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‐ウスキへの道‐2.崖の道へ [アスカケ第2部九重連山]

2.崖の道へ
三人は広い草原を真っ直ぐ東へ向かって歩いた。天気もよく気持ちの良い風が吹き抜けていく。そのうち、イツキが歌い始めた。宴の関で必ず皆が歌った歌だった。古い大陸の言葉で、意味は知らなかった。ただ懐かしく歌い続けた。エンも一緒になって歌った。カケルは歌は苦手だった。小さい頃、みんなと歌った時に、変な声だと笑われて以来、歌うのをやめたのだ。
 広い草原はなだらかに下り続け、両側に切り立つようにあった岩場も無くなり、徐々に見通しが良くなってきた。
イツキは、突然歌うのを止めて、遠くを指差しながら言った。
「見て!あそこ。」
三人は、草原の端、見晴台のように目の前が開けた場所にいた。随分遠くまで見通せるところだった。指差す先を、カケルとエンも見た。
まだ、随分先だが、僅かに森の中に煌いて見える場所がある。湖のようだった。
「きっと、あれが御池だろう。」
「じゃあ、あそこまで行けばユイの村があるのね。」
イツキは安堵した表情で言った。
「ああ、きっとそうだな・・どんな村なんだろう?」
エンが、村の様子を確かめたいように目を凝らし、さらに付け加えた。
「夕方までに着けるかな?」
カケルは、三人がいる場所から、さらに前に進んで、この先の様子を確認してみた。
見晴台から下は急な崖になっている。真っ直ぐ降りるには危険だった。
「真っ直ぐ行けば夕方には着くだろうが・・この崖は無理だな。北側から回り込んで行こう。その方が安全だ。・・明日には着けるだろう。」
これを聞いてエンが提案した。
「俺が、ここを真っ直ぐ降りて一足先に村に行く。お前たちが村に着く頃に休める準備を整えておく。どうだい?」
「一人で行くつもりか?」
「・・もともと、アスカケは一人で行くものだろ?大丈夫だ、この距離なら日が暮れる前には村に着けるはずだ。」
イツキがそれを聞いて言った。
「私が居るから、回り道をするの?」
「いや、そうじゃないさ。急な崖を降りるのは大変だ。・・誰から足を滑らせれば皆
一緒に落ちてしまうかもしれない。一人ならまだ大丈夫だろうが・・。」
カケルの言葉にエンも、
「そうさ。俺一人ならゆっくり自分の具合で降りていけるからな。・・ということで、俺は先に行くよ。二人で後から来い。じゃあな!」
そう言って、麻袋の大荷物をカケルに渡し、崖を降りていった。降り口は、まだなだらかだったが、途中に見える岩場はかなり急であった。
カケルは、上からエンに声を掛けた。
「気をつけろよ。急がなくて良いからな。」

徐々に、エンの姿が見えなくなると、カケルとイツキも足を進めることにした。草原から北側に尾根伝いに進む。ぐっと回り込む様に広がった尾根から、エンが降りていく様子がなんとか確認できた。しかし、そのうち、尾根の道は森になり見えなくなった。
「エン、大丈夫かしら?」
「猟に行っていたんだ、崖を上ったり降りたりするのは慣れてる。大丈夫さ。それより、自分たちの心配をした方が良さそうだよ。」
カケルがそう言ったのには訳があった。
低地に下りてきたせいか、森は随分深く茂り、方角を見失うほどであった。昼間だというのに、随分暗い。足元も湿っていて、ところどころ泥濘もある。
「日が暮れぬうちに、この森を抜けたいな・・。」
カケルは、方角を誤らぬよう注意しながら進んだ。イツキも必死でカケルの後ろを歩いた。
夕方近くになった頃、湿った暗い森をようやく抜けた。カケルは一安心して、振り返るとイツキが苦しそうな表情をしていた。
「どうした、イツキ?」
「・・大丈夫・・・でも・・ちょっと疲れた・・休みたい・・」
イツキはそういうとその場に座り込んでしまった。
エンと別れてから、カケルは必死で森を抜ける事だけを考えて歩いていた。休憩も取らず歩き続けていたのだった。イツキも必死に後を追って歩いて、無理をしたのだろう。座り込んだイツキは、その場から動けなくなってしまった。
「ごめん、イツキ。気づかなかった・・・今日はここら辺りで休もう。」
そう言うと、イツキから小刀を借りて周囲の木の枝を切り、イツキの周りを覆った。
「休める場所を探してくる。しばらく、ここでじっと待っていてくれ。」
カケルは、森の中で体を休める場所を探しに行った。
一人きりになったイツキは、疲れのために急に体が重くなり、横になり眠ってしまった。
日暮れが近づいていた。一刻も早く、安全な場所を探さなくてはならない。森の中を走り回り、ようやく小さな洞穴を見つけた。イツキのところへ戻ると、イツキは眠りに落ちていた。カケルはイツキを抱え上げ、洞穴のところに運び、鹿皮を広げ横にした。それから、薪を集め、火を起こした。何とか日暮れまでには間に合った。気づくと、カケルもすっかり疲れていて、食事もせずに眠ってしまった。

朝日が顔を照らし、イツキは目を覚ました。見ると、カケルが座ったまま眠り込んでいた。イツキは、カケルが目を覚まさないように、そっと起き上がると、カケルが作った竹の水筒を手に、近くの沢を探した。洞穴からすぐのところに沢はあった。顔を洗い、水を汲み、ふっと顔を上げた時、遠くに白い煙が上がっているのが見えた。すぐに、洞穴に戻ってカケルと揺り起こした。
「カケル!起きて!・・・そこに・・煙が見える・・村は近いんじゃないかしら・・」
そう聞いて、カケルは飛び起きて沢まで走っていった。確かに、木々の向こうに一筋の煙が上がっていた。
「人が居るのは間違いないな\\だが・・村ではなさそうだな。」
朝の時間、ユイの村なら、煙が少なすぎる。それに、まだ村までの距離は随分あるはずだった。誰かが野宿して火を燃やしているのだと考えた。
「・・誰か・・エンかもしれない・・けど、急ぐ事はない・・・まずは腹ごしらえをしよう。夕べは疲れてしまって何も食べてないから腹が減ったよ。」
残り火を起こして、麻袋から野草と干し肉を取り出して、雑炊を作って食べた。
「さあ行くか。今日はゆっくり行こう。夕方には村につけるはずだからな。」
崖.jpg
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