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3-2-7 阿蘇一族 [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

7. 阿蘇一族
大門を潜り、村の中へ入った二人は、驚いた。大勢の人が行き来していた。今朝から見てきた誰一人居ない集落とは打って変わって、ここは人が溢れているように見えた。それに、途轍もなく大きな館が、整然と立ち並んでいる。ヒムカの国の村の多くは、柱を立て萱を吹いた小さな家ばかりが集まった集落で、長の住む館でさえそれほど大きくない。しかし。ここは、人々の住居が、四つの太い柱を汲み上げ、床も地面からかなり高い位置に設えられ、木を薄く削った板が嵌められた作りをしているのだ。家の床下には、牛や鶏、犬も飼われていた。自分達が見てきた村とは全く違うものだった。
門番が知らせたのか、村の奥のほうから、袖口が赤く染められた白い着物を着た女性数人が慌ててやってきた。
「タツル様のお客様ですね?」
少し年配の女性は、そう言いながら駆け寄ってきた。
「はい。」
「どうぞ、こちらへ。さあどうぞ。」
名も聞かず、強引に二人は村の奥へ連れて行かれた。村の一番奥には、更に大きな建物が会った。大きいだけではなく、奇妙な形をしている。床には大きな岩が綺麗に並べられ、その上に太い柱が建っていて、さらに丸太が隙間無く並んで壁のようになっている。その上に、三層になった建物が建てられている。屋根も大きな柱が斜交いに組まれ、先端は細く削られ、まるで剣のような形に細工されていた。さらに、建物全体を包むように、太い荒縄が周囲に巻かれているのだった。
「ここは?」
「御山をお守りする社です。」
「やしろ?」
「ええ、我ら一族の神聖なる場所です。さあ、どうぞ。」
先ほどの女性が、さらに促し手、二人を社の中へ案内した。
岩に設えられた階段を登ると、そこには大きな広間があった。振り返ると、御山がまっすぐに見えた。この社は、御山の様子をここからじっと見るために作られたようだった。
「夕刻まで、ここでお待ち下さい。」
先ほどの女性達は、そういうと、社の奥に向かって深々と頭を下げてから、下がって行った。
しばらくすると、足音が聞こえてきた。先ほどと同じ格好をした女性達が、大皿を抱えて広間に入ってくると、二人の前に大皿を置いた。
「お腹が空いておられるでしょう。もう昼時を当に過ぎておりますもの。・・さあ、この辺りで撮れたものです。どうぞ、お召し上がり下さい。」
そう言われて、二人は顔を見合わせた。考えてみると、ウスキを出てから、満足に食事をしていなかったのだ。戸惑いはあるものの、やはり空腹には勝てない。目の前に並んだご馳走を二人は遠慮せず平らげたのだった。
阿蘇へ無事到着できた安堵感と、満腹感で、二人ともすっかり眠ってしまっていた。
夕焼けで辺りが赤く染まる頃まで、二人は寝入ってしまっていた。

足音がして、カケルが目を覚ました。横に居たアスカを揺り起こした。
すると、白服の女性が、パタパタと駆けて来て、「主(ぬし)様がお戻りになられました」と伝えた。二人は、姿勢を正した。
「お待たせしたね。」
そう言って、入ってきた男は、タツルだった。タツルは、用意された敷物の上にどっかと座り、二人をじっと見てから、にやりと笑った。
「私が、阿蘇一族の主、タツルです。・・あれから、まだ野に残っているものは居ないか、見回ってきたので、遅くなりました。」
予想していなかった事態に、カケルもアスカもどうしたものかと困った。
「もう、お二人の事はわかっています。・・まあ、そんなに固くならず、お話下さい。私に用向きがあったのでしょう?」
ようやくカケルが口を開いた。
「先ほどは、失礼いたしました。主様とは知らず・・」
「まあ、いいじゃないか。」
「実は、ここへ来た一番の目的は、我らの姫をお救いいただきたいとお願いに参ったのです。」「姫を救う?」
「はい、今、火の国の南、クンマの里からバンという男が兵を率いて八代から北を進んでいるのです。」
「それは本当か。・・しかし、クンマにはシンがいる。シンはどうしただ?」
「ウスキのミコト、キトリの話では、バンに討たれたそうです。・・バンは、この九重を支配すると言って兵を集め、あちこちの村を襲い、北へ北へと進んでいるようです。いずれ、この阿蘇にも現れるはずです。・・そのバンに、伊津姫様が囚われているのです。」
「伊津姫様とは?」
カケルは少し考えてから、
「古の国、邪馬台国の王の血を継ぐ姫です。はるか南、高千穂の峰の懐、ナレの村で私と供に育ち、15の時、アスカケに出て、王一族の隠れ住むウスキへ戻りました。」
「その姫が何故、バンに囚われた?」
「クンマの里の窮を知り、エンをはじめ数名の供を連れて行ったのですが、バンの策に係り、囚われてしまったのです。」
タツルは、じっとカケルの話を聞き、腕組みをして天井を見上げた。そして視線をカケルに移してから、
「そうか、バンは、伊津姫の威光、邪馬台国の威光を使って、九重の国々を従わせようと考えたという事か・・浅はかな考えだ。」
「では、私の願い、お聞き届けいただけますか?」
タツルは、今一度眼を閉じ、返答を躊躇っている様だった。そして、目を開けてゆっくりと話した。
「我ら阿蘇一族は、御山をお守りするのが使命。この地を侵す者があれば、容赦なく討つ。それが例え、邪馬台国の王とて同じ事。・・しかし、カケル様もわかるであろうが、この地は高い山に囲まれている。そう容易くこの地へ足を踏み入れることなどできぬ。・・バンがいかに大軍を作ろうとも畏れる事はない。」
「では、この地へ入らぬ限り、戦はせぬという事ですか。」
「ああ、そういうことだ。我らはこの地より外へは出ない、いや、出れぬ。姫を救う事には手を貸せぬということになるな。」
「いや、それでは・・。」
「カケル様。そう焦らずとも良いのではないかな。しばらく、この地へ留まり、学ばれたほうが良い。」
タツルはそう言うと席を立ち、さっさと奥へ入ってしまった。

神宮.jpg
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denta60

こんにちは。
ご訪問、nice&コメントありがとうございます。又本日は、かの地へお邪魔させていただきまして、失礼いたしました。
by denta60 (2011-09-01 23:52) 

苦楽賢人

denta60様、ここは、長閑な町です。また、是非お越し下さい。
コメントありがとうございました。
by 苦楽賢人 (2011-09-02 08:37) 

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