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-九重の懐‐6.人を殺める [アスカケ第2部九重連山]

6.人を殺める
「何故、命を奪う?・・それが王の命令なのか?・・ヒムカの王は人を殺せと命じているのか?」
カケルは、いつに無く低い声で言った。
「何を生意気な。・・見ればまだ子どもではないか・・我らに敵うとでも思っているのか?」
兵の中でも、一人、冑をつけた男が一歩前に出て言った。脇に居る男たちも、ニヤニヤとしながら前に出てきた。中には、剣を振り回し、威嚇しようとする者もいた。
「帰るべき故郷があるものは、すぐに剣を下ろせ!・・悪しき王のために死ぬのは無駄な事だ。村へ戻り、村のために働くのだ!さあ、剣を下ろせ!」
「まだ言うか!」
体の大きな兵士が剣を振りかぶって襲ってきた。カケルは、さっと身を返し、剣を避けた。兵士はもんどりうって転がった。
「俺は、ここより遥か南から来た。・・途中、多くの村が貧しさや病で喘いでいるのを見てきた。お前たち、ヒムカの兵が食糧を奪い、人を殺め、村々を焼いてきたのを見てきた。もう、やめるのだ。悪しき王はいずれ必ず滅ぶ。さあ、剣を捨てよ!」
今度は二人の兵士が剣をかざして襲い掛かる。
ついに、カケルは腰の剣を抜いた。妖しい光が辺りに広がった。
兵士が向けた2本の銅剣をカケルの剣が受ける。
ガキっと鈍い音がして、銅剣は根元から折れた。
先ほどの冑をつけた兵士が前に出てきた。
「お前、剣の腕はたいしたもののようだ。俺が相手だ。・・俺はヒムカの将、ユラだ。王とともにこの地へ来た。王に刃向かう者は、大罪人だ。息の根を止めてやる。」
そう言って、剣を抜いた。
そして、高く飛び上がると、カケル目掛けて、剣を振り下ろす。カケルは、剣を振り上げた。
「見るな!」
エンが、イツキとユキの体を地面に伏せさせた。
ピシっと音がしたと思うと、その兵士の首が胴体から離れ、飛んでいく。
首から下だけになったユラの体が、ドサリとその場に崩れた。
辺り一面、ユラの血が広がり、カケルも血しぶきを浴びた。
目だけが、カケルの目だけが爛々と輝いていた。
何か、獣が乗り移ったように凄まじい表情で、残りの兵を睨んだ。
クグリを刺し殺した男が、さらに切りかかると、同じように、カケルは剣を振り上げた。
両腕が根元からぱっくりと切れ、血が噴き出す。転げまわる男を足で押さえ、心臓あたりに剣を突き立てた。突きたてられた剣の根元から、血が噴き出し、男は絶命した。
その様子に兵は、みな、剣を放り投げ、その場にひれ伏した。
「許してくれ!許してくれ!」
仁王立ちになったカケルの体からは湯気が立っていた。
エンが、すぐに剣を集め、兵士たちを縄で縛り上げた。
「カケル、もう良いだろう。なあ・・」
エンがカケルに話しかけると、カケルは気を失ってその場に倒れ込んだ。
カケルが気を失っている間、イツキとエンは、兵士たちに穴を掘らせ、ユラの体を埋めさせた。そしてクグリの遺体を焼け落ちた家の前まで運ばせた。泣きじゃくるユキは、クグリから離れようとはしなかった。イツキは、体全体に血潮を浴びたカケルをきれいにしてやったが、カケルの手には血まみれの剣が握られたままで、離そうとしたが固く握られていて離れなかった。
陽は天中に達していた。
ようやく目覚めたカケルは、まだ体が熱いのを感じていた。そして、二人の男を殺めた事を思い出し、身震いをし始めた。生まれて初めて、人を殺めた。噴き出す血潮、絶命の瞬間の男たちの顔、脳裏に強く焼きつき、自らの業を悔いた。
「気がついた?」
イツキがカケルの様子を伺った。
「皆は無事か?」
「ええ・・でも・・ユキ様はずっとクグリ様の傍に・・・。」
カケルは起き上がると、ユキのところへ行った。焼け落ちた家の傍に、クグリの体は横たえてあり、すがりついてユキが泣いていた。
「すみません・・本当に済みませんでした。・・・もう少し早く・・・。」
カケルはそう言ってそっとユキの肩に触れた。ユキはそっと顔を上げて、
「家・・カケル様のせいではないんです。私がここに来なければ・・クグリ様は命を落とさずに済んだのです。全て、私のせいなのです。」
そう言ってまた泣き崩れた。
「自分を責めてはいけない。元は、ヒムカの王の悪行なのです。早く、断ち切らねば。」
「でも・・・」
尚も、自分を責めようとするユキに向ってカケルは言った。
「私の母様が言ってくれました。人は死ぬと、体は土に還り、魂は風になって、高い空から愛しい人を見守る事ができるのだと・・・きっとクグリ様も、貴方の傍にいてずっと見守って下さいます。・・自分を責めてはいけません。貴方を守る事が、クグリ様の望みだったはずです。」
ユキはその言葉に、また泣き崩れてしまった。

「おい、カケル。これからどうする?」
エンが、捕らえた兵を見張りながら、カケルに訊いた。
「・・美郷へ向わねばならないが・・・」
「こいつらの話では、ユラという男は、王の側近、タロヒコの息子らしい。他にも何人か息子たちが居て、それぞれ、兵を率いて、あちこちの村で悪さをしているんだ。・・きっと、ユラが死んだ事を知れば、追っ手をかけるだろう。」
サイトノハラで聞いたタロヒコの名。王を誑かしている悪の張本人だった。
「このままでは済まないだろうな・・・しかし・・」
その話を聞いていた、捕らえた兵の一人が口を開いた。
「あの・・ひとつ・・お伝えしたい事が・・」
「何だ?」
エンが、怪訝そうな顔で訊いた。
「俺たちは、元々、ミミの浜の漁師です。ユラに脅され、やむなく兵になったんです。ユラが死んだ今、俺たちも兵に戻る事もない。・貴方たちに協力します。・いや、俺たちも今まで散々痛い目に遭ってきた。もう我慢できません。これからは、戦うつもりです。・・信じてください。」
もう一人の男が、
「俺は、モロの村から来ました。俺も、村に戻りたい。モロにはたくさんのミコトが居る。もどって、ヒムカの言いなりにならず、戦うように皆を説得します。」
それを聞いてカケルは兵の縄を解いてやった。
権現崎.jpg
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Coo

ナイスありがとうございます。連載書かれてるんですね!すごい!
by Coo (2011-05-07 18:47) 

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