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3-1-16 タクマの地 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

16. タクマの地
ラシャ王の大軍は、八代から陸路を通って、宇土へ向かった。現代と違い、まだこの一帯は山際まで海が迫り、平地はほとんどが湿地や干潟になっていた。
大軍を率いるのは、大将サンウだった。サンウは、ラシャ王とともに、海を越えてやってきたが、もともと、陸兵の大将であり、船を操るより陸兵を率いるほうが得意であった。サンウの軍は、行く先々の村で、収奪と破壊を繰り返していった。

エンは、八代を出てから、サンウの軍に紛れていた。大軍の中に、ラシャ王や伊津姫の姿が無いことに気付いた時には、すでにラシャ王の船は港を出て行った後だった。いずれは、ラシャ王とサンウの軍は落ち合うはずだと信じて、兵の中でじっと息を潜めて機会を伺っていた。

一方、ラシャ王は、船団を率いて、島原を抜け、白川の河口を目指した。陸兵が到着する前に、河口辺りの村を攻め、大半を降伏させた後、八代と同様に、拠点となる港を確保していた。

サンウの軍が、宇土の地に達する事には、兵の数は八代を出た時の倍に膨れ上がっていた。抵抗し皆殺しになる事を恐れ、渋々、軍に加わった者達も多かった。兵の半数くらいは、サンウへの恨みを抱いており、夜の闇の中で、サンウを襲う相談もあちこちでされていた。しかし、何故か、そうした企みはすぐに露見し、みなの前で処刑されるのだった。もはや、抵抗する気力さえも失った者達がただ盲目的にサンウの号令に従っているのだった。

ラシャ王とサンウの軍が、白川の河口近くのタクマという地で合流したのは、もう冬になりかけた時だった。
タクマは、なだらかな丘陵地帯で、周囲の沼地とともに開墾し、農地にした事で大きな集落が広がっていた。白川からさらに支流があり、湧水群もあった。海にも通じていて、豊かな暮らしがされていた。
しかし、ある日突然、ラシャ王の大船の集団に襲われ、一夜のうちに、ほとんどの男たちは殺され、残った女、子どもが奴隷として働かされていた。
館は、ラシャ王の住居となり、伊津姫もそこに囲われたのだった。
「王様、ただいま到着いたしました。」
館の広間には、サンウが跪いて王に挨拶をした。
「予想以上に時が掛かったようだが・・・。」
「申し訳ありません。一つ一つ、村を従えるのに手間取りました。しかし、お陰で、兵は倍に増えております。」
「そうか・・・まあよい。・・さてこれからだが・・・」
「はい、王様。この地を拠点に、さらに、北、筑紫野を目指すがよいかと思いますが・・。」
「ああ・・だが、その前に、阿蘇一族を何としても従わせねばなるまい。」
「阿蘇一族は、火の山より外へは出てまいりません。筑紫野を手中にした後でもよろしいのではないですか?」
「いや・・・千里眼の力で見る限り、あの一族は新しき国作りには、障りになるのだ。・・今は大人しいが、いずれ、脅威となる。・・・何か、新しき力、強き力を得て、我らを滅ぼしに来ると見えたのだ。一刻も早く、あの一族を滅ぼすべきなのだ。」
「強き力を得る前に、一気に攻め滅ぼせという事ですか。」
「ああ、そうだ。・・・今こそ、邪馬台国の姫の威光を使うのだ。邪馬台国の姫の使者と称して、阿蘇一族の奥深くに入り込み、中から一気に滅ぼせば良かろう。戦に慣れた一族ではない。お前の力を持ってすれば、容易かろう。」
「はい。」
サンウは、深く頭を下げ、館を後にした。

到着した兵達は、村の中の家々に分かれて休んでいた。村の女達は、兵の世話のためにこき使われていた。子ども達も容赦なく、荷物を運ばされたり、体を洗わされたりした。村のあちこちで悲鳴や泣き声が響いていた。
エンは、八代を出て、サンウの兵に紛れ、ここまで来たが、途中幾度と無く、無抵抗の村人が殺められる光景を目にしてきた。何度、止めようと考えたか、しかし、姫を救うまではと悔しさと憤りを押し殺していたのだった。そして、また、ここでも同様の悲劇を目の当たりにして、もう我慢も限界になっていた。
数人の男が、若い娘をからかい、弄ぶ光景を見て、ついに我慢の糸が切れた。
「もう、止めろ!」
「何だと!」
「何だ、お前。黄服ではないか!我ら、紺服にたてつくつもりか!」
男たちは、少し酒が入っているのか、剣を大振りしながらエンに迫った。さほど強くない、エンは軽く剣をかわし、男たちの首筋を殴りつけた。難無く、男たちを倒す事ができた。
「さあ、もう大丈夫だ、早く、逃げるのだ!」
その娘は、その光景を見て、小声で言った。
「もしや、エン様では?」
名を呼ばれたエンのほうが驚いた。
「ああ、そうだが・・・」
「こちらへおいで下さい。」
その娘は、家並みの裏手にエンを案内した。通りでは、ようやく気がついた男たちが、エンの姿を探して走り回っているような様子が聞こえていた。

「私は、アマリと申します。姫様のお世話役をしております。ずっと貴方様をお探ししておりました。」
「そなたが、アマリか。若い男だと聞いていたが・・・。」
アマリは事情を説明した。そして、
「姫様は、今、館の奥に囚われておいでです。先ほど、サンウが来て、北へ向けて進軍すると言っておりました。姫様を連れ、阿蘇一族の元へ行くとの事です。」
「そうか・・やはり、阿蘇へ行くか。姫様はご無事か?」
「はい・・時が来るまでは辛抱とおっしゃって・・時々、妖しげな薬を飲ませられ、苦しんでおいでですが・・・」
「それで、これからどうすればよい?」
「姫様は、輿に乗って北へ行かれるようです。エン様、輿を担ぐ人夫に紛れて、姫様のお傍においで下さい。・・大丈夫です。・・その為の手筈は整えてあります。」
「そうか・・・しかし、どうして、俺がここに居ると知ったのだ?」
「はい、ウスキのイノヒコ様が、昨夜、館に忍び込んで参られました。」
「何?イノヒコ様が・・そうか・・それでイノヒコ様は?」
「さあ、わかりませぬ。阿蘇に向かわれたのかもしれません。」

原野.jpg
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