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3-1-4 イツキの決断 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

4.イツキの決断
サビによると、シンとバンの軍は、一旦、不知火の海を目指し、西へ向かったようだった。
それを聞いて、キイリが首をかしげた。
「・・それは変だな?・・阿蘇の里を攻めるなら、クンマの里から、九重の山を越えるほうが早いはずだ。・・何故、そんな遠回りをするんだろう?」
「・・きっとバンには別の思惑があるに違いない・・まさか・・」
エンが、難しい顔をして押し黙った。伊津姫は、エンが何時になく考え込んでいる様子が気になった。
「エン、何があるのですか?」
エンは、言いにくそうに、躊躇いがちに言った。
「隼人一族は、船を操り、海で生きる一族。・・兵など居なかったはずだ。・・なあ、バンという将は、本当に、隼人の将なのかい?」
これには、ムサが答えた。
「はい、それは確かです。・・ただ・・私も隼人の一族とは随分前に会った事はあるのですが、兵が居たとは知りませんでした。」
「どうやら、何かいわくありという奴みたいだな。・・里から追い出された奴らなのかもしれない。・・もし、そうなら、やはり、クンマの里を我が物にするために、長であるシン様を里から引っ張り出して・・・どこかで亡き者にする・・そして、里に戻って・・・」
エンは、頭の中に浮かんだ事を順に話した。その中身が、ムサやマコがどう受け止めるか考えもしていなかった。マコは、エンの話を聞きながら、ワッと泣き出してしまった。
「エン!やめなさい。・・まだ、そうと決まったわけではありません。・・ただいずれにしても、クンマの里に危険が迫っているのは間違いないでしょう。・・判りました。兵が西へ向かったのならば、我らは一刻も早く、クンマの里へ向かいましょう。皆の力を合わせれば、きっと、里を取り戻せるはずです。」
伊津姫はそう言って立ち上がった。
「姫様もともにいかれるおつもりですか?」
巫女が慌てて訊いた。
「ええ、私もここで待っているなんて出来ません。」
「ああ、伊津姫様が一緒なら、きっとクンマの里の者も勇気付けられるに違いない、行こう。」
エンも言った。
「ダメです!・・伊津姫様にもしもの事があったら、どうするのですか?」
巫女は厳しい目でエンに迫った。
「大丈夫だ。俺は、伊津姫様の守人なんだぞ。命に代えても、姫様をお守りするさ。」
「せめて・・カケル様がお戻りになるまで・・姫様はここにいらして下さい。」
巫女は、伊津姫に懇願した。
「いいえ、カケルはいつ戻るか判りません。いや、ここには戻ってこないかもしれません。・・それに、こうしている間にも、クンマの里やシン様の身に危険が迫っているのです。行かせて下さい。・・いえ・・私は行きます。」
伊津姫はそういうと奥の部屋に入っていった。旅立ちの支度を始めるためだった。
「俺たちもすぐに出立できる支度をしよう。・・弓は丈夫なものを持っていこう。」
エンも、キイリたちにそう言って、館を出て行った。

「巫女様・・申し訳ありませぬ。巫女様がご心配される事は重々承知しております。私も、命に代えて、伊津姫様をお守りいたします。」
ムサはそう言うと巫女に深く頭を下げた。マコも、巫女に深く頭を下げた。

翌日、日の出とともに、伊津姫、エン、キイリ、キムリ、キトリ、そしてムサ、サビとマコは、クンマの里へ向けて出発した。
途中、五ヶ瀬の村に着いた時、巫女から話を聞いた、ウルが、猩猩の森に潜んでいたミコトたちを連れて、同行することになり、10人を越える一行が、クンマの里へ向かう事になった。

「姫様、われらが先行して、クンマの里の様子を探ってまいります。危険があるようなら、姫様はクンマの里には入られないようお願いします。」
ウルは、「巫女からくれぐれも姫様をお守りするように」と頼まれていた。そのために、脚の強いミコトを同行させ、深い山を抜ける道を抜け、伊津姫たちより先にクンマの里に入る事にしたのだった。
伊津姫たちは、五ヶ瀬の村を抜け、椎葉の村を経由して、多良木の里まで一週間かけて到達した。伊津姫は、途中で、カケルと出逢う事があるかもしれないと密かに考えていたのだが、カケルが訪れたという村は無かった。
伊津姫たちが、九重の山中を南下していたころ、カケルとアスカは、まだ、海辺の村を廻っているところだった。クンマで起きている事は、まだカケルの耳には入る由も無かった。

伊津姫一行が多良木の村に到着した頃には、ウルたちがすでにクンマの里が見える高台に達していた。そこから見えるクンマの里は、静かで、畑にも人影は無く、バンの手下らしい男たちが、大門の辺りをうろついているのが判った。
「どうやら、村の皆は隠れ場所に逃れたようです。」
ウルたちに同行していたサビが、村の様子を見て言った。
「しかし、奴らは一体、何のためにここに留まっているのだ?」
里を見下ろせる高台から、様子を伺いながらウルが言った。
「エン様が言われたように、やはり、我が里を手に入れるためでしょうか?」
「ああ、そうだとすれば、やはり、シン様の身が危ないだろう。さあ、どうする?」
ウルの指示で、ミコトの一人がクンマの里近くまで行き、兵たちの様子を探る事になった。
サビは、弟に命じた隠れ場所に向かった。
隠れ場所は、クンマの里から球磨川を少し下ったところで、切り立つ崖にぽっかりと開いた場所で、古くからクンマ一族の、祈りの場所として使っていた鍾乳洞であった。
「おお、サビ様!」
鍾乳洞の中に潜んでいた村人が、サビの姿を見て、ほっとしたような表情で叫んだ。
「みんな、無事か?」
サビの弟サトルによって、村人たちはほとんどここに逃れることが出来たようだった。
「サトルはどこだ?」
サビは、辺りを見回した。一人の村人が、悲しい表情を浮かべて言った。
「我らをここへ逃れる時を作るために、兵たちと戦われて・・・多勢に無勢・・・切り殺されてしまいました。亡骸だけでもと何度か里へ行こうとしましたが・・・。」
「そうか・・命を落としたか・・・奴はちゃんと役目を果たしたのだな・・。」
「サビ様・・」

国見岳3.jpg
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