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-ウスキへの道‐20.ユイからウスキへ [アスカケ第2部九重連山]

20.ユイからウスキへ
魚取りから戻った少年が、カケルたちの姿を見つけ、慌てて村に駆けて行った。
「カケル様が戻られた!」
その声は村中に響き、子どもたちだけでなく、大人たちも大門に集まってきた。最後の石段を登りきったところで、大勢の村の人々が歓声を上げて迎えている様子に、カケルとエンは戸惑った。そしてそのまま、村の皆に取り囲まれ、揉みくちゃになりながら村の広場に入って行った。子どもたちは、カケルの前に、魚や野菜、木の芽等を見せて、口々に自らの手で取ったものだと自慢するように話しかける。皆、それぞれに話しかけ、カケルは一人ひとりの肩や頭や背中を撫でて褒めた。次から次へとカケルの周りに子どもが集まってくる。エンは、その輪の中から這い出してきた。
「何だか、カケルは凄い人気者だな・・・」
あきれた顔でその様子を見ていた。
「ほんと、今まで頑張ってきたのは、私立ちなのにね・・」
イツキはため息をつきながらも、子ども達に囲まれ、幸せそうなカケルの顔を、同じくらい幸せそうに見ていた。
「ほら、みんな、カケル様たちはお疲れでしょう。・・お話はまた後にして・・少しお休みいただいたほうがいいでしょう。」
皆を静めたのは、フミであった。
「フミ様、ただいま戻りました。長い間、留守にして申し訳ありませんでした。」
カケルは跪いて、帰還の挨拶をした。
「そんな・・やめてください。・・・カケル様の活躍は、エン様から伺っております。我が村だけでなく、カワセやモシオまでも救ってくださるとは・・彼方は尊いお方です。さあ。」
「それにしても、村の皆様、なんとお元気になられた事か・・子どもたちも元気一杯だ。これならもう大丈夫でしょう。」
「はい、イツキ様が熱心に、眼の病を治療してくださって、もうほとんどの者は、以前と同じように動けるようになりました。」
ミコトたちも母親たちも、皆、カケルの姿を一目見ようと広場に集まっている。そして皆、手を合わせ、崇めるように見つめていた。
カケルは、カワセの村のリキから分けてもらった椎の実の袋を一人の子どもに渡した。子供たちが集まり、中を覗いて喜んだ。
「みんなで分けよう。カワセの村の力自慢、リキが取ったんだ。さあ。」
子どもは袋を抱えて、大人たちに見せに行った。
広場が静かになった頃、カケルはようやくイツキと話をする事が出来た。
「イツキ、元気だったか。・・よく頑張ったな。」
カケルの言葉に、イツキはぽろぽろと涙を零した。
「・・・ほんと、・・・もう・・戻ってこないのかと・・心配したんだからね!」
「待たせてすまなかった。モシオの村で思った以上に時が掛かる大仕事になってしまった。」
そう言って、カケルはイツキの肩を抱いた。その様子に、フミもエンももらい泣きをしてしまっていた。
カケルたちは、長老に挨拶するために、フミとともに館に入った。長老は、横になっていた。
「おさ様、ただいま戻りました。」
長老はゆっくり体を起こそうとした。眼の病はすいぶん良くなっていたのだが、それ以上に体力が落ちていてほとんど動けないままであった。
「もう、年も年じゃな・・長くなかろう。・・じゃが、生きているうちに、昔のような村に戻るとは思っておらなかった。本当にありがとう、そなたたちのお陰じゃ。」
「いえ・・日ごろから強く村人を支えてきた長老様、フミ様のお力です。われらは、ほんの少しお手伝いをしただけです。」
挨拶を終え、館を出ると、広場に、篝火が焚かれ、カケルたちを迎える宴の支度が進んでいた。
「まだ、贅沢は出来ませんが、村の皆の感謝の気持ちです。今宵は楽しみましょう。」
御池で取れた魚や森で取ってきた野草、それに、椎の実。皆が持ち寄ったものを目の前にしながら、皆、カケルとエンの話を熱心に聞いた。その中に、モシオであった二人のミコトが居た。ミコトたちは、そっとカケルの傍に来て、頭を深々と下げ、詫びた。
「もう良いじゃないですか。・・あなた方は村へ戻り、やるべきことをやられている。それだけで良いじゃないですか。これからも、フミ様をお助けください。」
その言葉に二人のミコトは救われた想いだった。
「カケル!カケル!」
子どもたちに支えられながら現れたのは、ゲン爺だった。
「ゲン様!お元気でしたか。・・子どもたちはいかがですか?」
「ああ、皆、わしより魚取りは上手くなったようだ。もう教える事もなさそうだぞ。」
そう言いつつも、とても嬉しそうな笑顔を見せていた。
カケルたちは、夜明けとともにユイの村を後にした。
イツキが、「村の大勢に見送られると別れが辛くなるから」と言い、長老やフミ、ゲン、ユウキにだけ別れを告げた。
長老が、別れ際にウスキまでの道を教えてもらった。
「村を出てすぐ、左に折れると、山沿いに続く道がある。途中、3日ほど掛かるが、サイの村に着く。・・昔、ヒムカの国の王が開いた村だ。・・そこから、先は判らぬ。」
三人は、教えられた道をとりあえず、サイの村を目指して進んだ。
低い山々の間を流れる渓流沿いを歩きながら、それぞれに、ナレの村を出て今日までの事を思い出していた。
「フミ様は強くて美しかったが、クレ様も穏やかで美しかったな。」
エンが不意にそう呟いた。イツキはその言葉を聞き逃さなかった。
「クレ様って?」
「ああ、モシオの村の姫様だ。・・背が高く、手足も長かった。・・海で育ったからか、色黒だったが・・ああいう姉様が居たら良かったなあ。・・しかし、姫様というのは皆美しいな。西都にも姫様が居るかなあ。」
エンは近頃、色気づいてきたのか、しきりにこういう話をするようになった。
「なあ・カケル?お前は、フミ様とクレ様、どっちが綺麗だと思う?」
「何、訊いてるのよ!」
イツキが少し苛立って言った。
「何のことだ?」
カケルは、二人の話を聞いていなかった。カケルは、モシオで出会ったアスカの事を思い出していた。
三人は途中、野鳥やウサギを狩り、野宿をしながら、西都の村を目指した。
渓流.jpg
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