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3-2-4 峠越え [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

4. 峠越え
夜になり、カケルは、以前に使っていた家を再び使うことにした。巫女たちは、館を使えばよいと言ってくれたのだが、落ち着かないのでと断って、アスカをつれて家に入った。留守中も、時々掃除をしていてくれたようで、すぐに使えた。
カケルは、囲炉裏に火を入れてから、藁積みの寝床に横たわった。アスカは、囲炉裏端に座って火の加減を見ていた。
「どうだ?アスカ、この村は?」
「ええ・・とても素敵なところ。皆、温かい人ばかりで・・・少し、モシオと似ている。」
「ここは、長い間、邪馬台国の王族がずっと息を潜めて生きてきた村。私がここへ来た時には、みな押し黙ったように外の世界と縁を切って生きていたんだ。・・随分、変わった。みな、明るくなって、幸せそうだ。」
「伊津姫様が居らしてから、変わったんでしょう?」
「ああ、そうだ。伊津姫様は、この村の太陽みたいなものだった。」
「どうするの?伊津姫様をお救いに行くんでしょう?」
「ああ、だが、エンもお傍にいるはずだ。無事に戻ってこられるのを待つしかないか・・それとも、一度、クンマの里へ向かってみるか・・・どうしたものか。・・・」
カケルは、ここまでの疲れが一気に出てしまった様で、そう言いながら眠ってしまった。アスカは、カケルの寝顔を見つめた。

翌朝、カケルとアスカは、マナに案内を頼んで、村の中を見て回った。皆、熱心に畑仕事をしていた。若者たちは、猩猩の森で狩りをしているようだった。
昼を回った頃だった。西の砦から、館へ知らせが届いた。伊津姫たちとともに、クンマの里へ向かったキトリが戻ってきたのだった。カケルたちは急いで、館へ向かった。

キトリは、夜どおし、山道を駆けてきたのだろう。疲れ果てて館の広間に寝かされていた。カケル達が館に着くと、キトリは驚いた様子で、起き上がってカケルを迎えた。
「カケル様・・・申し訳ありません・・本当に・・申し訳ありません・・・」
キトリはそう言い、泣き続けた。何があったのかと巫女に訊くと、巫女も悲しげな表情で口を開けなかった。
「一体、どうしたのだ?伊津姫様に何かあったのか?」
キトリはようやく落ち着き、クンマの里で起きた事の一部始終をカケルに話した。

「そうか・・伊津姫様らしいな・・・しかし、バンという男、どういう素性なのだ?」
「さあ・・今、イノヒコ様達が、方々へ歩いて調べていらっしゃいますが・・。」
「球磨川を下り、八代へ向かったのは間違いないのだろうな?」
「はい。しかし、その先は判りません。ただ、九重を支配するというのですから・・相当の兵力を持っているのかもしれません。クンマの里も備えをしています。」
「九重を支配する等とは・・・その為に、邪馬台国の姫を奉じるというのか!」
そこまで聞いていた巫女が口を開いた。
「九重を支配するには、まず、火の国を手中にしなければなりません。きっと、阿蘇一族とぶつかるはずです。・・火の国は、クンマ一族と阿蘇一族とで協力して治めていたのです。国が乱れることを阿蘇一族は許さないはずです。」
「阿蘇一族?」
「ええ、祖母山を越えた先に、阿蘇の御山があります。御山を守る民が阿蘇一族です。気高き一族です。神代の頃から、その地を治め、他から侵される事を嫌います。我らの祖先が、筑紫野より、逃れた時、一度、阿蘇へ入りましたが、そこで暮らす事は許されませんでした。例え、邪馬台国の王と言えども、他の者を入れることは許されぬ事なのです。・・バンとかいう男が、伊津姫様を立てて、阿蘇へ向かうとしても、おそらく阿蘇一族は命を掛けた戦を選ぶでしょう。そうなれば、伊津姫様にも危険が及ぶことになります。」
巫女は知りうる事をみな話した。
「どうします?」
館に集まっていた村人は、不安な面持ちで、カケルの判断を待った。
カケルはじっと眼を閉じて考えた。そして、目を開け、村人の顔を見回して言った。
「まずは、この村の備えをしっかりしましょう。・・何が起こるかわからない。しっかり蓄えることと、川下の村とできるだけ連絡を取りましょう。」
「戦支度は?」
「いえ、必要ないでしょう。私は、阿蘇へ行きます。そして、戦にならぬよう阿蘇一族と話をします。戦をせず、バンたちの動きを封じる方法があるはずです。そして、伊津姫様を救い出します。・・エンも傍にいるのです。大丈夫です。」
村人たちは、カケルの言葉をしっかり受け止めたようだった。
「巫女様、巫女様のお力で何か見えませぬか?」
カケルは巫女に尋ねた。巫女は首を振った。
「この村に起きる事ならば、見えるのでしょうが・・遠い地の事は・・・ですが、カケル様が言われるとおり、この地に災いが及ぶことはありません。今は、しっかり日々の仕事に精を出すことです。」
巫女の言葉は、村人を一層落ち着けることになった。
「ならば、私は、明日にでも阿蘇へ向かいましょう。」
マナはその言葉を聞いて、反射的に言った。
「アスカ様もご一緒に?」
カケルは、マナの真意が良く判らなかったが、その問いに答えた。
「アスカもつれてまいります。・・皆さんにはまだお話していませんでしたが・・・」
そう言って、傍にいたアスカのほうを見てから、確認するような目線を送ってから言った。
「私がタロヒコを倒したのは、アスカの力があったからなのです。・・皆さんも知っているように、私は時に獣のような力を持つ事があります。」
村人たちは、洞窟での一件を思い出していた。
「あの力を使う時、私は命を削るほどの辛い思いをします。・・その時、アスカが私の体を特別な力で癒してくれたのです。きっと、アスカと私は特別な縁で繋がっているのだと思っています。・・阿蘇一族もそう容易く協力してくれるとは限りません。もしも、またあの力を使わざるを得ない時、アスカが居てくれないと困るのです。」
アスカは、カケルが自分を必要としてくれている事を皆の前で話したのは初めて聞いた。
長くともに居るが、モシオの村を出ようと決めた時以来、そんな話をするカケルを見たのは初めてだった。アスカは涙が零れた。
「キトリ様、途中までの道案内をお願いします。」
カケルとアスカは、翌朝には旅支度をして、キトリの道案内で、五ヶ瀬川の支流沿いに山深く進み、阿蘇へ向かった。

御成山.jpg
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