SSブログ

3-2-11 瀬田へ [アスカケ第3部遥かなる邪馬台国]

11. 瀬田へ
阿蘇の外輪山の山頂あたりから、木々の色が変わり始めた。時折、強い西風が吹くようになり、夏も終わり、秋に入り始めた事を知らせた。
「アスカ、瀬田へ向かうぞ。」
「私もお供します。」
「厳しい道かもしれぬが・・・」
「大丈夫です。これまでも、ずっとそうしてきました。」

二人は、大主タツルとシュウに見送られ、早朝には、峠を目指して出発した。峠辺りまでは、狩りのためにつけられた山道があったが、峠から下る道は無かった。低い木々の枝を払いながら、少しずつ道をつけて進んだ。できるだけ、平坦なところを探しながらゆっくりゆっくりと進んだ。岩場がしばらく続いたが、途中から深い森になり、上ったり下ったりして進む。
予想より、山道は泥濘もなく、むしろ乾いていて、木々を切り倒せばすぐに道が出来るくらいだった。
半日ほど進んだ頃、足元に川の流れが見えた。
深い谷に、轟々と音を立てて流れる濁流。川沿いを登ってくることは不可能だった。
「やはり、ここを上ってくるのは無理かな?」
どこまでも、深い森が続いている。木を切り、少しずつ前進するが、かなりの疲労だった。夕暮れを迎える前に、カケルもアスカも、へとへとになった。
タツルは、一日で着くだろうと言っていたが、とても無理だった。日暮れになり、二人は木の上に体を縛り眠った。
「アスカ、苦しいだろうが我慢してくれ。」
「ええ、大丈夫です。」
深い森の中で、どんな獣が襲ってくるか判らない。かといって、秋を迎え、木々の落ち葉が溜まった場所で、火を焚くのは危険だった。
アスカは、疲れ切った体を木の枝股にねじ込んで眠った。疲れているはずなのに、なかなか眠れなかった。
朝を迎えた。
昨日は気づかなかったが、二人が眠っていた樹の上から、すぐ目の前に平原が広がっていた。瀬田の一歩手前まで来ていたのだった。
二人は慌てて、樹を降り、森を抜けて平原に出た。昨日見た白川の濁流も、ここでは穏やかに広い川となってゆったりと流れている。集落はなさそうだった。見える限り、萱の野原が続いている。
「手を掛ければ、道はできる。・・もし、大軍がここへ来て、手勢を使って道を作り始めたらどうなるだろう。やはり、注意したほうが良さそうだ。」
カケルはそう言うと、白川の流れに沿って、遠くを見つめた。その眼差しは、囚われの身となっている伊津姫を探しているようだった。
「これからどうします?もっと、先まで行けば、ラシャ王の軍に出会うかもしれません。・・阿蘇へ戻るより、このまま、姫様をお救いに向かいますか?」
「いや、阿蘇へ戻ろう。タツル様に、今一度、協力を願う。・・いずれにしても、阿蘇とラシャ王の戦になるにちがいない。その時に備えるのだ。」

カケルとアスカは、立野に戻る事にした。
下ってきた時は順調だったが、登り道は大変だった。目指すべき先が見えず、何度も同じ場所に戻る事もあった。カケルはやむなく、白川の流れ近くまで下って、川沿いを登ることにした。轟々と音を立てて流れる白川のほとりは、ほとんど歩ける場所が無く、岩にしがみつき流れの中に身を沈めて進混ざるを得ない場所もあった。
結局、対岸に渡り、切り立った崖の道を選んだ。アスカは、カケルの足手まといにならぬよう、どれだけ苦しくても弱音を吐かず、じっとカケルの後を付いて歩いた。
「うっ・・」
アスカは川を渡る際、流れてきた木切れが足首辺りに当たった。冷たい流れの中で、強い痛みは感じなかったが、痺れた感覚がずっと続いた。
激しい流れで、アスカの呻き声はカケルの耳には届かなかった。カケルは必死に前へ前へと進んでいく。アスカは、遅れまいと必死に歩いた。
高い崖を前に、もうアスカの足は赤く腫上がっていた。それでも、大丈夫と言い聞かせ、カケルの後を付いて、岩場を必死に登った。
三日目の夕刻に、ようやく崖の上まで辿り着いた。狭い岩場に僅かに体を横たえることのできる場所を見つけて、一夜を過ごした。
次の日の朝、崖を下り始めたところで、湖の中に舟が見えた。舟はゆっくりとカケルたちの方へ近づいてきた。
「カケル様!」
シュウの声が静かな湖にこだました。シュウは、西の谷の守りの役、崖を超えてくる者を絶えず警戒していたのだ。小さな物音や人影を捉える事は長けていた。早朝、崖を降りてくる人影に気づき、舟を出していたのだった。
二人はシュウの舟に乗りこんだ。
「カケル様、よくご無事で・・・勢田まで辿り着けましたか?」
「はい、深い森でしたが、足元はそれほどぬかるんでおらず、瀬田から道を作り、攻め込む事はできるでしょう。まだ、ラシャ王の軍はおりませんでしたが、いずれは・・・」
「そうですか・・すぐに、大里へ向かいましょう。・・カケル様が居られぬ間に、里でも困った事がおきました。カケル様の帰りを、大主様もお待ちです。」
「何が、起きたのです?」
「それは、里へ着いてから・・それより、アスカ様、顔色があまりよくないようですが・」
カケルは、シュウの言葉に初めて、アスカの様子がおかしい事に気づいた。
確かに、シュウの言うとおり、アスカの顔は青白く、目の辺りにも疲れの色がはっきりと見て取れるほどだった。
「アスカ、無理をさせたか?」
カケルが訊くと、アスカは無理にも笑顔を作り返事をしようとしたが、そのまま舟の中に倒れこんでしまった。
「アスカ!アスカ!」
アスカは気を失い返事をしない。
「カケル様、一刻も早く、大里へ戻りましょう。・・この舟で川を上りましょう。」

白川3.jpg
nice!(11)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 11

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

Facebook コメント

トラックバック 0