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3-1-9 伊津姫を追う [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

9.エン、伊津姫を追う
球磨川は、クンマの里から山間を蛇行を繰り返し、八代まで流れている。水量は多く、ところどころ大きな淵があり、また、轟音を立てる瀬もある。切り立った崖が続くため、クンマの里からしばらくは集落など無かった。
エンたちは、崖に作られた細い道を、慎重に進んでいった。
恐ろしいほどの流れの瀬を過ぎた辺りで、サビが遠くを指差して言った。
「エン様、あそこ。舟があります。」
指差す先には、淵があり、高い崖に張り付くように、小さな船が見えた。三人は淵に降りて、辺りを見回した。
「誰もいないようですね。・・」
キムリは、上流も下流も見回していった。
「おそらく、バンの兵が激しい流れに舟を上手く操れず、落ちたのでしょう。この流れに巻き込まれれば、ひとたまりも無い。・・好都合だ、あの舟を使いましょう。」
サビは、川に飛び込み、舟まで泳ぎ着くと、ひょいと舟に飛び乗って、岸辺まで漕いできた。
「エン様、舟は操れますか?」
サビが訊いた。
「いや・・俺は無理だが、キムリは得意だ。ミミの浜まで五ヶ瀬川を下り米を運んだ。」
「それなら良かった。この先、急流が多く、私一人ではとても・・では、キムリ様、参りましょう。」
キムリが舳先、サビが舵側で、操ることになった。エンは、川を下りながら、バンの兵が潜んでいないか、陸に上がった形跡はないか、両岸に目を配った。
次第に、両岸の崖が低くなり、川の流れも徐々にゆるく、川幅も広がり始めた。
「エン様、そろそろ山あいを抜けます。この先、どこからでも丘に上がれます。ご注意下さい。」
「ああ、判った。」
川を下り始めて日暮れ近くになっていた。
「まだ、舟を降りた形跡はないようだな・・・。」
エンは、時々、立ち上がり遠くを見渡そうとした。
「この先に、村があります。今日はそこで休むようにしましょう。」
岸に舟を着け、三人は岸辺に降りた。
「おい、これ。」
岸から土手に向かって、無数の足跡がついていた。河原にも舟を引き揚げた跡が残っていた。
「奴ら、ここで休んだようだ。・・この先の村は大丈夫か?」
三人は急いで土手を上がり、村へ向った。大門に居た老婆に事情を話し、すぐに長老にあう事ができた。
クンマの里のサビが長老に話しをした。
「我は、クンマの里のサビと申します。・・バンという男の兵達を追って球磨川を下ってまいりました。この村に、遣ってきましたね?」
「はい・・おっしゃるとおり、邪馬台国を再興する兵だと名乗る集団が、ここに逗留しました。」
「それで・・村は無事だったのですか?」
「ええ・・最初は、乱暴を働こうとしましたが、伊津姫様が我らをお守り下さいました。・・奴らは、邪馬台国を再興する兵たちではないのでしょう?」
それを聞いてエンが言った。
「ああ、当たり前だ。姫様は人質だ。・・それで、どうした?」
「はい、昨日、朝早くに川を下って行きましたから、今頃は八代に着いているでしょう。」
先を急ぎたい気持ちはあったが、夜の闇ではとても敵わない。エンたちも一晩、この村で過ごす事にした。
「済みませんが、一晩、ここで休ませてもらえますか。・・夜露が凌げれば良いのです、どこか・・。」
その言葉に、長老は、
「何をおっしゃいます。・・どうぞ、館をお使い下さい。・・それと、姫様からエン様に言付けがございます。」
「伊津姫が?」
「はい。この先、八代へ向かうが、バンが大将ではないようだと。バンを操る者がいる、その正体を掴むことが大事だと。それと、アマリという者が世話役に付いているが、訳あって、今は我らの味方になってくれていると・・。」
「伊津姫は・・元気そうだったか?」
「はい。気丈なお方ですね。・・邪馬台国の王の血を受け継ぐにふさわしいお方でした。」

翌朝、三人は村を後にした。川岸に来ると、舟に誰か横たわっているのが見えた。
「あれは・・ウル様の下僕のミコト様ではないか。」
近づく足音に、目を覚まし、舟から飛び降りて、葦の草むらへ身を隠した。
「大丈夫、俺たちだ。」
その声に、草叢からそのミコトは顔を見せた。
「私の名は、イノヒコ。バンの素性を調べておりました。」
「何か判ったのですか?」
「はい、これより南の野坂の浜で聞いたことですが・・どこか、遠くの海から遣って来たもののようです。隼人ではありませんでした。・・渡来人なのかもしれません。たくさんの大船が来て、野坂の浜一帯を襲い、海沿いに北へ向かった一軍があったようです。バンは、その一部を率いて、山中の里を回り、時には襲い、男たちを集めながら、クンマに遣って来たようです。」
「バンの後ろに、もっと大きな敵が居るというわけか・・・。」
エンが腕組みをして言った。そして更に訊いた。
「あの辺りは隼人の一族が治めていたのではないのか?」
「どうやら、もっと南の方へ下ったようです。」
「何者なのでしょう?」
「まあ、いいさ。まずは、バン達に追いつくことだ。どうせ、八代に着けば会えるだろう。すまないが、イノヒコ様、もう少し、調べてみてくれないか?大軍から離れたのには、何か訳がありそうだ。それがあいつの弱点かもしれない。」
イノヒコは一つ返事をすると、すぐに土手に上がり、南を目指して走り出した。
エンたちは舟を進めた。蛇行する球磨川の穏やかな流れに乗る。
「おや、あれは?」
エンが岸辺に何か見つけて、舟を寄せるように言った。対岸の河原に広がる脚の原が何ヶ所かなぎ倒されていた。ゆっくり進むと、脚の原の中に、小舟が5艘隠すように置かれていた。円は直感した。
「ここで、舟を降りたようだ。」
「しかし、数が少ないように思うが・・・」
キムリがそう言うと、サビが、
「まさか、ここで二手に分かれて・・・」
「クンマの里が危ない!」

自然河岸2.jpg
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