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-九重の懐‐2.囚われの身 [アスカケ第2部九重連山]

2.囚われの身
カケルは、手の痺れる痛みで目を覚ました。気がつくと、4人は、館の広間の床に、背中を合わせて座らされたうえに、きつく荒縄で縛られていた。
「おい、エン、イツキ、大丈夫か?クスナヒコ様、大丈夫ですか?」
皆、目が覚めた。
「何だ、これ?誰の仕業だ!」
その声を合図に、広間にたくさんの人が入ってきた。
「目が覚めたようだな。さあ、どうしてくれよう!」
そう言って、一人の老人が、四人の周りをぐるぐると回り、クスナヒコの前で立ち止まると、持っていた杖で、クスナヒコの肩を叩いた。
「この衣服は、ヒムカの兵のもの。一体、ここで何をしていた?」
「いや・・俺は・・ただ・・」
返答に困っていると、近くに居た子どもが言った。
「こいつ、墓荒らしだ!昨日、墓を掘り返してたんだ!」
「ふむ・・ヒムカの愚かな王はついに死人を取って食おうとでも言うのかな?」
蔑んだような目つきで、老人はクスナヒコを睨んだ。
「ふん・・何とでも言え!もう俺はヒムカの兵ではない!」
クスナヒコはそう言ってぷいとそっぽを向いた。

「お前たちは何者だ?兵では無さそうだが・・・」
「我らは、アスカケの途中、この村に立ち寄っただけです。」
「ほう・・アスカケとは・・懐かしい・・言葉だ。・・かつて我が一族にもそうした掟はあったが・・まだ、続けておる村があるとは・・・で、どこに行くつもりだ?」
「いや・・それは・・」
「おかしいのお。・・アスカケは男の掟ではなかったか?何故、若い娘もいるのだ?お前が、どこからか浚ってきたのか?」
そう聞いてイツキが声を上げた。
「私は、ナレの村のイツキ。このカケルとエンと三人で、アスカケに出たのです。」
その声を聞いた老婆が近づいてきて言った。
「今・・ナレの村と申したか?」
「はい、高千穂の峰の奥深く、我らの村、ナレがあります。」
「おお・・懐かしい・・ナレとな。・・ならば、ナギ様を知っておるか?」
カケルが答える。
「はい、ナギは我が父。昔、アスカケにて、この村も訪れたと聞いております。」
「そうか・・ナギ様の息子か・・・ナギ様は、すばらしき勇者だった。大王様にもいたく気に入られて・・・そうじゃ、さすれば、お前はナミ様の息子という事か。・・・ともに旅をしていたセツ様は如何なされた?」
「セツ様は、イツキの母でございます。」
そう聞いて、その老婆は腰が抜けたように、その場に座り込んだ。
「どうした、巫女様!」
先ほどから話をしていたのは、どうやら、この村の巫女のようだった。
「すぐに、この方たちの縄を解くのじゃ・・ほら急げ。」
巫女はそう言ってから、イツキの前で、床に這い蹲るほど深く頭を下げた。そして、ゆっくり顔を上げると、こう言った。
「イツキ様、貴女の定めは、存じておりまする。ここにおいでになったという事は、ついに時が来たという事。わが命あるうちににお会いできるとは・・・ありがたいことです。」
そして、ただぽろぽろと涙を流し始めたのだった。
「巫女様、どうされたのだ?一体、どういう事か話してくれぬか?」
先ほどから悪態をついていた老人が神妙な面持ちで問う。
「いや、それは、言葉にしてはならぬことなのじゃ。時が来れば判る。ただ、随分昔の事、ナギ様という勇者が大王を助け、豊かな村にしてくれた。そのご恩に報いる事がわれらのすべき事なのだ。」
「一体、どういうことか全く判らん!」
「そうか、・・まあ、良い。とにかく、巫女の言葉を信じ、この方たちを大事にするのじゃ、。良いな。」
とにかく、誤解は解けたようだった。
しかし、まだ、クスナヒコは縛られたままであった。
「我らの一族は、ヒムカの兵達に多くが殺された。・・さあ、どうしてくれよう。」
「俺は、もうヒムカの兵ではない。・・この村にも来たことは無い!」
「ならば、何故、ヒムカの兵の服を着て、ここに来た?・・いずれにせよ、我らのことを知ったからには生かしてここから出すわけにはいかん。」
「好きにしろ!どうせ、行く当ても無い身だ。」
クスナヒコは開き直って言った。村人たちは、今にも殴りかかりそうになっている。
カケルは何とか止めようと分け入った。
「私の話を聞いてください。・・私はここへ来る前、モシオの村に居りました。そこにヒムカの兵がやってきて、村に火をかけ、村人を脅し、塩や食料を奪おうとしておりました。何とか止めることは出来ましたが、その時、ヒムカの兵に聞いたのです。」
「兵から何を聞いたというんだ!」
「兵の多くは、周囲の村から集められたミコト様たちでした。兵になる事で村が救われるという約束だったそうです。しかし、実際は、みな王に騙されておりました。悪行をするために兵になった者などいないのです。・・この方も同様です。・・この方を殺めても意味がありません。それよりも、この方のやるべきことは、村に戻り、村を守る事なのです。・・どうか、お赦しいただけないでしょうか。」
それを聞いてイツキも続けた。
「私も、ユイの村に居ました。流行り病で苦しい暮らしをされておりました。兵から戻られたミコト様たちは一生懸命村のために働いておられます。どうか、お赦しください。」
エンも続いた。
「俺も、カワセの村で・・」
三人は村人の前に跪き、クスナヒコを解放してもらうために懇願した。巫女が言った。
「優しき若者じゃ。まっすぐに世の中を見ておられる。・・どうじゃ・・村の衆、この若者たちの心を受け止め、この男を赦してやっても良いかな?」

クスナヒコは開放された。そして、モシオの村に戻る事になった。
「カケル、エン、イツキ、ありがとう。一刻も早く、村に戻り、村のために働く事にする。・・長老やクレ様にもそなたたちの事は伝えよう。」
そう言って大門へ向かいかけた。カケルは、思い出したようにクスナヒコに駆け寄り、耳元で何かを伝えた。クスナヒコは一瞬驚いた顔をしたが、笑顔で何か答えた。そして、カケルの肩をぽんと叩いてから、足早に大門を出て行った。
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