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-ウスキへの道‐16.塩の代物 [アスカケ第2部九重連山]

16.塩の代物
「本当にありがとうございました。・・あなた方のお陰で皆無事です。・・ええと・・」
「我らは、高千穂の峰の向うにあるナレの村の者です。アスカケの途中、ユイの村、カワセの村を経てここへ参りました。カケルと申します。」
「エンです。・・姫様ですか?」
「クレと申します。」
長老が、村人に支えられて、カケル達のところへやってきた。
「危ういところ、お助けいただき、ありがとうございました。して・・ナレの村の若者がこんなところまで・・何の用事じゃな。」
「我らは、カワセの村の使いで参りました。大水で作物が取れず、困窮しておりました。特に、塩が尽きてしまい、この村で分けていただこうとやってきたのです。・・それより、この男たちはいったい何者ですか?」
カケルの問いに長老は答える。
「この男たちは、ヒムカの兵。これまでも、何度か、塩や食糧の調達に来ておったのですが、今日は、あるもの全てを奪おうと乱暴を働いたのです。・・・ヒムカの国も相当逼迫しているようです。・・」
5人の男たちは、荒縄で縛られ、広場の真ん中に座らされていた。
「何ということだ・・・カワセの村では、ミコト達がヒムカの兵に行ったきり戻ってこず、食べる物もなくひもじい暮らしをしているというのに・・。」
縛られた兵の一人が、その言葉を聞いて、声を上げた。
「何だって!」
「おとなしくしてろ!」
村人に小突かれた。カケルがその男に訊いた。
「どういうことだ?」
「俺は、カワセの村のものです。・・大雨の後、作物が取れず困っている時に、ヒムカの使いが来て、兵になれば、カワセの村に食べ物を届けてくれるという約束だった。だから、こうやってヒムカの王の命令であちこち食料の調達に・・しかし・・カワセの村がそんな・・・」
「騙されたという事か・・・」
もう一人の男も、俯き泣きながら言った。
「俺の女房は赤子を抱えている・・無事でいるだろうか?・・・」
「貴方もカワセの村のミコト様ですか・・」
「お願いです。我らをカワセの村にお返し下さい。すぐにも、村に戻り、皆を助けたいのです。」
カケルは長老を見た。長老はそれを聞いて答えた。
「・・我らにしたことを悔いておるのならそれで良かろう。・・カワセに戻りたいのなら解放そう。・・」
そう聞いた、他の二人が声を出した。
「我らは・・ユイの村の者です。・・カワセの奥にある山里です。・・ユイの村は・・どうなっていますか?」
エンが答える。
「ユイの村も、カワセと同じさ。それに、流行り病で皆動けずにいた。・・我らは、ユイの村で塩が無くて、カワセに向かい、カワセにも無かったからここへ来たのだ。皆、村々は苦労している。」
「何てことだ!・・きっと、他の村も・・ヒムカの国に騙されてるんだ・・くそう!」
男たちは悔しそうに地面を蹴った。
それを見て、脇にいた、腕を射抜かれた兵の頭の男が、ふてぶてしい表情で言った。
「ヒムカの王は、戦支度の最中だ。お前たちがのうのうと生きて居れるのは、我らヒムカの兵がいるからだ!判っておるのか!」
カケルはその言葉を聞いて、男の前に行き詰め寄った。
「ヒムカの王は、誰と戦をしている?お前は、その敵を見たことがあるのか?」
男は返答できなかった。
「我が村のミコト様、アラヒコ様が旅から戻り話された。ヒムカの王は、居もしない敵を恐れているのだと。海を越えたイヨの国は豊かな国。ヒムカに攻め入る事など考えてもおらぬそうだ。北の山国、トヨの国は貧しく日々の暮らしさえままならぬと聞いた。お前たちヒムカの兵は誰と戦をするつもりなのだ?」
男は答えに窮して口を閉ざした。

長老は、4人の男の縄を解かせた。そして
「もう良いだろう。悔い改めておるようじゃ。そなたたちは、すぐに村に戻り、村を救うのだ。」
男たちは、長老の前で跪き、神妙な面持ちで話を聞いた。
「ユイの村も、カワセの村も、塩を欲しております。特に、ユイの村は流行り病を治す為に、塩が欠かせません。・・ですが・・われらは代物を持ってきておりません。・・」
カケルは、村の事情を話した。
「何を言われる。塩の代わりになる物など・・我が命、いや、我が村を救ってくれたのじゃ。これ以上の品物などあるはずも無い。・・塩は、必要なだけ持って行くが良い。そうじゃ、村に帰るお前たち、背負っていけるだけもって行きなさい。そして、これから先も、いつでも必要な時、取りにくればよい。・・代物など要らぬ。・・そうじゃ、その折れた剣が証じゃ。これは我が村を救った証拠、お前たちの罪の証拠である。これを持参すれば、塩を分けることにしよう。・・良いな、村の衆。」
まわりで様子を見ていた村人も納得した。

「長老様、この男はどうしますか?」
「腕をやられていては何もできまい。」
「ですが、俺は家を燃やされたんです。このまま解き放つなんて納得できない。」
幼子を二人連れた妻を脇に置いた男が、怒りが収まらない様子で言った。
「判った。それなら、この男は、門の外に解き放とう。もう日が沈む。器量があれば、国へ戻る事もできよう。だが、ここらは腹を空かせた野犬も多い・・明日まで命があるか、保障は出来ぬが・・。」
「それなら良いだろう。」
先ほどの村人も納得した。
兵の頭だった男は、荒縄で縛られたまま、大門まで引きずられていった。
「止めてくれ!止めてくれ!助けてくれ!・・・」
半泣きで叫ぶ声を聞きながらも、村人の怒りは収まらず、そのまま門の外へ放り出され、大門が閉められた。

柵.jpg

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