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3-1-10 里の危機 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

10. 里の危機
乗り捨てられた舟の数から見て、10人か15人程がここで船を下りたのは間違いないようだった。
「八代に向かう途中で、奴らは二手に分かれたようだ。きっとクンマの里へ戻ったんだろう。」
「ああ、おそらく、伊津姫に気付かれないように途中で別れただろう。」
サビは、落ち着かなかった。里を出る時、父ムサやマコは備えをするとは言ったものの、シンが兵を挙げた時、多くのミコトはシンに従い、村を去った。今、残っている手勢で、あの兵達を抑え切れるのか心配だった。エンは、そんなサビの様子をすぐに感じ取った。
「サビ様、里へ戻ったほうが良い。・・ここまで来れば、八代まではすぐだ。この先は何とかなる。おそらく、村にはまだウル様達も残っているだろうが、一人でも多く加勢したほうが良いだろう。」
「しかし、今から間に合うだろうか?」
「考えている暇は無い、すぐに戻るべきだ。・・何なら、キムリも供に里へ向かうか?」
「しかし、姫様の事も心配です。」
キムリも迷っていた。
「じゃあ、こうしよう。いずれ、バンたちは、阿蘇の里を攻める時が来るだろう。・・それまでに、クンマの里を立て直し、万全にしてから、シイバや五ヶ瀬、ウスキへも助けを得て、阿蘇の里で合流しよう。俺は、それまで何とか姫様の傍に近づき、機会をうかがう事にする。今は、とにかく、クンマの里を守る事だ。さあ、急いで戻るのだ。」
「エン様!」
「大丈夫だ、この緩やかな流れなら、俺にも舟は操れる。さあ、行け!」
サビとキムリは、頭を下げ、すぐに土手を登って、山道を駆け戻って行った。

球磨川沿いの山道を二人は、ただひたすら、駆け続けた。サビも、キムリも、一言もしゃべらずとにかく駆けた。日暮れになってからも、松明をかかげ、夜道を駆けた。途中、何度か、僅かな休憩は取ったものの、とにかく、里が心配で仕方なかった。

明け方近くだった。いくつかの峠を越えたところで、河原に数人の男が身を横たえ、眠っているのが見えた。
「追いついたようだ・・・やはり、クンマの里を狙うつもりだ。・・」
岩陰から、様子を伺いながら、サビが言った。夜掛けの最中には気付かなかったが、二人とも、膝や腕にいくつも疵をこさえていた。随分、疲れもでていた。
「奴らの先に行くか?」
「このまま、後を追い、後ろからやるか?」
二人は考えた。そして、サビが気付かれぬように先に里へ入り、戦支度を急ぐ役をする事にした。キムリは、男達の後を追うことにした。
クンマの里までは、急げば、日暮れ前には着ける距離だった。
夕刻近く、サビはクンマの里に着いた。もう体はふらふらだった。
大門の上から様子を見ていたウルが、サビの姿を見つけ、すぐに迎えの者が出た。疲れきった体を両脇で抱えられるようにして、サビは館に運ばれた。
「どうしたのだ?エン様は?キムリ様は?」
ムサが、お椀に水を汲み、サビに飲ませてやりながら訊いた。
「バンの兵の一部がここへやってきます。・・はるか下で気付いて、私とキムリ様は戻ってきたのです。」
「何?兵がここへ向かっているのか!・・よし、すぐに戦の支度じゃ!それで、キムリ様は?」
「兵達の後ろを付いておられます。・・ここを攻め始めたところで、後ろから仕掛ける約束になっています。」
「そうか・・で、あとどれくらいでここへ来る?」
「もう、すぐ近くまで来ているはずです。・・・早く、支度を!」
話し終わらぬうちに、大門の上で見張りをしていたウルが、里に向かって叫んだ。
「兵が来るぞ!弓を持て!」
ウルの声に、里の男達は、弓を構えて大門の上に立った。
里に残る男たちは10人にも満たなかった。それに、若いミコトはすべて、シンとともに里を去っており、残っているのは老齢のものばかりだった。一気に攻められれば、とても勝ち目は無かった。
兵達は、南の門から少し離れた場所に止まった。こちらから弓を引いたが、とても届く位置ではなかった。
兵の中に一際大柄な男が居た。その男は立ち上がると、身の丈よりも大きな弓を取り出した。そして、矢を番い、先に火をつけて放った。
大きな放物線を描いて、矢は大門を越え、里の中へ飛び込み、屋根に突き刺さり、あっという間に火が燃え広がった。
里の者は慌てて火を消しに走ったが、なかなか、火の勢いはおさまらなかった。
子どもたちは、火の勢いに驚き、大声で泣きわめき、女たちは逃げ回った。
里の中は混乱した。
「皆、静まりなさい。大丈夫です、皆で力を合わせれば、きっと里を守れます!さあ、火を消すのです!」
マコは、慌てる里の者を鎮めた。
「くそ!なんて力だ!」
ウルは様子を見て悔しがった。そして、脇に控えていたミコトを呼び寄せた。
ウルの下僕のミコトは4人。イノヒコ、ニノヒコ、ミノヒコ、ヨノヒコと呼ばれていた。イノヒコは、バンの正体を探るために野坂の浜に居た。残った三人がウルの命令で、東と西の門から、男達に気づかれぬようにそっと里の外に出た。
両脇から挟みこんで、攻めるのが狙いだった。
南の門の先にいる男達は、火が燃え上がった様子を見て、おおっと声を上げた。
「おい!もっと射ろ!お前だけで里を取れるぞ!」
「よし!」
そう言って、再び弓を構え、矢を放った。同じように放物線を描いて矢は里の家に火を放った。
「良いぞ、良いぞ!もっと射ろ!」
遊びのような様相で、男達は囃し立て、大男はにんまりしながら、弓を構えた時だった。
「うぐうっ!」
そう言って、いきなり男が倒れてしまった。背中に矢が刺さっていた。ずっと男たちの後を付いてきたキムリが、木陰に身を隠し、隙を狙っていたのだった。
その様子を見て、両脇から機会を伺っていた、ニノ、ミノ、ヨノが、剣を抜いて一気に攻めかかった。油断していた男達は、剣さえももてない状態で、うろたえ、逃げ回ったが、あっと言う間に倒れた。こうして、クンマの里は守られたのだった。

矢炎.jpg
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