SSブログ

3-2-6 馬を駆る [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

6.馬を駆る
タツルの指笛は、谷に木魂した。やがて、どこからか5,6頭の馬が駆けてきた。黒く光ったものや、白い毛並みの馬も混ざっていた。1頭の茶色の毛並みの馬は、タツルに近づいてきて、鼻をタツルに摺り寄せてきた。
「よし、よくやった。」
タツルは馬の鼻を撫でてやりながら、カケルに向かって言った。
「今、こいつが谷に居る仲間を連れてきた。我ら一族と会うためには、こいつに乗れなければならぬ。お前が、こいつらのどれでも良い、ちゃんと乗りこなせれば、村へ案内しよう。お前は、賢者としてわが一族でも名前は知られて居る。本物のカケル様であれば、これくらい造作も無いだろう。さあ、やってみろ!」
タツルはそう言うと、茶色の馬にひらりと飛び乗って、カケルの様子を見ている。
カケルは戸惑いを隠しきれない。馬に乗るなど、見たこともやったこともない。いや、そればかりか、馬を間近で見るのさえ、初めてであった。
「さあ、どうだ?」
タツルは、いっそう挑戦的な目でカケルを見た。アスカも、心配そうにカケルを見守った。
カケルは決意して、馬を捕らえようと馬に駆け寄った。しかし、馬達は、一斉に走り出し、少し離れた場所に行き止った。再びかけるが走り寄るとまた逃げた。しばらくそうやって追いかけっこが続いた。
「どうした!馬を捕らえねば、乗る事など出来ぬぞ!」
タツルは、カケルを馬鹿にしたように言う。その時だった。カケルの腰に挿した剣がきらりと光った。カケルはそれに気付いた。そして、タツルを見ると、アスカに言った。
「アスカ、しばらくこれを預かってくれ!」
そう言うと、剣を外し、アスカに放り投げた。アスカはそれを拾い上げ、大事に抱きかかえた。それからカケルはその場に立ち、両手を広げた。
「どうした?もう諦めるか?」
タツルがそう言うのと同じくらいに、一頭の白い馬が、そっとカケルに近づいてきて、静かにカケルの脇に立った。カケルは、そっと手を上げて、馬の胴体に触れた。白馬は、ぶるっと一度身を震わせたが、その場で静かに立ったままだった。カケルが小声で何かを呟いた。すると、白馬は、鼻面をカケルに向けた。カケルは、先ほどタツルがやったと同じように、鼻を擦る。すると、白馬がゆっくりと頭を下げた。どうぞ、お乗り下さいと言っているように見えた。カケルは「うん」と頷くと、馬の首に手をかけて、するりと乗った。少しおぼつかない様子ではあったが、タツルのように背を伸ばし、まっすぐに馬にまたがって見せた。
「ほう、さすが、カケル様だ。あっという間に、馬を扱う術を見抜かれたな。・・良かろう、村へ案内しよう。・・・ええっと、アスカ様は私の馬へ乗られるが良かろう。さあ。」
タツルがそう言うと、アスカは、
「いえ、大丈夫です。私は、カケル様とともに行きます。」
「いや。それは無理だろう。その馬は、人を乗せる事など初めてなのだ。暴れるに違いない。落ちると怪我をしますぞ。」
そういうタツルを断って、アスカはカケルの馬のほうへ歩いた。カケルも自信は無かったが、アスカに手を伸ばし、馬の背に引き上げた。白馬は、微動だにせず、じっとアスカを背に乗せたのだった。
「これは、驚いた。その馬は、私でさえ手を焼く馬なのだ。・・やはり、カケル様は本物のようだ。・・・では、参りますか?」
タツルはそう言うと、馬を進めた。アスカは、カケルの前に横座りの状態で、手には剣を抱えたままであった。
カケルはアスカの体を強く抱き、馬の首に手を伸ばし、タツルと同じように馬を操った。最初はゆっくり歩き始め、次第に足を速めた。
馬の背で、アスカはカケルに強く抱かれた状態だった。太い腕がアスカの腰辺りを強く抱いている。今まで感じた事の無い幸福感を感じていた。どこか体の芯が熱くなる感覚であった。

御山の北にも同じように草原が広がっていた。ところどころに細い川が流れていた。草原を馬はひた走る。しばらく良くと、高い山が前方に見えてきた。そして、その山裾の森の中に、道が続いていた。森の中に入ってからは、ゆっくりと進んだ。そして、集落らしきものが見えたところで、タツルが馬を止めた。
「カケル様、その馬はここで野に帰してやりましょう。ここからは、村まですぐです。ここからは歩いて行ってください。」
「タツル様は?」
「私は、まだ見回りの仕事があります。・・ああ、村の入り口には門番は居ます。タツルの案内で来たと言ってください。後は、村の者の言うとおりにしてください。夜には、きっと長も会ってくれるでしょう。」
タツルはそれだけ言うと、草原へ向かって駆けて行った。
「よし、行こうか。」
カケルは、アスカを抱いたまま、馬から降りた。アスカは、長い時間、カケルに抱かれていて、身も心もうっとりした状態で、何だか力が入らず、その場に座り込んでしまった。
「アスカ、大丈夫か?馬の背で揺られて気分が悪くなったのか?」
アスカは、今の自分の状態に、とても恥ずかしくなってしまっていた。
「・・だいじょうぶです。・・少し、こうしていれば戻ります。」
そう答えるのが精一杯だった。
森の中の道が少し開いたところから、村が見えた。
「行きましょう。」
ようやくアスカは立ち上がる事ができた。まだ少しふわふわしていたが、何とか歩けた。
ほんの少し、進むと、大きな村の大門に着いた。タツルの言ったとおり、門番らしき躯体の良い男が二人、長い棒を持って立っていた。二人が近づくと、すぐに気付き、棒を突き出して二人を止めた。
「何処から来た!ここに何の用だ!」
繭を吊り上げ、威嚇するような表情で二人に迫る。
カケルはその場に跪いた。アスカもカケル同様に跪いた。
「我らは、ウスキの村より参りました。ここへは、タツル様の案内で辿り着きました。」
そう言うと、急に門番の二人は、顔を付き合わせた後、二人に背を向けて、ひそひそと何か話している。
「本当かな?」「嘘だろう?」「しかし、・・」
何度か、そういうやり取りをしたようだった。そして何か決まったのか、二人のほうを振り返ってから言った。
「タツル様とはどこで会った?」
「西の谷でお会いしました。」
「わかった、お前達を信じて、中に入れてやる。」
大門が開かれ、二人は村の中へ入った。

阿蘇3.jpg
nice!(9)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 9

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0