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3-1-5 里を救う [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

5. 里を救う
伊津姫たちは、ウル達からの知らせを受けて、里の人たちが隠れている鍾乳洞に向うことになった。クンマの里を回避するため、一行は、多良木の村の協力を得て、球磨川を舟で下る事になった。春を迎えて、雪解け水が流れ込む川は、あちこちで濁流となり、危険ではあったが、なんとか辿りつくことが出来た。

「マコ様、ご無事でしたか?」
一行が鍾乳洞に現れると、里の者たちは皆喜んだ。
「皆さん、兄のせいでこんな事になってしまって・・本当に、申し訳ありません。」
マコは、みなの前で頭を下げ謝罪した。
「いえ・・我らこそ、男たちに里を奪われ・・隠れるしかできず・・申し訳ありません。」
皆、マコを労わるように集まり、涙した。
ムサは、その様子を見ながら、言った。
「みんな、聞いてくれ!・・こちらは、ウスキより参られた方々だ。我らとともに、里を取り返すためにおいでいただいた。・・そして・・こちらは・・邪馬台国の姫、伊津姫様じゃ。」
その言葉に、里の者たちはみな驚いた。はるか昔、伝説となっている邪馬台国の名とともに、その姫が現れた事に心から驚いていた。
伊津姫は、皆の前に出て、ゆっくりとお辞儀をした後で、胸元から双子勾玉を取り出した。そして、それを皆に見せるように掲げた。ここへ来る前、ムサから、里の者を励ますために、邪馬台国と伊津姫の権威を一層高めるよう、より神々しく名乗ってもらいたいと頼まれていたのだった。
「われは、邪馬台国の伊津姫である。・・九重の国々の穏やかな時を取り戻すため、ここへ参った。さあ、悲しみにくれることなく、今一度、クンマの一族の力で、里を取り戻そうではないか。」
やや芝居がかった言い方ではあったが、里の者はみなその言葉に勇気付けられ、気勢を上げた。
ムサはその様子を見て、サビに目配せをした。サビは、岩の上に上がり、皆の顔を見ながら大きな声で叫んだ。
「里は高々数人の男たちがいるだけだ。我らの力を合わせれば、負けるものではない。さあ、男たちは弓を取り、里へ向かうぞ。女たちは、子どもや爺様、婆様を連れ、里へ向かうのだ!」

里を見下ろせる高台には、ウルたちが里の様子を探るために、集まっていた。
「ウル様、バンという男は、どうやら隼人から追い出された厄介者だったようです。」
ウルの命で、隼人の一族と接触をしていたミコトが報告した。
「やはりそうか。では、あの兵たちは?」
「聞いたところでは、バンがあちこちを放浪している最中に、一人ひとりと集めたようです。いずれもあちこちの村から追い出されたもののようです。」
この時代、村の掟を守らず、勝手な事ばかり繰りかえすような輩は、村から追い出され、たいていは野垂れ死にするのだった。それをバンが集め、隼人の兵を名乗り、このクンマにやってきたのだった。

「どうです?里の様子は?」
サビが、エンたちとともに、里の者たちを引き連れて、高台に姿を見せた。
「大門辺りに、何人かいるようだが・・」
エンが、
「そう大人数ではないのだろう?一気に攻めて片付けてしまおう!」
そう言ったが、ムサが止めた。
「攻めるのは容易いでしょう。しかし、一人でも取り逃がすと、里の事がバンに知れ、シン様の命が危うくなるでしょう。」
「では、どうする?」
「これだけの人手があります。・・里へ入る三つの門ごとに分かれていきましょう。・・できるだけ静かに近づき、片付けましょう。騒ぎが大きくなると、男たちが里に火を掛けるかもしれません。」

男たちは、南と北、そして西から里へ入る道に分かれた。男たちに気づかれぬよう、一人ずつ草叢に隠れるように里へ入っていった。
南の大門には、男が三人、様子を見張っているようだった。南からは、ムサとキイリ兄弟が近づいていた。
「よし、一気にやるぞ!」
キイリたち3兄弟が弓を構え、男たちを狙った。ヒュンという音ともに、大門の前の男たちは呻き声を立てる間もなく、どさりとその場に倒れた。すぐに、男たちの遺体は草叢に隠された。そして、静かに、里へ入って行った。
西からは、サビとウル、そしてウルがつれてきたミコトたちが向かっていた。川沿いから高い土手をいくつも越えねばならず、予想以上に村に近づくのに手間取っていた。
北には、エンが里の者とともに向かった。こちら側は、男たちも警戒しているようで、弓を構えて何人かの男が大門の上に座って様子を見ていた。
「こちらから攻めるのは厳しいな。」
葦の中に姿を隠して村に近づいてきたエンたちは、これ以上前進できない状態になった。
「どうするかな?」
エンは、草の中に身を隠しながら考えた。そして、何か思いついたように大門を見つめた。
「使えるかもしれない・・」
エンは、矢筒を取り出し、羽の大きな矢を選んで、何か羽に細工をし始めた。
「どうするんです?」
エンの隣で様子を伺っていた里の若い男が訊いた。
「前に、モシオの村で、カケルがやった技なんだが・・俺にもできるかどうか・・・」
そう言いながら、弓を取り出し、矢を当て強く引き、空に向かって放った。
放たれた矢は、ピーと大きな音を上げながら、空を舞う。そして、はるか上空から、あたかも空から降ってくるように、更に大きな風切音を上げて、大門を超えて突き刺さった。
大門で弓を構えた男たちも、突然の音に驚き、どこから飛んできたのかも判らず、空を見上げたり、辺りを見回したり、うろたえた表情を見せた。
エンは、今一度、弓を放った。今度は、さらに上空高く放ち、先ほどよりも更に高い音を響かせた。その矢は、門の上で海を構えた男の胸を貫通した。
それを見ていた里の者も、同じように、空高く矢を放った。どこから飛んでくるのか判らない矢を防ぐことは容易ではない。里の奥深くへ逃げ込んでしまった。
それを見て、三方向から一気に里へ攻め入った。意外にも、男たちは大して強くなく、あっさりと捕らえることができた。
エンやキイリ、ムサたちは、里の真ん中にある広場に集まった。そして、無事、里を取り戻した事を知らせるため、狼煙を上げた。

倒槍の瀬.jpg
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