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5.チカラ [時間の迷子]

5.特別な“チカラ”
「時間を止める力」そんなものがあるのだろうか。
二度とも、自分の錯覚なんじゃないか。本当は自分何にもしていない。勝手に、想像しているだけなんじゃないだろうか。自分の力じゃなく、神様がそういう状況を作っているだけかもしれない。ぐるぐると頭の中をいろんな考えが蠢く。
受験勉強には身が入らず、結局、第3志望の学費の一番安い大学にしか合格できず、18で家を出る事になってしまった。
まあ、特に夢や希望があるわけじゃない、何とか大学を出れば、適当な仕事に就けるだろう。そして、金を稼いで、いずれは結婚して家庭を持って・・・まあ、なるようになるだろう。誰かに迷惑さえ掛けなければいいんだから。相変わらず、漫然と生きている自分が居た。ただ、時々、二度の体験をふっと思い出しては、しばらく考え込む事はあったが、ごく平凡に大学生活は始まったのだった。

大学に入って、ごく普通に学生生活を送った。家からの仕送りは家賃程度だったから、ほとんど毎日アルバイトをした。最初はスーパーの店頭のアルバイト、1ヶ月ほどやったが,当のスーパーが倒産してアルバイト代さえ満足に貰えなかった。その後は、飲食店。昼間は、それなりに大学にも行かなくてはいけなかったから、ほぼ夜のお仕事。夕食が出るので随分助かった。怪しげな店ではない、アルコールの類はあるが、基本的に、学生たちが集まるような安い店だった。オーナーから、カクテルの作り方も手ほどきを受け、意外に筋がいいと言われ、夜遅くまで仕事をすることになった。同じアルバイトの女の子とも仲良くなり、それなりに楽しく過ごすこともできた。

しかし、何故か「特別な力」の事が頭のどこかにあって、心の底から夢中になるものも見つからずに時間が過ぎた。そんなある日、いつものようにバイト先からの帰り道、深夜の通りは人影もまばらだった。店を出て、アパートまでは、都市環状線を横切る大きな横断歩道を通るのだが、何だかその日は変な気分だった。空気が歪んで感じられた。
環状線の横断歩道には、コンパでもあったのか、大学生が数人ほど屯していた。女性もいるようだった。それと、サラリーマンと犬の散歩中の老人。それらの後方で、ぼんやりと信号が変わるのを待っていた。横断歩道の信号が青に変わり、先程の大学生たちやサラリーマンたちがわたり始めた。その時、右手の方で、鈍い音がした。ふと見ると、道路灯が映し出しているのは、大型ダンプが蛇行して走ってくる姿だった。運転席は暗くてよく見えないが、ハンドルの上に突っ伏しているように見えた。居眠りでもしているのか、ダンプはほぼ60kmほどの速さで、蛇行を繰り返し、中央分離帯にぶつかったり、路側帯のガードレールにぶつかったりしながら走ってくる。横断歩道を渡る人たちは何故か気づいていない様子だったが、散歩中の犬が異変に気づいて吠え始めた。皆、犬の様子を察知して、右手を見た。皆、慌てて、歩道をかけ始めた。すると、大学性の集団にいた女の子が転んだ。似つかわしくない赤いハイヒールで足を取られたのだろう。一緒にいた仲間は、我が身可愛さからか、放り出して駆け出す。そこへダンプは容赦なく突っ込んできたのだ。
僕は思わず両手を握り締めて、わあと声をだした。
すると、目の前の光景が、停止した。ダンプは女の子のわずか1メートル程度まで迫ったところで停っている。僕はすぐに、女の子に駆け寄り、抱きかかえて、舗道を戻った。ふうとため息をついたとたん、時間が動き始めて、ダンプは横断歩道を横切り、中央分離帯のコンクリートの塊に乗り上げ、横転した。勢いは止まらず、反対側のビルに突っ込んでいった。
横断歩道で転んだ女性は、気を失ったままだった。一緒にいた学生の集団は、彼女が確実にダンプに撥ねられたと思い、怖々と横断歩道の様子を見ていた。
僕は、その場に彼女を残して、路地の暗闇に身を隠した。誰が呼んだのか、すぐに救急車とパトカーのサイレンが聞こえていた。

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