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-ウスキへの道‐19.貝の首飾り [アスカケ第2部九重連山]

19.貝の首飾り
「おい!アスカ!危ないからやめな!」
下からの声など気にもせず、どんどん登ってきた。アスカはなんの躊躇いも無く、物見台に立つと、遠くに広がる風景をじっと見た。何かを探しているように、じっと遠くを見ている。そして、一筋の涙を流した。
アスカは5歳の頃一人舟に乗りこの浜に流れ着いたのだと、クレから聞いていたカケルは、アスカが遠くにあるはずの生まれ故郷を探しているのだと直感した。
しかし、目の前に広がるのは静かな海だけ。島影一つ見えなかったのだ。
「長老様!」
カケルは、アスカの様子に驚いている長老に向って言った。
「長老様、物見台の見張りは、長老様だけでは無理でしょう。いつ兵が来るか判らず、四六時中ここにいる事になります。・・村の皆で交代に見張り役をやりましょう。」
長老はカケルの提案の意図を察した。
「おおそうだな。わしもそう若くない。この物見台に登るのも骨が折れる。・・そうだ、村の若い衆や子どもたちにも頼むとするかな・・」
突っ立ったまま遠くを見つめていたアスカが、長老の言葉を聞いて振り返った。
「なあ・・アスカ、早速、お前の当番にしよう。・・塩作りの仕事の合間にここへ来て見張り役をやってくれるか?」
アスカは、大きく首を縦に振った。そして、カケルの顔を見た。
「良かったな。」
カケルと長老は順番に物見台から降りた。アスカはそのまま一人遠くを見つめていた。

次の日の朝早く、カケルは長老とクレに別れを告げて、村を出ることにした。餞別にと、塩を一袋懐に入れてもらい、カワセの村を目指す事にした。
大門を抜け、新しく出来た小屋通りの様子を見てから、浜に出た。
美しい海岸、心地よい海風を感じながら、いつまでも穏やかであって欲しいと祈った。
「カケル様。またいつかこの村に来てくださいますね。」
声をかけたのはアスカだった。アスカは、包みを一つ持っていた。
「ああ・・アスカケの道を見つけたら必ずまたここへ来よう。」
「約束ですよ。」
そう言って、アスカはカケルに包みを渡した。開くと、巻貝を繋げた首飾りが入っていた。
「これを私の身代わりに、アスカケのお供をさせてください。」
「ああ・・そうしよう。アスカもしっかり生きるのだぞ。」
「はい。」
カケルは首飾りを掛けて、にっこりと笑ってから、アスカの頭を撫でてやった。そして、
「では、さらばだ。」
そう言って、カワセの村に続く川沿いの道を一気に走り出した。高台にある村の大門では、多くの村人が別れを惜しむように手を振り、カケルの名を呼んでいる。カケルは、一瞬立ち止まると深々と村に向って頭を下げ、そしてまた、風のように走り始めた。
峠を二つ越え、一気にカワセの村まで到着した。
カワセの村は、以前とは違い、人の声が明るく響いていた。
「お!カケルじゃないか!」
エンが、館の屋根の上からカケルを見つけ、飛び降りてきた。
「案外、早かったな。」
「ああ・・で、どうだ?」
「見ての通りさ。一緒に戻った男たちが、力を合わせて何とか村を立て直そうと必死でさあ。ここのところ、体がきつくて、ちょっと屋根の上で休んでたんだ。」
「ユイの村は?」
「俺も一度行ったんだが、イツキがフミ様と一緒に、眼の病の治療をやってる。・・すぐに眼が見えるようになったものも居たようだ。・・カケル、すぐにユイに戻るか?」
「そうだな。ここはもう大丈夫だろう。すぐに行こう。急げば、日暮れまでには戻れるだろう。」
「判った、すぐに支度をしてくる。」
そう言って、エンが館に入ると、長老が出てきた。
「カケル様・・・此度は、本当に何とお礼をすれば良いやら・・ミコトも二人戻り、なんとか元気も出てまいりました。・・すぐに出発なさるとか・・ゆっくりして行かれれば良いのだが・・」
「ありがとうございます。でも、ユイの村がどうにも気がかりで・・すみません。」
そう言っているうちに、エンが荷物をまとめて出てきた。
「さあ、行こうか。」
大門を出たところで、リキが待ち構えていた。
「カケル様、俺には挨拶なしですか?」
リキは、両手に麻袋を抱えている。
「これをお持ちください。・・山で集めた椎の実です。」
「判った、じゃあ、ユイの村への土産に、一つ分けてもらおう。リキ、これからも長老様やミコト様を助けてくれ。いつかまた会おう、お互い、立派なミコトになれるよう精進しよう。」
「ああ・・そうする・・・そうします。」

カケルとエンは競い合うように山道をユイの村、目指して走った。
「エン!随分、足が速くなったな!」
「そりゃあ、お前と一緒に旅してるんだ、鍛えられるさ。」
峠を越えたところで、二人は一休みした。
「おい、カケル、その首飾りは何だ?・・まさか、クレ様に?」
エンが少しうろたえた表情で聞いた。
「いや・・村の少女から餞別に貰ったのだ・・」
「何だ、子どもからか・・」
そう話しつつも、カケルは、アスカの別れ際の様子を思い出していた。
あの時のアスカは、幼い少女ではなかった。どこか、母を思い出させるような表情をしていたのだった。
「さあ、あと少しだ。きっとイツキは首を長くして待ってるに違いない。行こう。」
カケルは立ち上がった。
「そうだな、フミ様はきっと俺のことを待っていてくれるはずだ。」
「なんだ、エン。クレ様とかフミ様とか、おかしな奴だな!」
そう言いながら、二人は峠の下り道を一気に駆け下りて、ユイの村へ向った。

貝の首飾り.jpg
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