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3-1-7 先の相談 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

7. 先の相談
「すぐに、奴らの後を追うぞ。」
怒りと悔しさで我を見失ったエンが、弓を持ち立ち上がった。
「奴らは舟で行ったのです。とても追いつけるものではありません。」
サビが止めようとした。
「いいんだ!ここに居てもどうにもならないんだ、すぐに川を下る。」
「エン様、少し落ち着いてください。・・ただ追いかけても仕方ないでしょう。我らがここに姫様をお連れする事を見越していたほど、悪知恵の働く奴なのです。闇雲に追いかければ、姫様のお命が危うくなるかもしれません。ここは、皆で知恵を出し合い、これからの事を考えましょう。」
ムサがゆっくりとした口調で、エンに諭すように話した。
ウルも、続けて
「マコ様のお話では、バンは邪馬台国の権威を使って、国を手中にするつもりのようです。すぐに、姫様のお命が危ういわけではないでしょう。ここは、ムサ様と言われるとおり、一度、里へ戻って、この後のことを考えましょう。」
エンはようやく落ち着き、里へ戻る事にした。

館では、マコをはじめ、ムサ、サビ、キムリ、キトリ、キイリ、ウルなどがエンを囲んで座っていた。ムサが口火を切った。
「球磨川を舟で下ったとすれば、行きつく先は八代だ。だが、前に戦を仕掛け敗れている。そこまで行くかどうか・・・。」
キイリが言った。
「伊津姫様を奉じて、八代を従わせる方法もあるのでは?」
それをきいて、ムサが続けた。
「確かに、それも一つだ。むやみに戦を仕掛けても兵力が違うのだからな・・では、仮にそうなった後はどうする?」
サビが言う。
「私なら、そのまま不知火の海を渡り、宇土の地へ向かう。八代と宇土を手に入れれば、強大な力になる。」
それを聞いて、再び、ムサが言う。
「そうだな・・阿蘇一族と戦を構えるなら、八代、宇土、そしてその周辺の村を全て我が物とし、兵力を増やさねばならぬ。それでも、阿蘇一族に勝てるかどうか・・。」
エンは、ムサに訊いた。
「阿蘇一族とは、それほどの強大な力を持っているのか?」
「火の山を治め、古くから豊かな大地の恵みで、富を作り、見た事も無いほどの見事な館も持っていると聞く。それに、草原を駆ける馬を操り、牛さえも自在に使う一族なのだ。」
「それ程の一族がいるのか・・・」
「しかし、阿蘇一族は、火の山から一歩も出る事はしないのが掟なのだ。火の山の懐を守る事が一族の使命と決め、他の村を脅かす事等しない。おそらく、そのことはバンも知っているだろう。・・よほどの兵を持つまでは、やはり、しばらくの間は、八代辺りで、力をつけていくに違いない。」
「では、伊津姫様もしばらくは、無事と考えても良いだろう。」
ウルが言った。マコが訊く。
「この里はもう安心なのでしょうか?」
ムサはその事葉を聞いて考えた。
「バンは、あれだけの悪知恵を働かせる男だ。仮に、八代で兵を増やせなければ、またここへ戻ってくる事もあるでしょう。・・九重を手に入れるなどと大きな事を言っているが、実のところは、自ら支配できるところを手に入れようと考えているかも知れません。・・もし、そうらなれば、この地を一番先に狙うでしょう。」
それを聞いて、サビが言う。
「伊津姫様を楯にして、ここを攻められれば、我らとて刃向かう事はできません。」
マコも、それを聞いて心配顔になった。エンは、言う。
「もしも、伊津姫様を人質にしてここを攻める事があれば、遠慮なく戦って貰いたい。」
「しかし・・」
「いや、姫様は、何も抵抗せずにバンに捕えられただろう?・・里の者が傷つかぬようにな。・・それが、伊津姫様のお考えなのだ。もし、バンが伊津姫様を人質にここを攻めようとすれば、おそらく、自ら命を絶つだろう。・・」
「そんな事が・・」
「いや間違いない。・・姫様は、昔、カケルが持たせた短剣を肌身離さず隠し持っている。ナレの村の者はみな、大事なものを守るためには命など投げ出す覚悟をもっているんだ。伊津姫様は、邪馬台国の姫だが、俺やカケルと幼い頃からともに育ってきたナレの者だ。ためらいなく、自らの命を絶つに違いない。だから、皆、クンマの里の守りを固めて欲しい。」
そこまで聞いて、マコは頷き答える。
「判りました。・・兄無き今、私も長の妹として、この里を守る使命があります。ムサにも手伝ってもらって、今まで以上に強き里にしましょう。」
一通り相談し終え、それぞれ役割を決めた。
エンは、伊津姫を追うこととなった。キムリとサビが同行し、球磨川を下り、バンを探す事にした。何か動きがあれば、すぐに、クンマの里へ知らせをする事にした。
ムサは、マコを助け、クンマの里の守りを固める手筈となった。ウルとキイリも手助けすることにした。
キトリは、ウスキへ戻り、ここで起きた事とこれからの事を村に伝える役を負った。
エンたちは、里の広場で、旅支度を整えていた。
「ウル様、一つ、お教え下さい。いつも、ウル様に従うミコト様たちの事ですが・・」
「ああ・・」
「ウスキの村のミコト様とは違い、いつも、静かに、ウル様に従っておられるようで少し不思議な感じがするのです。どういう方たちなのです?」
「・・あ奴らは、幼き頃に、猩猩の森に捨てられた者なのだ。・・どこの村かはわからぬが、おそらく食い物に困り、捨てるしかなったのかもしれぬが・・それをワシがあの森で育てた。人を嫌い、村を嫌う、物言わぬのも、人との関わりを持ちたくないためだ。」
「しかし、ウル様には素直に従っておられますね。」
「生きるために必要な事を教えたのがワシだからだろう。・・森深くで育った事で、比類な力を持っておる。ワシは、奴らを信じておるよ。」
「一つ、お願いが。あのミコト様たちに、バンの素性を調べてもらえないでしょうか?」
「ああ、ワシもそう思っていたところだ。隼人の者と名乗るからには、何かつながりがあるのだろう。もう、隼人に向け、走らせておいた。何か判れば、知らせよう。」
エンとキムリ、サビは、球磨川を下って旅立った。

球磨川2濁流.jpg
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