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3-1-13 ラシャ王 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

13. ラシャ王
翌朝、伊津姫は、船が大きく揺れるので、目覚めた。部屋にある小窓を開いてみると、船が動いているのだった。
伊津姫は、アマリを起こし、着替えると部屋を出た。昨日の、紺服の男は居なかった。階段を上がり、甲板に出ると、王と思しき男が、前方を見据えて椅子に座っていた。周囲を見回すと、同じような大船が2艘、脇を進んでいた。大船はどこかを目指して進み始めたのだった。
「お目覚めのようだな。」
王と思しき男は立ち上がり、伊津姫の前にやって来た。
「私が、ラシャだ。新しき国の王である。邪馬台国の王の血を受け継ぐ姫には、力を貸していただきたい。」
恭しく跪き、手を取ろうとした。伊津姫は、異様な態度に驚き、手を跳ね除けた。
「おやおや、この姫は、躾ができていないようだ。」
そう言いながら立ち上がり、力づくで姫の腕を掴むと、顔を近づけてきた。
「自分の置かれた立場をわかっておられぬようだな。・・・姫とは言え、そこにいる奴隷たちと変わらぬのだぞ。私の考え次第で、命を奪うこともできるのだ。・・おとなしく従うしかないのだ。」
そう言って、腕を強く握った。初老に見えるにも関わらず、恐ろしい力だった。
「さあ、おとなしく部屋に戻るのだ。・・おい、お前達、姫を部屋に連れて行け!」
その言葉に数人の男が姫を取り囲み、部屋に引き戻そうとした。
「この船はどこへ向かっているのです。」
伊津姫は、声を上げた。
「・・ほう・・気丈な姫様だ・・まあ、いいだろう。・・これより、八代に戻るのだ。・・さあ、もう良いだろう。連れて行け。」
伊津姫は、アマリとともに部屋に戻された。そして、部屋の扉には、外からつっかえ棒で出られぬようにされた。

「王様、サンウ様の船もまもなく合流されるようです。」
「うむ、万事、計画通り進んでいるようだな。・・・おお、そうだ、チョンソはどうしている?」
王の問いに、知らせに来た男は、返答に困っていた。
「よくならぬのか?」
「はい・・どうやら、バンの剣には毒が仕込んであったようです。傷は大したことはなかったのですが、毒の回りが速く、昨夜からずっと苦しんでおられます。おそらく、このままでは、明日までは持たないでしょう。」
「そうか・・・仕方ないのう。・・余りに苦しむようなら、楽にさせてやるが良かろう。」
チョンソとは、昨夜の今服の男の事であった。バンと争った時、右足にかすり傷を負ったのだったが、傷から毒が入り、もはや虫の息になっていた。
船は、不知火の海を北上して行った。

船室に閉じ込められた伊津姫とアマリは、小窓から外の様子を伺っていたが、時折、壁から漏れ聞こえる呻き声を聞いて、不気味に感じていた。昼時になり、扉が開き、食事が運ばれてきた。給仕に来た男に、呻き声の事を尋ねると、給仕の男は小さな声で「チョンソ様が苦しんでおられるのです。昨日の怪我でどうやら毒をいれてしまったようです。もう長くはないでしょう。」とだけ答えて部屋から出て行った。
二人は、その答えから、凡その事を理解した。
その後、呻き声は聞こえなくなり、数人の足音が船室の前を通りすぎた。何かを運び出しているような声も聞こえた。扉から聞き耳を立てていたアマリが、外から聞こえる話し声から、チョンソが死に、遺体を海へ流すのだと聞こえた事を伊津姫に話した。
あと少しで、陸に着くところで、船は停まったようだった。
船室の天井から、たくさんの足音が響いて聞こえた。どうやら、脇を走っていた船から、何人もが乗り込んできたようだった。甲板で、王と男たちが何かを相談しているのだろう。しばらくすると、再び、足音が響き、船が離れていくのが小窓からも見えた。

「ご機嫌はどうかな?」
夕暮れ近くになり、王が部屋にやってきた。
「明日には、八代の港に上がるぞ。・・・姫を迎える盛大な宴を開くのだ。・・多くの民が、姫を待っておるようだ。・・やはり、邪馬台国の名は侮れぬな。・・・邪馬台国の姫が我らと供にあると言うだけで、不知火の島々は、我らに従うのだからな。・・まあ、この先も、役に立ってもらわねばならぬのう。」
不敵な笑みを浮かべて、王は伊津姫の傍に来て、腕を掴んだ。
「何をしようと言うのです。」
伊津姫は、キッと睨みつけながら訊いた。
「まだ判らぬのか?・・邪馬台国の復活じゃ。お前を奉じて、邪馬台国を再びこの地に築くのだ。・・お前にとっても、それは大いなる望みであろう。」
「邪馬台国の復活?」
「ああ、そうだ。もはや、不知火にはわしにたてつく奴など居らぬ。わしは、この強大な力をもって、新しき国作りはあと一歩まで来て居る。お前を奉じ、邪馬台国とすれば、また、海の向こうの国々とも対等に付き合えるというものだ。」
「それは、邪馬台国ではありません。」
「では、どういう国なのだ?・・はるか昔、この九重の国々をまとめ、我が故郷ペクチュや、大国である魏にさえ、多くの使者を送り、この地の覇権を握った強大な国ではないか。」
「力で、人民を押さえつけるような国ではありません。」
「何を言う。民は王の物なのだ。皆、王のために働けばよいのだ。」
「違います。人々が穏やかに暮らせるようにするのが、王の役割です。支配するものではありません。」
ラシャ王は、伊津姫の言葉を苦々しい表情で聞いていた。
「ふん!・・まあ、いいだろう。いずれにしても、お前が我が手にあれば、九重の国々は、我に従うのだ。・・お前が何を言おうと関係ない。そこに居れば良いのだ。大人しくして居れ!」
王は、そう言うと不機嫌な表情のまま、部屋を出て行った。
しばらくすると、奴隷と思われる男が数人部屋に入ってきた。手には、金属の輪と鎖のついたものを持っていた。
「姫様、王の命令です。これをお付け下さい。」
そう言うと、男達は、姫とアマリを押さえつけ、足首に、その金具を取り付けた。そして、鎖の一方を船室の柱に取り付けた。伊津姫は足枷をつけられてしまったのだった。
邪馬台国の欧の血を受け継ぐものとして、邪馬台国の復活を彼岸としていたウスキの人々の顔を、伊津姫は思い出していた。そして、邪馬台国の王の血を受け継ぐものの重さを一層強く感じていたのだった。

百済王1.jpg
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