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3-2-5 タツルとの出会い [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

5.タツルとの出会い
幾つかの峠を越え、二日目の昼には、御成山の麓に到着できた。
「この先の峠を越えると、阿蘇一族の地です。」
「キトリ様、ここまでありがとうございました。ここからは二人で参ります。」
「私もまだ足を踏み入れた事のないところです。ウル様のお話では、峠を折りたところに、一つ集落があるそうです。ですが、阿蘇一族は、御山の北に住んでいるそうです。南側から回り込むか、東の山あいを抜けていくか、いずれにしても、まだまだ先です。どうか、お気をつけて。」
「ウスキの皆様によろしくお伝え下さい。」
カケルとアスカは、キトリと別れて、峠に向かった。
「アスカ、大丈夫か?まだまだ遠いぞ。」
「大丈夫です。今までも、長い長い山道をこうやって歩いてきましたから。」
御成山の峠に着いた時には、もう日が傾いていた。山あいは日暮れには獣も襲ってくる。二人は、木々の中にある小さな穴に身を寄せて朝を迎えた。峠を一気に下り始めると、眼前に、阿蘇の御山が見えた。
「御山が煙を吐いてる。」
アスカは、木々の間から時折見える御山に、感動した。御山の周りには、緑の草原が広がり、、行く筋もの川の流れが見えた。最後の急斜面を下ったところに、小さな集落があった。
しかし、人影がまったく無く、家の中を覗いてみると、埃が積もり、しばらく誰も住んでいない様子だった。水飲み場だったあたりには、土砂が崩れた跡もあった。
「大雨か何かでここには住めなくなったようだな。」
「これからどうしましょう。」
「もう日暮れになる。今日はここで休んでいこう。」
カケルは、誰も居ない集落の中の一軒に入り、体を休める場所を設えた。その日は、そこで過ごす事にした。
翌朝目覚めた二人は、これからの行き先を相談した。
「キトリ様の話では、南側から回っていくか、山あいを抜けていくかと言っていたが・・。」
「きっとどこか近くに村があるはずよね?」
「ああ、きっとあるはずだ。よし、南側を回っていこう。御山の周りの様子を知っておく事も良いだろう。・・バンたちがやってくるのも、西からだ。そちらをみて行こう。」
二人は、なだらかな草原が続く中を歩いていく事にした。しばらく歩いていくと、低い木立の森が見えた。森からは細い川が行く筋も流れ出ていた。それらが合流したやや大きな川に沿って、歩いていった。
すぐに集落が見えてきた。だが、そこも誰一人住んで居なかった。さらに西へ進んだ。次の集落も、同じようにひと一人いない。
「何だか、変だな。これだけの集落で、誰一人居ないなんて。」
「何か、あったのかしら?」
遠くには、阿蘇の御山が、煙を噴き続けていた。昨日よりも、少し噴煙は黒く、高くまで上がっているようだった。
「いつも、御山は煙を噴いているのかしら?」
二人はさらに歩いて、阿蘇の御山がちょうど東に見える辺りまで辿り着いていた。
「少し、疲れたか?」
カケルがアスカを気遣った。
「大丈夫。それよりも、これだけの大地で誰にも会わないなんて、一体、どうしたのでしょう。」
「うむ、少し変だな。・・巫女様の話では、阿蘇一族は随分大きな村を作っているようなのだが・・」
そう話していた二人の目の前に、茶色の大きなものが立ちはだかった。
「お前達は何者だ!」
声は、頭の上から聞こえてくる。見あげると、大きな馬にまたがった男が二人を睨みつけていた。馬上の男は、全身に獣の皮を纏い、髪は黒くもじゃもじゃで、顔も髭で覆われていた。目だけが輝いて、まるで、野人のようだった。
カケルは咄嗟に腰の剣に手をかけた。男は、ひょいっと馬から降りて、二人の前に立った。
「何処から来た?」
男は、カケルが剣に手をかけている事など気にもしていない様子で、尋ねた。
「御山が煙を吐いている時は、風下に居てはならない。そんな事も知らないようだから、この辺りのものでは無いだろう?・・何処から来た?」
カケルを制して、アスカが答えた。
「私達は、ヒムカの国ウスキの村より参りました。」
「ほう・・まだ幼い娘のようだがきちんと話が出来るようだな。・・ウスキから来たとな?」
「はい、御成山を越えて参りました。阿蘇一族の方にお会いしたくて来たのです。」
「御成山を越えてきたというのか?正気ではないな。この時期、御山の南は、怖ろしき毒気が漂い、ほんの僅かにそれに触れると死んでしまうのだぞ。・・よく、無事でここまで来れたものだ。・・名はなんと言う。」
「私は、アスカ。そして、こちらはカケル様です。」
「・・カケル?・・まさか、あのタロヒコを倒したという賢者、カケルか?」
そう言われて、カケルは剣から手を離し、男に一礼をした。そして改めて名乗った。
「私は、ナレの生まれ、カケルと申します。タロヒコを倒したのは確かですが・・賢者などではありません。未だ、アスカケの身、己の生きる意味を探しております。・・貴方様は?」
「ああ、済まぬ、俺は、タツルというのだ。今日は、御山がいつもよりお怒りの様子で、辺りを見回っていたのだ。・・やはり、お前達が居たのだな。御山はよそ者が足を踏み入れると、機嫌が悪くなる。・・そうそうに、阿蘇から出てもらいたい。・・ここから川に沿い進めば、立野という村に出る。そこまで行けばだいじょうぶだろう。さあ、早く立ち去れ!」
「いえ・・我らは、阿蘇一族の長にどうしてもお会いしたいのです。いや、お会いせねばなりません。ここで立ち去るわけには行きません。・・どうか、一族の皆さんの下へお連れ下さい。」
タツルは、腕組みをしたまま、カケルとアスカをじっと見て、少し考えていた。そして、
「長に会いたいというのか?・・一体、どういう用件だ?」
「いえ、それは長様にお会いした時にお話いたします。」
カケルはきっぱりと答えた。用件を伝えるには少し込み入った話になる。取り違えられれば、さらに困った事態になるだろうと考えたのだった。
「困ったな。・・大体、我ら一族の事をお前はどれくらい知っているのだ?」
そう言われて、カケルも答えに困った。
「・・御山をお守りする気高き一族であると聞いております。・・それ以上は・・」
「長がどういう人物かも知らぬのか?」
「はい、ですが、気高き一族の長なれば、会いたいと申す者をむべもなく反したりはしないと信じております。」
「そうか。わかった、ならば、一つ試してみよう。」
そう言って、タツルが大きく指笛を鳴らした。

阿蘇4.jpg
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