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3-1-3 クンマからの知らせ [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

3.クンマからの知らせ
「きっと、隼人の将の入れ知恵に違いありません。きっとそうです。」
マコはそう言うと泣き崩れた。ムサがマコをなだめながら、
「・・我らクンマの里は、山間の小さな村です。長い間、静かに暮らしてきました。そしてこれからも里を守る事で充分なのです。それなのに・・・あの、バンという将が村に入ってからというもの、長様は人が変わられたように・・・・」
ムサは悔しそうに言った。続けて、マコが言う。
「・・ですから・・邪馬台国の姫にお願いに参ったのです。邪馬台国の再興には、姫の意思が必要なはずです。・・・姫様から、無用な戦いをやめる様お話いただきたいのです。」
二人の話を聞きながら、大体のことを理解したものの、果たして、それほどの力が自分にあるとは思えない伊津姫は悩んだ。その様子を見て、巫女が言った。
「おおよそのことは判りました。・しかし、もし邪心をもって戦をしようと考えているのであれば、伊津姫様の身が危うくなります。」
「どういうことですか?」
巫女の意外な答えに、ムサもマコも改めて訊いた。
それには、エンが答えた。
「俺が仮に,この国を我が物にしたいと思うなら、邪馬台国の正当な後継者が居ては困る。すぐにも亡き者にするか、自分の言いなりにするか、いずれにしても都合が悪い。命を狙われるはずだ。」
「そんな・・・。」
ムサとマコは落胆した様子だった。
「何か策はないでしょうか?」
伊津姫は皆に訊いた。巫女もエンも、キイリも、よい知恵が浮かばない。
「ああ・・こんなときに、カケルが居てくれればなあ・・」
エンが呟いた。皆も同じ気持ちだった。
「すぐにも動き始めるのでしょうか?」
伊津姫がムサに尋ねた。
「・・さあ、ただ、今は穫り入れに忙しい時です。そしてすぐに冬になる。きっと動くなら、春を迎えてからになるでしょう。・・・それと、里には、わが息子たちがおります。何か動きがあれば、すぐにここへ知らせるよう命じて参りました。」
それを聞いて、伊津姫が言った。
「それならば、まだ時はあります。何かよい策はないか、皆で考えましょう。いずれにしても戦にならぬようにしなければ・・。・・」
姫の言葉に皆同意した。ムサとマコはしばらく、ウスキの村に留まる事になった。

キイリは、西の門の守りをこれまで以上に強固なものにすべく、弟たちと力を合わせて、門より、さらに外側に、二つほど、小さな砦を作った。深い谷を作る五ヶ瀬川は、山を回りこんで流れている。先を見通す高台に砦を作った。狼煙を使って外敵を知らせるようにした。
一番、西のはずれの砦にはキトリとキイリがいた。キトリはキイリに尋ねた。
「兄様、これで大丈夫でしょうか?」
「ここを使わずに済ませたいものだがな・・。兵の一軍が攻め込んでくれば、この砦などそう耐えられしないだろう。・・しかし、時を稼ぐことはできる。姫が居ることが知れた以上、いつ、隼人の軍がここへ来るとも限らない。気を抜かず、しっかりお守りするのだ。」
「はい。」
キイリ兄弟だけでなく、村の若者も交代でこの砦を守ることになった。
カケルがウスキを出て、3回目の春を迎える頃、西の道から男が一人やってきた。
随分と疲れているのか、怪我をしているのか、たどたどしい足取りながら、必死の形相をしている。二つ目の砦で、見張りについていたキムリが、慌てて弓を構えた。徐々に近づく男の様子をみて、兵では無いことはすぐに判った。キムリは砦を出て、男に駆け寄った。
「私は・・サビと申します。・・父に・・いや、姫様にお伝えしたい事があって・・」
男は、そう名乗ると、安堵したのかその場に座り込んでしまった。キムリは、男を背負うと、村に向かった。途中、キトリが様子を理解して、すぐに館に知らせに走った。

その男は、「サビ」。ムサの息子であった。サビは館の広間に寝かされていて、周りに、ムサやマコ、エンが見守っていた。
「おそらく、クンマの里で何か起きたのでしょう。・・何か起きたら。すぐにここへ知らせるように、私が、これに申し付けていたのです。」
横になっているサビは、足の裏や膝、腕にもたくさんの傷があった。おそらく、一刻も早く知らせようと、夜道も厭わず、走り続けたのだろう。しばらくすると、目を覚ましたサビは、飛び起きようとした。
「・・いいから・・横になっておれ!よく来た。」
ムサは労わるように言った。
「父様・・姫様・・大変です。・・シン様がいよいよ挙兵されました。・・・バンの兵とクンマの若者を集めて、動かれました。早く、お止めしないと・・大変な事になります。」
サビがウスキに訪れた事で、知らせの中身は大方想像はついていた。
「そうか・・ついに・・それで、総勢は何人くらいだ?」
ムサは、苦々しい思いで知らせを聞いた。
「バンの兵は、10人ほどがクンマに居座ったままですから・・30人ほどでしょうか・・。」
「何?・・兵が半分居座っていると?」
「はい。何故かは判りません。シン様は10人ほどのクンマの若者を連れて行かれました。」
「バンは?」
「シン様とともに立たれましたが・・・。」
「それじゃあ・・クンマの里は、バンの兵隊ばかりなんじゃないか?」
そこまで聞いて、エンがふと漏らした言葉に、皆、驚いた。
それを聞いた伊津姫も口を開いた。
「クンマの里には、誰か村をまとめるお役の方は居られるのですか?」
ムサとマコは、顔を見合わせた。そして、首を振った。
「おいおい、大丈夫なのか?・・バンの兵が村を好き放題にしているんじゃないのか?」
それを聞いていたサビが言った。
「我が弟が、残っております。・・私も里を出る時、それが一番怖かったので、弟に命じて、村の者がいつでも隠れられる場所を教えておきました。兵が狼藉を働いたら、すぐに逃げるように言っておきました。」
そこまで聞いて、エンが言った。
「すぐに、クンマに向かおう。キイリ、キトリ、キムリ、俺と一緒に来てくれ。まず、クンマの里を救わねば。」

球磨川2.jpg
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