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3-2-1 カケル ウスキへ [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

1. カケル、ウスキへ戻る
五ヶ瀬の里を抜け、カケルとアスカがウスキに到着したのは、伊津姫たちがクンマの里へ向かってから、一年近く経ってからだった。
五ヶ瀬川の谷あいの道を、ウスキを目指していくと、ウスキの西側に、砦が出来ている事に気づいた。中に数人の若い男がいるのも判った。
カケルとアスカが、砦に近づくと、中から弓を持って、男たちが飛び出してきた。
「どこへ行くつもりだ!」
「ここから先はウスキの里だ、用のない者は入れぬ!」
カケルに比べれば、背丈も小さくひ弱な体つき、構えた弓もぶるぶると震えているようだった。
カケルが、村を出てから3年近くが経っている。カケルがいた頃には、まだ幼子だったに違いない。必死で村を守ろうとしているのが健気で切ない。
「私の名は、カケルと言う。こっちは、アスカ。・・すまないが、伊津姫様に合わせていただきたい。」
「何?伊津姫様に?・・駄目だ!会わせられぬ。」
事情が飲み込めず、仕方なく、カケルは言った。
「それならば、巫女様か・・エン・・いや、エン様でも良い。呼んで来てくれぬか?」
「駄目だ、帰れ!帰らぬと命を落とす事になるぞ!」
脅す声も震えている。
「・・困ったな・・・どうしても駄目か?」
「駄目だ、ここからは、誰も入れるなと、キイリ様に言われているのだ!」
「・・誰でも良い・・・とにかく、カケルが戻ったと村に伝えてきてくれぬか?」
そう言って、カケルは、その場に座り込んだ。そして、土下座をして頼んだ。
その様子に、男たちは顔をお集めてひそひそと話し始めた。そして、
「判った・・とりあえず、そう言って来よう。だが、ここから一歩も動くんじゃないぞ!」
そう言った若い男が、村に向かって走っていった。
カケルは、顔を上げて剣や弓を下ろし、大の字になって寝転がった。アスカは、そんなカケルの仕草が可笑しくて、笑い出してしまった。
「こら、女、何が可笑しい!静かにそこに座っておれ!」
そう言われ、アスカもカケルの脇に座り込んだ。
「アスカ、こうして寝転がってみろ!気持ちいいぞ!」
アスカもそう言われて横になった。目の前に、雲ひとつ無い青空が広がっていた。

しばらくすると、西の砦に向かって、たくさんの足音が響いてきた。わあわあと何か叫ぶ声も聞こえてきた。西の砦で、カケルたちを見張っていた若い男たちも、その様子が尋常出ないことに気づいた。
たくさんの人が走ってくる。その先頭を、水守のマナが走っている。着物の裾がめくれるのも気にせず、一目散に駆けてきたのだ。
カケルは、その様子に気づいて、むくりと起き上がった。
「ああ・・大騒ぎになったな・・・さあ、どうする?」
そう言って、頭を掻いた。
「カケル様ーーー!」
里中に響き渡るような大きな声を出して、マナは駆けてきた。そして、カケルの姿を見つけるとそのまま突進して、カケルに抱きついた。その光景は、カケルがモシオの村へ到着した際の、アスカとそっくりだった。
「おい、おい、マナ、もう良いだろう。」
カケルは、首に巻きついていたマナの手を優しく解くと、マナの肩に手を置いて、じっと顔を覗きこんだ。そして、ニコリと笑ってから言った。
「マナ、随分大きくなったな。何だか、綺麗になって・・もう、立派な娘だな。」
その言葉に、マナは急に恥ずかしくなり、真っ赤な顔になった。
カケルの脇では、アスカがそっと微笑んでいた。
「カケル様、、カケル様、本当に、カケル様だ!」
「ご無事でよかった。」
「お帰りなさいませ。」
マナの後を追うように駆けてきた村人たちも、次々に、カケルと取り巻いて帰還を喜んだ。
西の砦で、カケル達を足止めさせた若者たちは、一体何がおきているのか判らず、ぽかんとした表情で見ていた。
「さあ、館へ。お疲れでしょう、さあさあ。」
皆に囲まれるようにしながら、カケルとアスカは、館へ向かった。
「あの方は一体?」
その様子を見送っていた若者の一人が呟くと、マナがキツイ口調で言った。
「あの方は、カケル様。この村を救ってくださった大事なお方なの!貴方たちも、小さい頃にお会いしているはずよ?覚えていないの!」
若者たちは、その言葉を聞いて、記憶を辿り、一人の若者が「あっ」と声を上げた。
「あ・・そうか・・あの弓比べで・・鳥を打ち抜いて・・」
そこまで言うと、もう一人の若者も、
「ああ。思い出した・・・そうだ、マナの泉を見つけてくれた人だ!」
「もう、何。今になって思い出すなんて!」
マナは呆れ顔でそう言った。
「でもさ。あの女の人は誰だ?」
カケルの横にぴたりとくっついて、歩いていく後姿。マナも、カケルに抱きついた後、脇で優しく微笑む女性を気にしていた。
「・・ウル様が話していた、女神様か?」
「ああ、きっとそうだ。あんなに美しい女の人を初めて見たよな。」
「きっと、カケル様のお嫁様なんだろうなあ。」
そうはしゃぐ若者たちの横で、マナはキッと若者たちを睨んだ。
「そんなわけない!」
マナはそういうと、村人とともに館へ駆けていった。

館に着いたカケルとアスカは、巫女の出迎えを受けた。
「遅くなりましたが・・戻りました。皆さん、お元気そうで・・」
カケルとアスカは、巫女の前に跪き挨拶をした。
「良くご無事でお戻りくださいました。・・ええ、貴方のおかげで、村は豊かになり皆元気に暮らしております。」
3年ぶりの帰還、前にもまして逞しくなったカケルの姿を目の当たりにして、巫女は涙ぐみながら迎えた。
「さあ、館の中でお休みください。」
カケルは、村の周囲を見渡し、誰かを探しているようだった。館の広間には、カケルの帰還を祝うための食べ物や酒が並んだ。主だった村人も、広間に入った。

国見岳3.jpg
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