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3-1-14 八代の港 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

14. 八代の港
 ムサシの兵に加わり、港の中をうろつく日々が続き、エンも焦り始めていた。ここへ来てから、伊津姫の消息やバンの行方はまったく耳に入って来なくなっていたからだった。
 仲間の力を借りて、周辺の小さな村まで、姫と繋がる情報は無いか調べてもらったが、それらしい一行が入ってきたという話は掴めなかった。
「球磨川を下り、もっと北か、あるいは南へ行ってしまったのだろうか・・。」
 港の桟橋から遠くを眺めていて、ふと気づいた。はるか沖合いに、港に着く舟よりもさらに大きく、見たこともない形の船が浮かんでいたのだ。すぐにエンは、ムサシを探した。
港のはずれの浜辺で、仲間たちと居た武蔵を見つけた。
「ムサシ様、あの船は?」
エンは、はるか沖合いに浮かぶ船を指差して尋ねた。
「ああ、あれは、ラシャ王の船だ。はるか海を越えてやってきた悪の張本人があそこに居る。」
ムサシは、エンが指差した船を恨みの眼差しで見ていた。
「あそこに、姫もいるのでしょうか?」
「我らがここへ来て、あの船にそうした者が乗り込んだとは聞いていないが・・・。」
「では、どこに居るのでしょう。」
「あれから、我らも探ってみたが、バンやその一味の姿はないようだ。姫様が居るならすぐに判るはずだが・・。」
「王の船はずっとあそこに?」
「いや、数日前に姿を見せた。おそらく、もっと南の、そう、球磨川の下辺りにいたのではないか?」
そう聞いて、エンは気づいた。
バンたちの小舟は、あの浜には無かった。浜で船を下りず、そのまま沖合いにいた王の船に向かったに違いない。だから、この港にバン一味の姿はないはずだ。伊津姫は、今、王の船に囚われているはずだという考えに行き着いた。
「ムサシ様、きっと、あの船に伊津姫様は囚われています。」
エンは、自分の考えを話した。
「・・おそらく、そうだろう。それなら、ここにバンの姿が無いのもつじつまが合う。」
「あの船に何とかして乗り込む事は出来ませんか?」
「・・いや・・それは無理だ。・・・小舟で近づくだけで気づかれてしまう。」
「何とか、ならないものでしょうか?」
「うーむ・・」
「この港に着く事はないのですか?」
「あの大きさでは、この浅瀬には入って来れない。行き来する小舟がある程度だ。ほら、今、戻ってきたようだ。」
その小舟には、異国のものと思える青い服を着た男が二人乗っていて、地元の漁師を船頭にしているようだった。
「あれは?」
「王の側近・・と言っても、側近はたくさん居るし、あの青服のやつらは下っ端さ。みな、似たような身なりをしていて、区別がつかないが、色で身分が決まっているようだ。白い服が一番下、俺たちの着ている黄色い服がその上、そして、青、紺、緑、朱、と定められているようだ。王は真紅の布に金色の飾り物ですぐに判る。」
船の男たちは、舟を降り、港の広場に建つ、館へ向かって行った.
しばらくすると、急に騒がしくなった。館の中から、緑や朱の服を着た男たちが飛び出してきては、どこかへ消えていく。そして、白や黄色の服を着た者を引き連れて、館へ戻ってきては、また飛び出していく。
「何か、始まるのでしょうか?」
様子を見ていた、ムサシやエンたちのところにも、朱の服を着た男がやって来た。
「おい、お前たち、近くの村から、女たちを集めて来い!」
「はい、ご主人様。しかし、何が起きたのですか?」
ムサシたちは跪き、手を胸の前で組んで尋ねた。どうやら、こうして話をするのが習慣になっているようだった。エンも慌てて同じ格好をした。
「王が、港へ上がられるそうだ。・・そう、邪馬台国の姫も伴われているようだぞ。・・宴が開かれるから、その準備をするのだ・・さあ、急いで、行くんだ。良いか、若い娘をさらってくるんだ。」
朱の服を着た男はそういうと、どこかへ消えていった。
「どうします?」
「・・ほっといてもいいだろう。・・それより、姫様の所在がわかって良かったな。」
しばらくすると、桟橋の周囲には、紺色の服を着た男たちが集まり、人壁を作った。
エンたちも、王が到着すると聞き、桟橋へやってきたものの、紺色の服の男たちの人壁に阻まれて近づく事はできなかった。
沖から、やや大きめの船がやってきて、ゆっくりと接岸すると、船の周りには大きな白布が張り巡らされた。おそらく白布の中では、王や伊津姫が船から下りてきているはずだった。白布は、そのまま広場を抜け、館まで移動した。

翌日になると、港の広場には、数百という男達が集まっていた。どこから連れて来られたのか、多くの娘たちも、給仕や酌婦、歌や踊りで、宴の場を盛り上げるためにあちこちにいた。
皆、王の登場を今か今かと待っていた。大きな銅鑼が響いた。すると、館の中から、紫の衣を纏う男が現れた。大柄で、筋骨逞しく、もみ上げから顎にかけて黒々とした髭を蓄え、ぎらぎらとした目つきで、広場に集まった人々を見下ろすようにして、立った。
「あれが、ラシャ王ですか?」
エンがムサシに尋ねると、傍にいた紺服の男が、
「馬鹿、あれは、サンウ様だろうが!・・我ら、兵の大将だ。」
男のいうとおり、大将としての凛々しさを全身で表現しているようだった。
再び、銅鑼が鳴ると、紫の錦織りの布に金色の文様が浮かび上がった服を着た、やや小柄で白く長い口髭を生やした白髪の男が現れた。両脇に若い女性に従え、ゆっくりと姿を見せた。
「あれが?」
「ああ、ラシャ王様だ。遠く、海を越え、この地に新たな国を作るためにおいでになったのだ。」
「新たな国?」
「そうだ。海の向こうにペクチュという国があって、皆、豊かに暮らしているそうだ。その国の王族の一人が、あのラシャ王様なのだ。貧しき九重の国を豊かにしてくれるのだ。」
先ほどから、エンの隣で説明している男は、すっかりラシャ王を崇めているようだった。エンには、不思議で仕方なかった。
「大いなる力をお持ちなのだ。我らには見えぬ、はるか遠くの様子が手に取るように見えるそうだ。・・そのお力で、倭国のこの地を新しき国造りの礎にする事を決められたのだ。王に従えば、豊かな暮らしができるのだ。」
男はそういうと、歓声を上げた。広場に集う男たちは皆、剣を高く掲げ、歓声を上げて王を迎えた。

宴再現.jpg
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