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-ウスキへの道‐11.子どもたちの笑顔 [アスカケ第2部九重連山]

11.子どもたちの笑顔
日が暮れた。カケルたちは子どもたちとともに、村に戻った。
イツキが、幼子たちと竹薮で掘り出した筍は、いくつもの竹籠いっぱいになっていた。
「やあ、たくさん取れたな。」
「ええ・・筍掘りは小さい子どもたちのほうが良いのよ。・・やわらかい土の上を歩くと、足の裏でたけのこの芽吹きを感じるの。くすぐったいのよ。・・私も小さいころ、母様から教えられたから。」
「それにしても沢山だな。」
フミが言った。
「焚き火で焼いて、村のみんなに配りましょう。きっと元気になるわ。残ったものは、皮をむいてゆでておきましょう。」

村の真ん中に、焚き火が作られた。焚き火の中に、筍を放り込み、焼けるのを待った。
そして、焼けた筍は、まずは、目を病んで家で臥せっている大人たちに届けられた。
たくさん取れた筍は、どんどん焼かれ、焼けるはしから、子どもたちは、先を競って手にして、皮をむき、新芽の柔らかいところを頬ばった。小さい子には年上のものが皮をむいて渡した。みな、無心になって食べた。
焚き火に照らされたせいなのか、久しぶりに腹いっぱい食べたのが嬉しかったのか、子どもたちの顔は、皆、輝いて見えた。
フミは、幼子たちの様子を見て、何か、勇気付けられるとともに、今までの苦しい暮らしに耐えてきた日々を思い返して、おもわず涙した。
「フミ様、どうしたのですか?」
脇にいた幼子が不思議そうな顔をして尋ねた。
「・・嬉しくてね・・皆、楽しそうで・・・」
「うん、カケル様たちのお陰だね。」
イツキが隣で聞いていて言った。
「私たちのお陰なんかじゃないわ。みんなで、力を合わせてやろうって思ったことが一番なのよ。・・これからも、みんな、自分のできることをやってね。・・そうすれば、フミ様も喜ばれるわよ。」
カケルの横にはユウキが座っていた。
「カケル様、明日は、何をしましょう?」
「そうだな・・橋は今日ほとんど出来上がった。・・次は、薬草を探さねば。それと、川を直すことかな。ユウキはどう思う?」
「薬草探しは、フミ様とイツキ様たちにお願いして、私たちは力仕事をしましょう。川を直すのは大変です。少しずつやらないと。」
「ああ、むやみにやればきっと怪我をする。少しずつ、上の岩をどけながらやろう。」
「それと・・やっぱり食べ物が足りません。しばらくは、野山から野草や木の実を集めなくてはいけませんが・・できれば、畑を・・。」
「そうか・・畑か・・・畑はどこにある?」
「御川の水を引き入れていましたから・・橋のある場所からは、もう少し下になります。」
「畑の仕事は、イツキならできる。そうだ、薬草や食べ物集めはフミ様にお願いして、イツキに畑の仕事をやってもらうことにしよう。」
「ならば・・私が年上の子どもたちとともに、川を直します。カケル様には、ひとつお願いがあります。」
「何だ?」
「・・ミコト様たちが病になられて、みな、少ない米や野草ばかり食べてきました。・・カケル様は、弓をお持ちでしょう。・・・狩をしていただけませんか?」
「狩りか・・・」
カケルは少し躊躇った。ナレの村にいたころ、一度だけ弓を引き、ミコトたちを驚かせて以来、まともに弓を引いたことはなかったからだ。
「村の皆に精のつくものを食べてもらいたいのです。お願いします。」
カケルは、ユウキの言葉に、改めて焚き火を囲む子どもたちの顔を見た。自信はなかった。だが、子どもたちの喜ぶ顔を見たいとも思った。ふと、森に潜むあの老人の顔が脳裏に浮かんだ。
「わかった。明日は、狩りをしよう。川の修理は大仕事だ。危険もある。小さな子どもたちだけでは無理だから、子どもたちは、イツキとフミ様の仕事を手伝ってもらおう。ユウキは私とともに、山へ向かおう。」
「はい。」

焚き火を囲む子どもたちの声は村の中に響いていた。
家にこもっていた大人たちも、久しぶりに村に響く子どもたちの元気な声に、誘われるようにぽつりぽつりと、広場に出てきた。子どもたちは、自分の親を見つけると、次々に駆け寄り、手を引いて焚き火の前に連れてきた。
大人たちは、皆、焚き火の前に座り、ぼんやりとしか見えない目で、カケルたちの姿を探し、手を合わせ涙した。
その様子を見ていた先ほどの小さな女の子が、フミにせがんだ。
「ねえ、フミ様、歌ってくださいな。」
その言葉を聞いて、周りにいた子どもたちも同様に言い始めた。すると、一人のミコトが傍にあった木を叩き、拍子をとった。みなが、手拍子を始めた。
フミは、立ち上がり、焚き火の周りに集まった人たちの顔を一回りじっと見た後で、大きく息を吸い、目を閉じ、歌い始めた。その歌は、子どもを寝かしつけるための子守唄だった。カケルもイツキも、初めて聞くはずなのだが、どこか懐かしい響きが心に沁みて、思わず涙がこぼれた。
次の日、相談したとおり、イツキは畑の仕事に、フミは薬草取りに、そしてカケルとユウキは山に行くことにした。
イツキは、荒れ果てた畑に着くと、まず、草取りから始めた。そして、大きな石を取り除き、鍬を使って耕した。子どもたちも交代で鍬を使った。一通り耕した後で、畝を作った。そして、長老から預かった大切な種を一つ一つ丁寧に蒔いた。
「皆、疲れたでしょう。田んぼは明日にしましょう。」
「ええっ!まだできるよ。」
「ほら、もうすぐ日が暮れる。・・今日は、もうここまでよ。」
同じ頃、御池でオオバコ草を積み集めてきたフミたちが戻ってきた。昨日作った竹籠をいくつも抱え、供をした子どもたちも随分満足げであった。
「カケル様たちが掛けた橋、すごいよ!ちっとも揺れないの。」
「御池は、綺麗だった。・・魚もたくさんいた。」
子どもたちは、皆、元気な声を響かせる。何も出来なかった子どもたちが元気に明日を考えるようになっていた。

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