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3-1-6 バンの思惑 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

6. バンの思惑
鍾乳洞で合図を待っていたマコや伊津姫は、里から狼煙が上がるのを確認した。
「エンたちは、無事に里を取り戻したみたいね。」
「さあ、みなさん、里へ戻りましょう。」
その声で、順番に鍾乳洞から出て、里へ向かおうとした。
球磨川の浅瀬を渡りかけた時だった。対岸に、大勢の男たちが現れた。手には剣を構え、恐ろしい形相で、反対側から渡ってくる。おどろいた者たちが、浅瀬に足を取られ転倒したり、流されたり、逃げ惑い、悲鳴を上げた。
「何?どうしたの?」
悲鳴を聞いて、伊津姫とマコは急いで、球磨川のほとりにやってきた。すでに、大勢の男が、里の者を取り囲んでいた。

「やっと、おでましかい?」
男たちの真ん中、河原の大岩にどっかり腰を下ろし、不敵な笑みを浮かべた男がいた。
伸び放題の髪を一つに縛り、太い眉、来い髭、両腕にも剛毛を生やし、いかにも、悪事を働くに十分な様相をしている。
「バン!」
マコはその男を見て叫んだ。
「お久しぶりです、マコ様。・・おや、そちらは、・・ほう・・邪馬台国の姫様ですか?」
「何故?いったい、どうしたの?」
マコは、バンがそこにいたことだけでなく、伊津姫の事を口にしたことにも大いに戸惑った。
その言葉に、バンは立ち上がり、マコの前までずかずかと歩いてきて、睨みつけるように見てから言った。
「いやあ・・マコ様は、本当に素直な人だ。・・貴方が、ムサとともに里を抜け、ウスキへ行かれたのは知っていたさ。・・そう、邪馬台国の姫様を頼ったこともな。・・・だから、我らは、一旦西へ兵を挙げた。その間に、きっと姫様を連れ、ここへ戻ってくると踏んでね。・・いやあ、これほど思惑通りに行くとは思わなかったんだがねえ。」
「どうするつもり?」
「さあて、どうするかな?・・ここで、皆殺しにしてもいいんだが・・・。」
そう聞いて、伊津姫が口を開いた。
「貴方の望みは何です?」
「これはこれは・・邪馬台国の正当な後継者、伊津姫様。お初にお目にかかります。・・さすが、姫様は強きお人のようだ。まったく畏れておられない。・・まあ、いいでしょう。俺の望みは、この国を我が物にする事。・・・貴女なら、どういうことかお分かりになるでしょう?」
「・邪馬台国の王となるという事ですか?」
「・・いや、王などと面倒な事は考えていない。王は、正当な後継者である貴女以外にないでしょう。・・・貴女が、俺の言うことを聞いてくれれば、それでいいんですよ。・・」
「何という事を・・天は、そのような事をお許しにはなりません。」
それを聞いて、バンは、
「別に、相談してるわけじゃない!・・おい、お前たち!」
バンの掛け声に、男たちが一斉に里の者たちに剣で襲い掛かろうとした。
「やめて!」
「やめなさい!」
マコと伊津姫は、悲鳴のような声を上げた。
「おい、やめろ!」
男たちは剣を下ろした。
「判ったか!なら、言う事を聞いてもらおう。」
そういうと、里の者たちを鍾乳洞に追いたて、中に入れて、手足を縛りあげた。
「さあ、マコ様も同様に。伊津姫様、縛ってください。きつく縛ってもらおうかな?」
薄ら笑いを浮かべて、バンはマコに縄を手渡した。
「それじゃあ、伊津姫様は我らとともに行きましょう。・・大丈夫ですよ、貴女は生かしておかなけりゃ、使い道が無い。大事にしますよ。・・おい、お前ら、姫様をお連れしろ。」
どこに隠してあったのか、球磨川を下るために舟が何艘も用意された。
バンが、鍾乳洞を出ようとした時、マコが訊いた。
「一つ、教えてください。・・兄様、シン様は?」
再び、バンはマコの前までやってきて、耳打ちするように言った。
「シンは、八代の浜で戦の最中に、俺に逆らったんだ。だから、そのまま、置いてきた。きっと、八代の浜の奴らになぶり殺しにでもなってるんじゃないか?・・俺にたてついた報いだ。」
「まあ・・なんと・・・惨い・・」
マコは、兄の最後を思い、泣いた。
「よおし、一気に川を下るぞ。・・ムサの奴らが追いついてこないうちにな!」
そういうと、バンの一軍は、一気に球磨川を下って行った。

「里の者たち、遅いな。何かあったか?」
ようやく、クンマの里を取り戻したエンたちは、大門から外の様子を伺っていた。ムサやサビは、里に居座っていた男たちを縛り上げ、周りを歩きながら不思議に感じていた。男たちの様子が、どこかおかしいのだ。
「おい、お前たち、バンとはどこで一緒になったのだ!」
サビが、縛り上げた男をひとり小突きながら訊いた。
「バン?それは誰だ?・・俺たちは、ここがもぬけの殻の里になるからと隣村の男に教えられて、居座っただけだ。」
「何だって?」
それを聞いて、サビとムサは、エンに伝えた。
「何か、おかしいとは思ったんだが・・・まさか、・・里の者が隠れているところへ行ってみよう。」
すぐさま、エンやムサ、キムリたちは隠れているはずの鍾乳洞に向かった。

鍾乳洞に着いたエンたちは、目を疑った。里のものは、皆、縛り上げられ、蹲って泣いている。
「何があったのです!」
マコから事情を聞いたエンは、怒り、動揺した。
命に代えても伊津姫を守ると言い切って、ウスキからここへ来たのに、一番大事な役目を果たせなかった。悔しさと怒りで狂いそうだった。
「では、我らが伊津姫様とともにここへ来る事を見越していたということか!」
ムサも大いに悔しがった。ようやく、縄を解かれたマコが、すっかり気落ちした様子で話した。
「バンは、兄も殺めたのです。・・怖ろしい男です・・。」

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