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-ウスキへの道-6.相談 [アスカケ第2部九重連山]

6.相談
日暮れになり、三人は与えられた家に戻った。
さすがに疲れた三人は、家に入るとすぐに横になってしまった。空腹感は強かったが、何をする気力もなくなっていた。日も暮れ、家の中は真っ暗になった。ようやく、カケルが起き上がり、囲炉裏の火をつけた。エンやイツキも囲炉裏の傍に来てじっと火を見つめた。
「思ったよりもこの村には長く居ることになりそうだな。」
エンがポツリと呟いた。
「ああ・・まだ、まだやることはありそうだ。しかし、男手がないのは大変だ。ナレの村はたくさんのミコト様がいた。皆、それぞれにたくさんの仕事をこなしていたんだな。」
カケルが答えた。
「そうね・・村に居たときは気づかなかったわ。村はミコト様や母様たちが力を合わせていたから、あんなに穏やかで住みやすかったのね。」

ふいに、外で声がした。カケルが出てみると、フミとカズが両手に皿を持ち立っていた。
「お疲れでしょう。・・本来ならば歓迎の宴をすべきですが・・なにぶん、今は、村も苦しくて、もてなしをする事ができません。これでお許し下さい。」
そう言って、野草と雑穀を煮た雑炊を差し出した。
「少し、お尋ねしたい事があるのですが・・」
カケルがそういうと、フミとカズを家の中に招き入れた。

「しばらく、我らはここに居させていただきます。・・村のお役に立ちたいのです。」
「ありがとうございます。・・今日も随分あちこちを修理いただいたのに・・・。」
「先を急ぐ旅ではありませんから、気にしないで下さい。あの・・それで・・ひとつ、お伺いしたいですが。・・村の流行り病とはどんなものですか?」
フミは少し考えてから慎重に答えた。
「・・はい・・長様のように、目が見えなくなる病なのです。私たちのように子どもはなりませんでした。ミコト様のように力仕事をされる方から順番に悪くなって・・今では、村の大人のほとんどが同じような病になっているのです。」
「目の患いか・・・」
カケルは何かを思い出そうとしているようだった。
「いつごろから?」
イツキが問う。
「・・確か・・前の大水があった時だがら・・2年くらいになるでしょうか・・・その年は、夏に長雨があり、御池も溢れて、この村の家も畑も水に漬いてしまって・・・食べ物も無くて、ひもじい思いをしました。その年、長様が病になられて、順に広がってしまいました。」
「それで・・堀も埋まっていたんだ・・御池が溢れる事があるんだ。」
「ええ・・長様はおっしゃるには、御池から流れる川が埋まってしまったせいだと・・」
「川の流れを戻すのはかなり苦労するな・・。こりゃ随分長くいる事になりそうだ。」
エンが天井を見上げて言った。
カケルは、先ほどの会話からずっと考え込んでいた。その様子にイツキが気付いて訊いた。
「ねえ、どうしたの?」
「・・あ・・いや・・目の患いと聞いたんで・・治す方法を考えていたんだ・・確か、館で見た書物にあったはずなんだ・・・なあ、イツキ、覚えていないか?」
イツキも考え込んだ。二人の様子を見ていたエンが言った。
「なあ、俺の母様は、よく言ってたんだ。・・塩でキズを洗うとすぐに治るって・・でも、傷口に塩を入れると飛び上がるほど痛いんだぜ・・だから・・」
そこまで聞いていたカケルが声を上げた。
「そうだ!・・エン、凄いぞ。そうだ、そうだ。塩だ。確か書物に・・塩で目を洗い清め、その後に・・薬草を・・何だったか・・確か・・オオバコ草が効くはずだ。」
それを聞いて、フミが残念そうに答えた。
「・・塩は、今、ほんのわずかしかありません。・・」
イツキが驚いて言った。
「えっ?塩が無いって・・・」
「はい。以前は、ミコト様がカワセの村まで出かけて分けてもらっておりましたが、今はそれもかないません。残った塩を大切に使っているのです。」
「じゃあ、俺がそこまで行ってもらってくるよ。」
エンは、今日の作業に嫌気が差していたのか、隣村まで行くほうが気楽だと考えたのか、勇んで申し出た。
「しかし・・カワセの村までは丸一日掛かります。それに、ただもらえるわけではありません。代わりになるものを持っていかなくてはなりません。・・以前は、猟で得た猪や鹿を届けておりましたが・・今、村にはそれさえも・・・」
「じゃあ、俺が猟をして獲物を捕らえてそれを届けてくるさ。何、俺の弓の腕なら簡単な事だ。明日にでも出発する。・・そうだ、カズ、お前の一緒に行くぞ。二人で猟をして大物を捕らえて、たくさんの塩を運んでこよう。」
カケルがそれを聞いて、
「そうだな。それが良いだろう。道案内も必要だし・・カズ様、お願いします。」
カズは戸惑いながら、頷き了解した。
「それで・・イツキとフミ様には、薬草を探してもらいたい。まだ、春になったばかりだから、それほど大きくは育っていないだろうが・・できるだけたくさん手に入れて欲しい。」
「オオバコ草は、御池の畔にたくさんあります。そこに行ければ・・」
「確か、父ナギが村から御池に楽に行けるように橋を掛けたと聞いているんだが・・」
「はい、以前は橋がありました。しかし、大水の年に橋を掛けていた大楠が根から流されてしまって・・今は、御池には行けません。」
「そうか・・ならば、まず、明日、橋を掛けなおそう。いずれは必要になるのだ。家の修理もほぼ終わった。エンとカズ様が塩を運んでくる間に、橋を掛け、薬草を集めておこう。」
「堀や川はどうする?」
「病を治せば、ミコト様たちも手伝ってくれるはずだ。川を治すには大人数で無いと難しい。まずは、村の人の病を治す事にしよう。」
「よし・・それなら・・腹ごしらえだな。」
エンはそういうと、フミが運んできた食事に手をつけた。カケルもイツキも食べた。
わずかな塩味がつけられた雑炊を、三人はしっかり味わいながら食べた。

藻塩syou.jpg
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