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-ウスキへの道‐18.モシオの砦 [アスカケ第2部九重連山]

18。モシオの砦
「クレ様・・クレ様!お願いがあります。今宵、ミコト様たちを集めていただけませんか?」
「いいですが・・何を?」
「はい、この村を二度とヒムカの兵に攻めさせない為・いや・・この村を守る術を思いついたのです。・・そのために、ミコト様たちのお力をお借りしたいのです。」
「判りました。皆を館へ集めましょう。」
夜には村のミコト達が集まってきた。
「皆さんに、相談があります。・・ヒムカの国の兵はきっとまた現れるでしょう。その時の備えをしておきたいのです。」
ミコト達もまた同じように考えていた。だが、兵と戦う備えなど無理だとも思っていた。
「今度は、もっと大勢でやってくるでしょう。おそらく、この村のものを根こそぎ持っていくつもりで、村人の命さえも奪われるかもしれません。」
「戦うのか?」
一人のミコトが口に出した。ミコト達は皆顔を見合わせ、無理だろうと言い合った。その様子に長老が口を開いた。
「カケル様、皆の言うとおり、この村は戦う力など持っておりません。ヒムカの兵は屈強で、弓も剣も鍛えておる。我らがいくら鍛えたところで歯がたつわけがない。」
「はい。私もそう思います。・・少し抵抗できたとしても、いつかきっと滅ぼされるだけです。ですから、戦わずにこの村を守る術を考えるのです。」
「戦わないで、村を守る事などできるわけが無い。」
誰かが声を上げた。皆も同調した。
「ミコト様、皆様、お聞き下さい。・・私は今日、村をぐるっと見てきました。・・ここは、海辺にありながら、小高い丘の上に開けています。獣柵をよく見ると、強い土塁の上に立てられていました。おそらく、いにしえの人々が、水害から村を守るために、高く築きあげた場所なのでしょう。よくよく見ると、村の下にも一段積み上げられた場所がありました。海から見ると3段に積みあがった土塁と土盛りになっていました。これを使って村を守りたいのです。」
そこまで聞いて、長老が言った。
「確かに、我等の先祖は、海からこの地へ着き、もともと中洲だった場所に、山から土を削りだし、高く積み上げたと聞いておる。・・だが、それをどう使うのだ?」
「はい。一番高いところは、今、村の人々が住んでいます。ここの柵をもっと強固なものにしましょう。大門ももっと重く強いものにしましょう。締め切れば、簡単には開けないほどのものが良いでしょう。」
「だが・・そうすると、今のように人の行き来が出来なくなるのではないか?」
「ええ・・今回も、人の出入りが自由に出来るからこそ、兵も村の奥深くまで入り込みました。まずはそれを防ぐ事です。・・物のやり取りの場所は、大門の外。先ほど言った一段低い場所を使いましょう。太い道を作り、小屋を立てましょう。そこで、ほかの村の人たちが自由に物のやり取りが出来るようにするのです。」
「なるほど・・・」
他のミコト達も、カケルの話を徐々に熱心に聞き入るようになっていった。
「小さな蔵や、寝泊りできる場所もそこに作ればいい。きっと、もっと多くの村から人が集まるはずだ。そうなれば、俺の獲った魚も欲しいという奴が増えるはずだ!」
そう言ったのは、昼間、小船で魚を獲ってきたコジリであった。
「コジリ様でしたか?・・この村にはあなたが持っているような舟はどれくらいありますか?」
「舟?・・ああ、俺のも入れて5艘ばかりかな?・・舟をどうする?」
「はい、舟は、兵が攻めてきた時に逃げる手段として使うのです。・・今は漁のために浜辺に置かれていますが、この村の西側の大川に移すのです。村の裏口からすぐに乗り込むことが出来るようにするのです。・・それには、あと5艘は必要です。」
長老はここまで聞いて、カケルの考えが凡そわかってきた。
「兵が攻めてきた時、柵で村を守りながら、その間に村人は川を渡って逃げるという事か。」
「はい。・・塩や産物は、兵にくれてやればいいのです。村人さえ無事なら、またいつでも作る事もできましょう。・・無理に戦い、命を落とす事こそ愚かです。・・それに・・」
カケルは、次の言葉を言うのを躊躇った。
「それに、何じゃ?」
「はい。ヒムカの兵と言っても、あの者たちのように、きっと、貧しい村から集められたミコト様たちに違いありません。村に戻れば、皆様と同様に働くべき人たちなのです。皆、ヒムカの王に騙されているに違いない。だからこそ、戦うべきではないのです。」
「カケル様の言われる通りじゃ。・・我等の村は、海の幸に恵まれ豊かであるが故、兵に出る者などおらなかった。だが、いつ我らもそうなるかわからぬ。・・戦わず、逃げて命を守る事、そうじゃな。・・・皆、どうだ?」
皆、納得したようだった。
「ありがとうございます。早速、明日から仕事に入りましょう。・・それと、もうひとつ、お願いがあります。」
「他にも?」
「はい。村のはずれの松の木に登りました。遠くまで見通せました。・・あの松ほどに高い物見櫓を作りましょう。遥か遠くからやってくるヒムカの兵を見つける事ができれば、備えも一層生きましょう。」
「そいつは良い。兵だけじゃなく、海の様子が見れれば、きっと漁にも役に立つ。舟で村に戻る時の目印にもなる。」
次の日から、村総出で、作業を始めた。土塁を更に固める者、柵を高くするもの、村の下に道普請をし、小屋を作るもの、老若男女みなできることを分担してこなした。見る見るうちに仕事は進んだが、やはり、カケルが考えた砦を完成させるには随分と時がかかり、そろそろひと月が経とうとしていた。最後に、高い高い物見櫓を立てる事が出来た。カケルと長老は、完成した物見台に上がり、周囲を眺めた。
「これなら、遠くからの兵などすぐに見つける事ができますね。」
「ああ・・物見台の役は、このわしの仕事だ。・・村の長として、村の者たちを守る役じゃ。・・本当にカケル様には何と礼を申してよいやら・・」
「良いのです。アスカケの身、自分のできることを精一杯努めることで、自らの生きる意味を問うのがアスカケです。・・長老様、私は明日には、村を離れます。カワセとユイの村の様子が気がかりで・・それに、イツキをウスキの村に送り届けねばなりません。」
「・・引き止めるのはやめましょう。カケル様にはもっとやるべき事がたくさんあるのですな。・・また、いつか、この村へ来てください。きっと、今よりもっともっと良い村になっているでしょうから。」
物見櫓の下のほうから声が聞こえる。何か、叫ぶような悲鳴のような声だった。カケルと長老が、下を見ると、塩焼き小屋の中で見た少女が、村人が止めるのも聞かず、どんどん登ってくるのだった。

モシオ砦.JPG
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