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-ウスキへの道‐10.橋を掛ける [アスカケ第2部九重連山]

10.橋を掛ける
 エンとカズが出発した後、カケルとイツキ、フミの三人は、御池へ向かった。
 村を出てすぐを、一旦川沿いに進む。川幅は狭いが、切り立った川岸が続いていて、対岸に渡れない。対岸に渡れればすぐに御池なのだが、渡るべき橋が無い。昔、ナギがユイの村に滞在した折に掛けた縄橋も、大雨で流されたのだ。三人は、御池を対岸に眺めながら、川べりを進み続け、ようやく、川幅が狭まっているところにたどり着いた。そこは、大雨で川岸が崩れ、埋まってしまい、川の流れをせき止めているところだった。
「ここなら、何とか向こう岸へいけそうだな。」
カケルは、崩れた崖を少し下ってみた。その拍子に、崩れた土砂がばらばらと落ちてきた。カケルは、一旦、元の場所に上った。
「通れるには通れるが、下に下りるのは、危ないな。・またいつ崩れるか判らない・・」
「以前、ここに縄橋がありました。向こう側とこちら側に、大楠の木があって、両方に縄を張っていました。でも、大水の年、木ごと、流されてしまいました。」
そう言って、フミが川下を指差した。川底に、楠木が2本横たわっていた。そして、その木をつなぐ形で太い縄橋の残骸が見えた。
父ナギも、昔ここで橋を掛ける仕事をしたのを知り、カケルは納得した。しかし、周囲を見ると、大木も大岩もなく、あるのは竹林だけで、ここで橋を掛けるのは難しいように思えた。
「どうする?」 イツキがカケルに訊く。
「縄橋を掛けるには、基になる木か岩がないと・・・何か、別の方法を考えなければ・・。」
カケルは考えた。ここにあるのは竹ばかり、・・この竹を使うより他に方法はなさそうだった。
カケルは、太そうな竹を手で触りながら、じっと考えた。
「よし・・・この竹を使おう。・・・イツキ、小刀を貸してくれ。」
そう言うと、イツキの小刀を手にして、太くて長い竹をなんとか1本切った。
「これでは、時が掛かる。」
カケルは腰に差していた剣を抜いた。急に竹薮に風が吹き渡り、ざわざわと音を立てた。カケルは剣を振りかざし、竹めがけて振り下ろした。スパッと竹は切れた。それも、1本ではなく、数本一気に切れていた。
何かが、乗り移ったように、カケルは無心に竹を切り始め、どんどん竹薮の中に入っていった。竹の切れる音だけが響いていた。イツキとフミは、カケルが異様な様相でどんどん竹薮の中に入っていくのを見て、怖ろしくな利、その場に留まった。
竹は次々に根元から切れて倒れていく。カケルは竹薮の中を切り分け、ついに抜けてしまった。そこには、ユイの村があった。ふと我に返ったカケルは、後ろを振り返った。自ら切り倒した竹薮には、村からまっすぐ御池までの道が出来ていた。
カケルはその道をとおり元の場所に戻ると、イツキとフミが、座り込んでいた。
「どうしたんだ?」
カケルの声にイツキが
「どうしたって、訊きたいのは私のほうよ。・・いきなり竹を切り始めてどんどんいっちゃうんだもの。・・怖かったわ・・・。」
そう言って立ち上がった。フミもようやく立ち上がり、カケルが開いた竹薮を見た。
「あら・・すぐそこが村なのね・・・」
三人は開いた竹薮を見て気付いた。カケルが切り開いた場所の足元には、綺麗に敷き詰められた石畳があったのだ。
「どうやら、昔、ここに道があったみたいだな。・・多分、御池に行くために敷かれた物だろう。綺麗にすれば、便利になるはずだ。」
そう言ってから、切り倒した竹を拾い上げて、枝を切り落とし始めた。イツキも小刀を使って手伝い、フミはそれを川岸に運んだ。たくさんの竹棒が並んだ。
「これをどうするの?」
「川の中に立て、その上に何本かを繋いで橋にするんだ。・・さあ、竹と竹を繋ぐための蔦を集めてくれ・・俺は竹に少し細工をするから・・」
三人は手分けして作業を進めた。
できるだけ太くて長い竹を選び、2本を蔦で結んだ。それを、川岸に立てた。その結んだあたりに、2本の竹を掛け足場にした。次も同じように、太い竹を蔦で結んで橋桁にして、竹を2本足場に渡す。そうやって、何本も何本も竹を組んで繋げていった。川は、幅こそ広いが浅い。どんどん繋いで、向こう岸までようやくたどり着いた。
「少し、弱いな。・・よし、同じ要領でたくさんの竹を結んでいこう。そして、途中を荒縄で更に縛って強くしよう。・・・・父が掛けた縄橋を使うのが良いだろう。・・・」
カケルたちは、川底まで降りて、ナギが掛けた縄橋のところに行った。基になる木が抜けなければ、きっと今でもしっかり掛かっていたはずだった。カケルは、木に根元の縛られた縄を少しずつ解き始めた。掛けられてから長い年月が経っているはずだが少しも傷んでいない。1本1本解いては、岸辺に運び上げた。それからたくさんの竹を縛る縄に選り分けた。
しばらくすると、人の声が聞こえた。
「僕たちも何かできること、無い?」
村の子どもたちが、カケルの開いた竹薮の道を抜けて集まってきたのだった。
「手伝ってくれるのか?」
「うん、・・ねえ、できることない?」
カケルは辺りを見回してから言った。
「よし、それなら力のあるものは、縄を縛るのを手伝ってくれ。それから、小さい子や女の子には、残っている竹を割って、籠を編んでくれないか?・・それと、筍掘りもやってくれ。・・フミ様は竹籠を・・イツキは筍掘りを・・頼む。」
「判った。」「判りました。」
イツキとフミは、カケルに言われたとおり、幼子や女の子を連れて竹薮に向かった。
「よし、日が暮れるまでに、橋の元になるところまで仕上げよう。」
少年たちは、竹の枝をうち、縄で縛り、両側に掛けてさらに太い縄で縛り上げた。
「カケル様・・太い橋を掛けても、これじゃあ渡れません。」
一人の利口そうな少年が完成間近の橋を見ながら行った。
「手綱が無いと、揺れると落ちてしまいます。」
縄橋は、両側の太い縄をよりどころにできるが、カケル達が作っている橋は、ただ歩ける幅の板状のものだった。竹のしなりで揺れると確かに足元がおぼつかない。
「どうするかな?」
カケルはじっと考えていた。先ほどの少年が言った。
「桁になっている竹に縄を張りましょう。支えになる竹ももっと強くなるでしょう。揺れなくなるし、丈夫になる。」
「そうか・・・お前、名はなんと言う?」
「はい、ユウキです。」
「ユウキか・・お前は知恵者だな・・その力で、村をもっともっと良くしてくれ。・・よし、ユウキの言うように、支え柱と縄を張る棒を立てるぞ。」
日暮れ近くまで、みんなで手分けして仕事をした。
竹林3.jpg
タグ:竹橋 竹林
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