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-ウスキへの道-7.長老とイトロ [アスカケ第2部九重連山]

7.長老とイトロ
 フミとカズは、館に戻って、カケルたちの話を長老に伝えた。
「なんと・・この眼が治るというのか?」
「はい。」
「ありがたいことじゃ・・・。」
「はい・・本当にありがたいことです。・・」
「カケルの父様も、アスカケの帰りに、この村に留まり、家々を直し、むらを元気付けてくださった。ナミ様の体を癒すための礼と言われてのお。その時も、村は苦しい暮らしじゃった。じゃが、ナギ様は毎日ひたすら働かれた。・・ナレの村はそういうミコト達がたくさん居るのじゃな。しかし・・この村は・・・わしの力が足りぬばかりに・・」
長老は、見えぬ眼から一筋の涙を流している。

「きっと、病さえ無くなれば、ミコト様たちも以前のように動けるようになるでしょう。それまでの辛抱です。病を治す術をしっかり教わります。」
フミも泣いている。そしてこう言った。
「ですが・・・村の人たちは、素直に治療をうけてくれるでしょうか?」
塩で眼を洗い、薬草をつけるだけであるが、もともと傷んだ眼を塩で洗うなど、やはり相当の痛みもあるはずである。
「大丈夫じゃ・・わしが一番に受けよう。そうすれば、皆も受けるはずじゃ。」
「でも・・・」
「心配せずとも良い。・・どんな痛みにも耐えてみせよう。長とはそういう役目なのじゃ。」

「あの・・長老様・・・狩りをするにはどこへ向えばよいでしょう。」
カズが尋ねた。
「そうか・・お前は、エン様とともに、獲物を取り、塩を貰い受ける役目じゃったな。・大事な役目じゃ・・頼むぞ。・・狩りをするには・・本来ならば、山手の森が良いのだが・・それでは、遠くなる。」
長老は思案していた。そして、しばらくしてから思い出したように言った。
「おお・・そうじゃ・・・お前は、カワセの村までの道はわかるか?」
「はい・・一度、ミコト様たちに連れられ行ったことがあります。大川の畔にありました。」
「そうか・・頭の良い子じゃな・・その途中に、獣の潜む森がある。そこならきっと良いはずじゃ。途中、険しい道もあるが、お前なら大丈夫だろう。」
「行かれたことはあるのですか?」
「いや・・わしは行ったことは無い。・・イトロに尋ねるがよい。確か、何度か行っておる。峠から森へ入る道も教えてもらうが良い。」
「わかりました。きっと獲物を仕留め、塩を持って帰ります。」

フミとカズは長老の部屋を出た。
カズは、長老に言われたとおり、イトロの家を訪ねた。イトロは、村一番の弓の名手であり、狩りの腕も相当なものであった。元気だった頃には、大きな鹿や猪、熊までも仕留め、村人の胃袋を満たしてくれた。しかし、今は、眼の病になり、ほとんど視力を失っていたのだ。
「イトロ様・・夜遅くすみません。カズです。」
そう言って声をかけると家の中から返事がして、イトロの妻が出てきた。
眼の病になっているがまだ視力は残っていた。
事情を話して家の中に入ると、イトロは、座って弓を磨いていた。イトロは、いつか目が治る事を信じていたのだった。
「イトロ様、一つお教えください。・・カワセの村へ向う途中の峠で、獣の潜む森があるのはご存知でしょう。明日、そこに行きたいのです。」
カズがそう言うと、イトロはじっと考え込んでいた。
「お前一人で、狩りをするのか?」
カズは、カケルたちのやろうとしている事を話した。しばらくイトロは考え込んでいたが、ぼそりと言った。
「確かに、二つ目の峠を越えたところから、北へ入ったところに沼がある。入り口には、大杉がある。俺がつけた目印もあるはずだ。その沼は、山の獣が水を飲みにやってくる。・・鳥も多いし、ウサギや狐も居る。・・そうだ、鹿がよいだろう。沼に来た鹿は足元が悪いから、すばやく動けない。鹿を狙え。一つ取れば充分なはずだ。二人で運ぶにもちょうど良かろう。」
そう言うと、磨いていた弓をカズの前に差し出した。
「これは?」
「ああ、猟をするのならこれを使ってくれ。毎日磨いて、よく撓るようになっているはずだ。俺は使えないからな。・・お前が使ってくれるなら、俺も猟をした気持ちになれる。・・エン様を助け、大物をしとめるのだ。」
「判りました。ありがたくお預かりします。・・でも・・きっと眼は治ります。そしたら、イトロ様、弓をお教え下さい。」
「ああ、判った。きっとだ。」
カズはイトロの家を出て、自分たちの家に戻った。

家の中は暗くひんやりとしている。薪すら満足に無い村で、二人は長の一員として、他の家々に、自らの薪を分けていたのだ。
カズは冷たいだけの干草の寝床に入った。
「ねえ、姉様。もう寝ましたか?」
フミはそっと寝返り、カズのほうを向いた。
「どうしたの?」
「カケル様たちは、何故、あれほど熱心に我らを手助け下さるのでしょう?」
「昔、父様と母様がこの村で世話になったから、お礼をしたいとおっしゃっていたけれど・・・。」
「もし、村の病が治り、昔のような村に戻れたら、我らは、カケル様たちにどうやって恩返しをすれば良いのでしょう。」
フミは答えに困った。そして、
「今はまず、自分の役目をしっかり果たすことでしょう。お前は、エン様を助け、無事、獲物を仕留め、カワセの村にご案内するのです。そして、ちゃんと塩を運んでください。」
「はい。」
カズは、真剣なまなざしで答えた。
「私は、カケル様とイツキ様を助け、橋を掛け、御池でオオバコ草を取ります。そして、村の人たちにちゃんと病を治すようにします。今はまず、出来る事をしっかりやりましょう。」

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