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-ウスキへの道‐12.ゲン爺 [アスカケ第2部九重連山]

12.ゲン爺
カケルとユウキは、山へ向った。昨夜、ユウキの言葉を聞きながら、山に潜む老人の顔を思い出していたカケルは、何も言わず、老人の元へ向っていた。
「カケル様、狩りをするのなら、御池の周りでも良かったのではないですか?」
「ああ、きっと、御池の周りでも良いだろう。だが、ちょっと思い出したことがあってね。」
高千穂峰の北壁から流れ出る渓流沿いに、二人は歩いた。しばらくすると、森の中に一筋の煙が上がっている事に、ユウキが気づいた。
「カケル様、あそこ!煙が上がっています。・・山火事でしょうか?」
「いや・・」
カケルは、ちらと煙の方向を見ると、川岸から上がり、その方角を目指して進んだ。
茂った木々の間を抜けていくと、煙の場所までわずかなところまでたどり着いた。
「実はな・・お前に会わせたい人がいるのだ。」
カケルはそう言うと、藪を抜けた。そこには、老人の住まいがあった。老人は、焚き火の前に座っていた。その老人の顔を見て、ユウキははっとした。そして、一目散に老人に駆け寄った。
「ゲン爺?・・ゲン爺でしょ?・・」
幼い頃の記憶の片隅にあったその老人の顔、老けたといってもその眼差しから、確かに、優しい記憶の中にあるゲン爺だとわかったのだった。老人は、ユウキの顔をしげしげと見つめてから口を開いた。
「・・ユウキか・・・随分と大きくなったな・・・」
「ゲン爺、生きていたんだね・・良かった・・でも、どうして・・」
ユウキはそこまで言うとぽろぽろと涙を流し始めた。見ていた老人も同じように涙を流した。
「行方知れずでもう亡くなったと村の人から聞いていたのに・・どうして、こんなところに・・」
「・・まあ、良いではないか。それより、村の者は皆元気にしておるのか?」
ゲン爺のその問いに、ユウキは答えに困った。
「私がここにきたのは、その事をお伝えしたくて・・」
カケルが、村の状況を老人に話した。
「そうか・・流行り病か・・・近頃、山へ狩りに来なくなった事を気にしてはいたのだが・・」
「・・カケル様達が、今、村を救って下さっているのです。・・家々も直し、橋も掛け、畑も・・もうじき病も治せると・・ありがたい事です。」
ユウキは、カケル達の様子を、ゲン爺に話した。
「そうか・・そうか・・ありがたい事じゃな・・どうやって恩返ししようかのう。」
「いえ、私たちは今アスカケの途中です。自分たちのできることをしっかりやるのがアスカケの道なのです。・・それより、ぜひ、ゲン様にもお力になっていただきたいのです。そのためにユウキを連れてここに参ったのです。」
ゲンは怪訝な顔をしながら訊いた。
「こんなワシに何か役に立てる事があると言うのか?」
「はい。・・村には食べ物がほとんどありません。・・野草を摘んで食べ繋いでいるのです。・・昨日、御池までの橋を掛けました。御池にはたくさん魚がいるそうです。・・子どもだけでは、狩りは無理でしょう。ですが、池の魚を捕らえることが出来ればと・・・。」
「ほう・・そうか・・ワシの魚とりの技が役に立つと・・・」
「はい。幼子たちも皆、村の役に立てるならと、毎日元気に働いております。・・昨夜、ユウキが、村人に精のつくものを食べさせてやりたいと言い、狩りをする事にしました。ですが、狩りはミコト様達が元気になられれば出来ましょう。それまで、魚を取れればと・・。」
「じゃが・・この不自由な身じゃ・・役に立てるのかどうか・・・」
それを聞いて、ユウキが答えた。
「私が、ゲン爺の足になりましょう。」
「そうか・・そうか・・・」
ゲン爺は、村に戻る事に同意した。
「これを土産にしよう。少しは腹の足しになるはずだ。」
そう言うと、洞窟の奥にあった、干し魚の束をユウキに持たせた。
「そうだ、これをわすれてはいかん。」
ゲン爺は、イツキが置いていった「塩」の袋を懐に入れた。
村までの道のりは、カケルが老人を背負い、夕方には、村に戻ってきた。
村の広場には、イツキとフミが子どもたちとともに、カケル達の帰りを待っていた。
「あっ!カケル様たちが戻ってこられた!」
村の大門の脇で、帰りを待ちわびて様子を見に来ていた子どもが、叫びながら広場に戻ってきた。皆、その声を聞いて大門まで迎えに出た。
「ゲン様?・・ゲン様ではありませんか?」
フミは、カケルに背負われて村に戻ってきた老人を見て、すぐにゲンだと気づいて駆け寄った。
「おやおや・・これは・・フミ様ですな?・・いやあ、綺麗になられた・・もう立派な姫様ですね。・・お久しぶりです。・・長様はどうしておいでか・・」
すぐに、館にいる長老の下へ使いが走った。しばらくして、長老が手を引かれながら広場にやってきた。
「ゲン、ゲンか?・・達者でおったのか?・・生きておったのか・・」
見えぬ目を長老はゲンの姿を探した。ゲンは長老の手を取り答えた。
「ずっと・・山奥に潜んでおりましたが・・カケル様に村の様子を聞き、何かお役に立てるならと・・戻ってまいりました。」
お互いに手を強く握り、再会を喜び、涙を流していた。フミも涙した。
その夜は、ゲンが携えてきた干し魚を焼いて、夕餉に出された。
食事の後には、子どもたちは皆、ゲン爺を囲んでいた。そして、昔の話や、魚とりの話を目を輝かせて聞きいっていた。
その時、大門を叩く音がした。その音に気づいたユウキが、子どもたち何人かで大門に向った。
「カズ様が戻られたぞ!」
その声に皆、大門に迎えに出た。カズは、カワセの村の事情と塩の到着が遅れる事を知らせるため、休むことなく歩き続け、ようやく辿りついたのだった。フミは、カズに水を飲ませ、広場の焚き火の前に座らせた。
「カワセの村には首尾よく着けました。途中、鹿を獲りました。・・ですが、カワセの村はここよりも厳しい暮らしをしていました。食べ物も無く・・鹿はカワセの村で分けました。塩はカワセにも無く、今、エン様が村の若者とともに、モシオの村まで調達に向われました。」
「そうか・・では、今しばらく時が掛かるな・・」
「それで、エン様が言われるには、カワセの村の様子をカケル様に伝えて欲しいと。カケル様なら、カワセの村も救って下さるだろうと・・・。」
カケルはイツキやフミの顔を見た。イツキが笑顔で頷いた。
フミも頷いて同意した。長老も、
「カワセの村には随分世話になっておる。本来ならワシが行くべきだが、この身では叶わぬ。カケル様、どうか、わしたちの代わりに、カワセの村を救ってくだされ。」

干物の束.jpg
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