SSブログ

3-2-8 外敵を知る [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

8.外敵を知る
「どうします?」
アスカは、カケルに訊いた。
「タツル様の言われる事ももっともなことだ。この地を奪うなど容易くできるものではない。しかし、伊津姫を救うには、阿蘇一族の力を借りないことには無理だ。・・・ここは、タツル様に従い、しばらく、この地に留まろう。・・そのうち、何か策が見つかるだろう。」

二人は、村のはずれにある館の一室を用意され、そこで暮らす事になった。
板張りの室内の中央には、囲炉裏があり、南側には大きな開き窓もあった。窓のすぐ下には、鹿の皮を伸ばした敷物があり、そこが寝床のようだった。食事は、別の棟にある炊事場で、皆が協力して作り、それぞれ必要な量を持ち帰るようになっていた。しばらくは、例の白い服を着た女性が二人、一通りの村の決め事を教えるようについてくれた。
二人は、その女性に従った。周囲の村人たちにも紹介してもらい、数日過ごした。
一週間ほど経った時だった。
タツルが呼んでいるからと、女性に促され、二人は社に入った。

社の大広間には、タツルは正面に座り、両側に、屈強な男が多数並んで座っていた。カケル達が部屋に入ると、男たちは一斉に頭を下げた。
「まあ、そこへ座りなさい。」
タツルは、少し厳しい表情で言った。言われるままに座ると、男たちは頭を上げた。
「どうだ?村には慣れたか?」
「はい、皆様にはいろいろと教わり、恙無く暮らしております。」
「そうか・・・今日、来てもらったのは、カケルが話した外敵の事だ。」
「何か、判ったのですか?」
「さあ、話してくれ。」
タツルがそう言うと、一人の男が立ち上がって話し始めた。
「俺は、西の村の主、シュウだ。先日、八代から塩を届けにきた男が言うには、不知火の海に、大きな船が現れて、海沿いの村を襲い始めたそうだ。八代もいずれやられるだろうと、村人たちは逃げ出す者のいるようだと。・・ただ、バンという者ではないようだ。・・大海を越えて異国からやって来た・・ラシャ王という者だそうだ。」
そう言うと、どっかと座った。
「カケル!どうやら、事はもっと大きくなっているようだな。」
タツルは、カケルに言った。
「はい・・・きっと、バンという者は、その船の一団の手先だったのでしょう。・・」
「ああ、そうだろう。」
「やはり、戦になるのでしょうか?」
「・・ここへ入れば我らは戦うしかないだろうな。・・」
その言葉に、並んで座っていた男たちが突然笑い出した。カケルは男たちが何故笑っているのか判らなかった。タツルは、男たちを静めてから言った。
「・・海でいくら戦上手であっても、この地へは入れぬだろう。・・だから、戦にはならぬ。・・遥か古から、この地を侵そうとする者は後を絶たないが、これまで、この地へ入れたものは居ないのだ。」
タツルの大きな自信の意味がカケルにはわからなかった。
「どうやら、カケル様は、その意味がわかっておられぬようだな。・・よし、俺が西の谷を案内して差し上げよう。あそこを見れば、すぐに判るだろう。」
「ああ、それが良いだろう。」
タツルもそう付け加えた。カケルが訊いた。
「ひとつ、お教えいただきたいことがあるのです。・・私は、ウスキから御成り山を越えて参りました。降りた辺りに、小さい集落が幾つかありましたが、誰ひとり居られませんでした。何があったのでしょう。」
それには、別の男が反応した。
「カケル様は御成り山を越えて来られたか?・・よくご無事だったものだ。・・あそこの村は、数年前に捨てたのです。・・ああ、申し遅れました、私は南の里の主、イオウと申します。・・御山の怒りにふれ、辺り一帯に毒気が漂い、多くの者が命を落としたのです。以来、あの地には近寄らぬようになりました。我が里は、あの地より西の山の中へ移りました。」
それを聞いていた別の男が呟くように言った。
「あの、白川の恵は捨てがたいものがあったのだが・・毒気が去れば、また阿蘇も潤うだろうに・・残念な事だ。」
他の者も、頷いた。
「カケル、ここに集まった者は皆、阿蘇の御山を囲むように暮らす一族の主たちだ。ここほど大きな里ではないが、それぞれに畑を持ち、穏やかに暮らしておる。この者たちがしっかり治めている証なのだ。・・ここでは、皆が主なのだ。誰が支配するというものではない。何かあれば皆で集まり相談し、対処する。阿蘇一族は、そういう者たちの集まりなのだ。ワシはただ、主たちの話を聞き、皆に伝える役をしておるだけだ。」
そこまで聞いて、カケルは、
「・・以前、ヒムカの国の大王が目指した強き国ですね。・・邪馬台国もそうした国だったと聞いております。」
「ほう、ヒムカの大王か・・ワシも昔、爺様に聞いたことがある。・・」
「タツル様、主の皆様、今一度、我が願いをお聞きください。邪馬台国の姫が、今、悪しき者に囚われております。何としても、姫をお救いせねばなりません。どうか、皆様のお力をお貸し下さい。」
カケルは、床に頭をつけて懇願した。アスカも同様にした。
「カケル様、それは・・・」
男たちは皆、答えに窮していた。
「カケルよ。・・その願いは、聞き入れられぬ。我が一族の掟を破る事になる。可哀想だが、今の我らにはどうにも出来ぬことなのだ。」
「これほどお願いしても無理なのですか!」
「ああ、出来ぬ事はできぬ。」
タツルは、席を立ち、奥へ入ってしまった。座っていた主たちも、ちらりとカケルとアスカを見るが、そのまま、社を出て行った。
「カケル?」
アスカが、そっとカケルの肩に手を置いた。カケルは、悔しさで震えていた。

しばらくして、社を出ると、さきほどの西の谷の主、シュウがカケルたちを待っていた。

家.jpg
nice!(10)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 10

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0