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-ウスキへの道‐15.弓矢の力 [アスカケ第2部九重連山]

15.弓矢の力
煙は徐々に大きくなった。その様子から、焚き火の類ではなく、家か館かが燃えているのだと判った。
「おい!カケル、モシオで火事か?」
「ああ・・どうやらそうみたいだな。」
「行ってみよう。」
エンがそう言って一足早く走り始めた。カケルは、横たえた娘をどうしたものかと様子を見ると、ぼんやりと娘が目を覚ましたようだった。
「モシオの村に向うが・・どうする?」
「兵が・・ヒムカの兵が来て・・村の皆を脅しているんです。」
「何だって?・・火が出ているようだが・・」
カケルの言葉に、娘は驚いて立ち上がり、村のほうを見た。
「いけない・・爺様・・いや、おさ様が・・危ない・・」
その言葉から、カケルは、村で起きている事が凡そわかった。
「よし、皆を助けに行こう。」
カケルはそう言うと、娘を抱え上げ、風のように走り出した。そして、先を走る円を追い越し、村の大門に着いた。
モシオの村では、村人たちが、家々の隅に隠れるように座って、館の前の広場の様子を伺っていた。カケルとエンもその方角を見た。
草色の衣を纏い、頭には黒い頭巾を被り、眼だけを出した異様は雰囲気を持った5人ほどの屈強の男たちが、剣を手にして、広場の中をうろついている。その真ん中には、白髪の老人が跪いていた。どうやら、、後ろ手を縛られているようだった。頭と思しき男が、その老人に近づいて、怒鳴った。
「さあ、早く、塩を出せ!さもないと、この剣がお前の首をはねてしまうぞ!」
「好きにすればよい!お前たちに分けてやる塩など無い!」
「こいつ、われらをヒムカの王の使いと知ってるだろうが!俺たちに逆らう事はヒムカの王に逆らう事だぞ!判ってるのか!」
「ふん・・悪しき心を持つ王など、王ではないわ!」
「このやろう!」
男は剣を振りかざした。
「いかん!」
カケルは咄嗟に、背中の弓を取り、空に向かって引いた。甲高い笛のような風きり音が響いた。
「ん?」
その音に、剣を振り上げた男の手が止まり、空を見上げた。
ドスン!カケルの放った矢は空高く打ちあがり、ほとんど垂直に近い角度で、男と老人の間を分け入るように突き刺さった。
「わ・・わわあ・・」
剣を持ったまま、驚いて男はその場に座り込んだ。他の男たちも地面に響いた音に驚いて立ち止まった。
「ど・・どこから・・飛んできた?」

カケルは大門の前で、弓を放ったままの格好で仁王立ちしていた。カケルは、封印された力を久しぶりに使い、自分が思った以上の力で矢が放たれた事に、動揺していた。弓を引いた腕はぶるぶると震えたままだった。エンはカケルの異様な様子に気付き声をかけた。
「カケル?大丈夫か?」
その声でカケルははっと我に返った。そして、男たちに向って叫んだ。
「乱暴はやめるんだ!すぐにこの場から立ち去れ!」
「何だと!生意気な!体は大きいようだが・・その声、まだ子どもであろう!」
広場をうろついていた男の一人がそう言いながら、カケルのほうへやってきた。そして、剣を構えながら更に続けた。
「われらは、ヒムカの王の使いだ。・・邪魔をするなら、お前たちも命は無いぞ!」
そう言って、わざとカケルの顔辺りに剣を押し付けて見せた。
「おや・・後ろに隠れているのは、あの爺の孫娘だな?・・お前も、王が欲しておられる。塩とともに献上品で連れて行くぞ。さあ、来い!」
カケルは、両手を広げ、男を睨みつけ、止めた。
「こいつ、本気でわれらに逆らうつもりか?」
その様子を見ていたエンが、少し怖気づいた様子で言った。
「カ・・カケル!・・?」
「王は国を守るものではないのか?何故、村人を虐げるのだ。本当に王の使いなのか?」
「こいつ、まだ言うか!」
逆上した男はついに剣を振り上げた。カケルは、さっと身を翻してその刃を交わした。
「生意気な・・」
男はさらに剣を振る。
カケルの心臓がドクンと音を立て、両腕が急にぐんと膨らんだ。無意識にカケルは剣の柄に手を掛け、一気に剣を抜いた。男の振り下ろす剣とカケルの剣が、キンと激しい音を立ててぶつかる。次の瞬間、男の剣は根元からボキリと折れて、横の家の屋根まで飛んで行った。
その様子を見ていた別の男が慌てて剣を抜き、カケルに襲い掛かる。カケルは同じように剣で受けた。また、同じように男の剣は根元から折れて飛んで行った。今度は他の二人が同時にカケルに襲い掛かる。しかし、カケルは難なく交わし、剣を跳ね飛ばしてしまった。
その様子に、頭と思しき男が、叫んだ。
「それまでだ・・これ以上、歯向かうなら、この者の命は無いぞ!」
そう言うと、自らの剣を老人の首に当てた。
「卑怯な・・」
カケルの後ろにいたエンが、咄嗟に弓を引いた。
矢は、カケルの肩越しにピュンと音を立て、まっすぐに、剣を構える男の右手に突き刺さった。
「ぐわあっ・・・」
男は、もんどりうって倒れ込んだ.その隙に、カケルが老人に駆け寄った。
その様子を見て、村人たちが家の影から出てきて、男たちを取り囲んだ。小さな男の子が、石礫を投げつける。それをきっかけに、取り囲んだ村人が男たちに殴りかかった。
「止めなさい!止めなさい!」
分け入ったのは先ほどの娘だった。その声に村人は静まった。男たちは、抵抗する力を失い、すっかりのびてしまっていた。
「姫様・・・」
「もう良い。この者たちはもう我らを脅す事はない。それより・・皆、無事か?」
村人たちはそれぞれに顔を見合わせて様子を伺った。家が1軒焼けたが皆命に別状は無かった。
その娘は、カケルたちを見て、腰を落とし頭を下げた。村人たちもそれに習った。

村広場.jpg


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