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3-1-17 瀬田へ進軍 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

17. 瀬田へ進軍
三日ほど過ぎた日、サンウの大号令によって、大軍は阿蘇を目指し進軍を始めた。白川沿いを黄服の兵を先頭に、ゆっくりと上っていく。
早朝に先頭が出発してから、荷車に大量に剣や矢、食糧も積み込んでそれに続き、半日ほどして、ようやく、サンウの本隊が宇土を出るくらい、大軍の進行には時間を要した。この国ではかつてないほどの大軍であった。

エンは、アマリの手引きどおり、伊津姫の輿を担ぐ人夫に紛れたが、伊津姫と話し機会はなかなか訪れなかった。ただ、アマリを介して、エンが傍に居る事は伊津姫に伝えられており、この先の阿蘇に、カケルがきっと待っている事も知らされていた。

阿蘇までの道は狭く、蛇行する川を幾度も渡らねばならず、その度に大軍は手間取り、混乱を極めた。
目指す阿蘇は遥か遠く、大軍は一ヶ月かかってようやく外輪山の裾野辺りまでに到達した。もうすっかり、冬に入っていた。九重は、海岸近くは冬も温暖であるが、阿蘇まで行くと相当冷え込む。外輪山には雪も積もる事も珍しくなかった。
兵たちの多くは、不知火の海辺の生まれで、阿蘇の冬の寒さなど知る由も無く、大将サンウも承知していなかった。兵の中には、薄衣しか持たないものも多く、寒さに震えた。中には、寒さで動けなくなる者も出てくるようになった。
サンウの大軍は、阿蘇の外輪山の麓あたり、「トマキ」と呼ばれる白川の谷あいまで一度は進軍したが、冬の寒さと立ちはだかる岸壁に絶句し、立ち往生した。
さらに、兵たちの中には死者さえ出す有様となり、一旦、川を下り、白川の丘陵地「瀬田」の地に陣取った。
大きな集落もない地で、サンウの兵たちは、寒さに震えながら、周囲の森から木を切り出し、簡易の住居を設えた。
食糧も底を尽きかけており、結局、瀬田を拠点に、周囲の村から収奪を繰り返した。それでも間に合わない状態にもなり、ついには、兵は宇土を出た時の半分以下まで減っていた。残った者たちも、もはや、サンウへの忠誠心等無くなっていた。兵の中で、食糧の奪い合いさえ起きる始末で、とても戦など仕掛けられる状態にはなかった。
この状態は、すぐにも、宇土の地にいるラシャ王の知るところとなった。
「サンウともあろう者が、何たる事だ!」
王は、大将の不甲斐ない状態に激怒し、ついには、舟を降り、残った兵を引き連れて、白川を上った。

王の進軍の知らせを聞き、その日から、サンウは落ち着かなかった。
王の逆鱗に触れ、命さえ奪われるかもしれないと覚悟を決めていたのだ。
少しでも王の機嫌を取ろうと、王が滞在できるよう、立派な館を作ろうとした。しかし、忠誠心を欠いた兵たちはいっこうに動こうとしない。サンウは、逆らう者を見せしめに処刑し、力ずくで兵を動かし、どうにか館と呼べる程度のものを完成させた。

ようやく、暖かな陽射しが降り注ぐ頃に、王は到着した。
サンウの用意した館に王は入り、すぐにサンウを呼びつけた。
「サンウよ、お前には落胆させられたぞ!」
王は、これまでに無く不機嫌であった。
「申し訳ございません。しかし・・ここの寒さは予想以上で、兵たちの士気はすっかり落ちてしまいました。」
「それを食い止めるのが大将の仕事であろう。」
「はい・・・。」
「まあ、良い。大軍なくとも、阿蘇の地を落とす方法はいくらでもある。良いか、サンウ。我らがこの地へ居る事は、おそらく阿蘇一族の耳に入っているはずだ。戦支度を始めているかも知れぬ。すぐに動けば、阿蘇一族も、一層態度を硬くするにちがいない。」
「はい・・しかし・・」
「まあ、聞け。・・・今は春だ。すぐに、畑を広げ、この地で村を築くのだ。どうせ、食糧も少ない。戦に備えるためにも、まずは、この地を拠点にするのだ。そして、阿蘇の地へ踏みいる事の出来る道も造るのだ。・・阿蘇一族とて、外と通じる隠れ道を持っておるはずだ。時をかけても良い。道を見つけ、進軍する手はずを整えよ。」
「しかし、阿蘇一族が新たなる力を手に入れる前にと、仰せになりましたが・・・。」
「もはや、遅い。さきほどこの地に来て、千里眼で阿蘇一族の様子を探ってみた。すでに、新たなる力は阿蘇一族におるようだ。なかなか手ごわいようだ。恐ろしき力を持った男が、阿蘇一族についておる。まともに戦をして勝てる相手ではない。」
「それほどの力を持つ男とは・・いかほどの者なのでしょうか?」
「・・ヒムカの国を救った勇者、賢者と呼ばれておる。まだ、若いながらすばらしき知恵を持ち、時に、獣を越えた力を出す。・・名は・・・カケルと呼ばれておるようじゃ。侮ってはならん。じっくり策を考え、時をかけて攻めるしかないぞ。」

館の床下に潜み、王とサンウの会話に聞き耳を立てていたエンは、驚いた。
ラシャ王の千里眼は、まだ訪れた事のない阿蘇の様子をしっかりと掴んでいた。恐ろしき力だと改めて感じた。
ゆっくりと、その場を離れ、館の裏手から出ようとした時だった。
「何者だ!」
黒服に身を包んだ小男が、剣を構えて、そこに居た。
「怪しい奴、何をしていた!」
ここで騒ぎを起こし、素性を知られるわけにはいかない。とはいえ、このまま捕まることも出来ない。エンは、懐に忍ばせた小刀に手を掛けて身構えた。相手も、エンの腕のほどを見極めようと、ゆっくりと構え、にらみ合いとなった。
その時だった。
「うぐっ」
突然、黒服の小男の口を塞ぎ、背後から羽交い絞めする者が居た。
そして、そのまま地面に倒し、馬乗りになって、静かに胸に短剣を突き刺した。それは驚くべき素早さだった。その小男は、すぐに果てた。
「エン様、大丈夫ですか?」
小男を倒したのは、イノヒコだった。
「イノヒコ様!」
「エン様、お手伝い願いませんか・・すぐに、この男をどこかに隠さねばなりません。」
すぐに二人で男を近く似合った白布に包み、集落を出て、白川まで運んだ。遺体を川の流れに投げた。

冬の阿蘇2.jpg
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