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-ウスキへの道‐5.ユイの村 [アスカケ第2部九重連山]

5.ユイの村
翌朝、カケルとイツキは老人に礼を言い、早々に出発した。昼過ぎには、ユイの村の入り口に到着した。先に到着していたエンが、村の大門の脇に座り、心配顔で二人の到着を待っていた。
「やっと来たか!」
「すまない。途中で日暮れにあってしまって、森の中でゲン様にお会いして、一晩やっかいになったのだ。」
「ああ・・俺もゲン様にあった。一晩厄介になったよ。・・だが、村の人には黙っておいて欲しいと言われたんだ。」
「ああ・・俺もそう頼まれた。・・だが・・」
「まあ、いいさ、とにかく村に入ろう。昨日のうちに話はつけてある。まずは長老様に挨拶だ。」
三人は村の中に入った。ユイの村は、ナレの村より人数が少なく小さかった。男手が少ないのか、村の家はあちこち傷みが目立ち、村を囲む柵もところどころ壊れていた。

「長老様、二人が到着いたしました。」
エンが、長老の館の前で声を掛けた。長老はゆっくりと顔を出した。随分高齢の様子で、目が良く見えないのか、声のするほうに向いたものの、視線はまったく別の方向を向いていた。
「よくおいでくださった。小さな村ゆえ、たいしたもてなしはできないが、ゆっくりしていきなされ。・・カケルとイツキと言ったな。・・ナギ様、ナミ様はお元気か?」
先についていたエンが、カケルたちのことをすっかり紹介しているようだった。
「はい、父や母からは、ここでしばらく養生させていただいたと聞いています。ありがとうございました。」
「ほう・・力強い声で・・どうやら、ナギによく似ておるようじゃ・・さぞかし、凛々しい青年なのじゃな。」
「・・イツキでございます。・・我が母セツも、この地に来たと聞いております。ありがとうございます。」
「・・セツ?・・なんと、お前はセツ様の娘か・・・ならば、ウスキの村・・いや・・邪馬台国の王の血を継ぐものなのか?・・・もっとこっちへおいで。」
長老はイツキを呼び寄せ、両手でイツキの顔を包みこむように優しく触った。
「美しい娘じゃ・・・セツ様とよく似ておる。・・そうか、ウスキへ行くのか?・・ウスキの村の者も喜ぶであろう・・。」

長老の口から、邪馬台国の王の話が出ようとは思いもしなかった事に、三人は驚いた。
「長老様は、邪馬台国の王の話をご存知なのですか?」
「ああ・・ナギ様がここへ立ち寄られた時に、もしもナレの村にもしもの事があれば、ユイの村でもセツ様をお守りするという約束を交わしたのだ。・・そして、時が来るのを待っておったのだ。生きているうちに、こうして、また王の血を受け継ぐものと会えるとは・・・」
見ると、長老は涙を流していた。イツキは、自らの運命の重さを改めて感じていた。
「まあ、ゆっくりされるが良い。ここ数年、厳しい暮らしが続いて、たいしたもてなしは出来ぬが、体を休める場所は設えておる。・・村のはずれの家を使ってくだされ。・・誰か、おらぬか、案内を頼む。」
長老がそういうと、脇に控えていた姉と弟と思しき二人がそっと近づいてきた。
「フミと申します。こちらは、弟のカズ。村にいらっしゃる間、私たちがお世話させていただく事になりました。さあ、ご案内しましょう。こちらです。」
フミは、カケルたちより、二つほど年上。弟のカズは二つほど年下であった。

三人は、フミたちの案内で、村の中を回った。村のものたちは、フミの顔を見ると皆お辞儀をした。中には、その姿を拝むものまでいた。不思議に感じて、イツキは訊ねた。
「あの・・フミ様?貴方たちはどういう・・」
そこまで言うと、弟のカズが振り向いて、
「姉様と私は、おさ様の孫です。父は、数年前にはやり病で亡くなりました。姉様は、爺様のお手伝いをして、今は、この村を治めています。」
凛としていながら、優しさと慈しみを感じさせる姿は、彼女の果たすべき役割をしっかりわかっている事を示していた。
「母様は?」
カズがフミの顔を見ながら、どう答えようかと思案していた。
「母は、病で臥せっております。」
フミがきっぱりと答えた。
「もう、長くお悪いのですか?」
「・・もう一年近く・・長様と同様、目を患っております。」
そう答えた後で、急に立ち止まりフミが言った。
「ここをお使い下さい。今は誰も使っておりませんので少々傷んでおりますが・・」
そう言って教えられた家は、何とか屋根はあるもののあちこち傷みが出ていた。その様子を見てカケルが訊いた。
「・・この村の家々を見ると、あちこち傷みがありますね。それに獣除けの柵にも・・・」
「はい・・流行り病でミコト様が減り、力仕事ができる者がおりません。・・」
「我らがここに留まる間に、できる限り、修理をいたしましょう。・・他にも何かお役に立てることがあるなら、申しつけ下さい。」
フミはその言葉を聞いて、思わず涙を零した。
「・・ありがとうございます。・・・是非にもお願いいたします。・カズにも手伝わせます。」
「・・そうですか・・それでは、カズ様にもお願いいたします。」
三人は、与えられた家に手荷物を置くと、すぐに、仕事を始めることにした。
カケルとエンは、カズに案内を頼み、家の材料となる木や葦を近くの森や川原で集め、村に運び込んだ。イツキは一つ一つの家を回り、屋根や壁を修理すべき箇所を聞いてきた。カケルとイツキが家の修理を受け持ち、エンとカズは獣除けの柵の修理をする事にした。
家の修理は、何とか日暮れまでにある程度片付いたが、柵の修理は手間が掛かっていた。長年手入れをしていなかったのか、柵の外堀が埋まってしまって役に立たない。エンとカズは、堀をもう一度掘り返すところから始めたのだった。
「カズ、これは厄介な仕事だぞ。村を一巡りする堀をもう一度掘らなければならない・・。」
カズはまだ13歳、体つきもまだまだ少年で体力があるとは思えなかった。しかし、カズも長の跡を継ぐものとしての自覚は人一倍持っていた。
「大丈夫です。少しずつでも掘り進めればいつか出来上がるでしょう。私一人ではやりきれないけれど、エン様やカケル様もご一緒ならきっとやり遂げる事ができると思います。」
カズはそう答えて、また掘り始めた。
「明日も、続きをやろう。・・しばらく、この村に留まることになるな。」
汗を拭きながらエンが言うと、カズは嬉しそうな顔をした。
ウスキの村は遠く何日掛かるかはわからない。ただ、先を急ぐだけがアスカケではないのだ。

堀.jpg
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