火が焚かれ、銅鐸の音を合図に皆が集まってきた。ケスキの時と同様、高楼の上では、巫女の祈りが始まり、続いて長老の呼び声で宴が始められた。
村の皆が、それぞれにカケルやイツキ、エンに話しかけた。歌や踊りも始まり、皆、明日かけに出る若者を勇気付け、祝い、騒いだ。一度に三人もの若者が旅立つ事は珍しく、まして、女がアスカケに出る事は初めてで、皆イツキを心配したり勇気付けたり、夜遅くまで宴は続いた。

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