SSブログ

1-2 海女 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

第1章 1-2 海女
アスカは、カケルを心配し、何度も何度も振り返っていた。
「大丈夫だよ、あいつらは見た目だけさ。剣なんてまともに使ったことなんか無いんだ。あんたのだんなは、ちゃんと逃げただろう。」
老婆は、アスカの手を引きながら、そう言った。アスカは『だんな』と言われ、少し照れた。
行く手に、石を積み上げ、屋根に藁を載せただけの、小さな小屋が見えた。
アスカと老婆が小屋に着く頃に、カケルもようやく追いついた。
「さあ、入んな。」
入口の藁の筵をたくし上げ、老婆が、カケルとアスカを中へ案内した。
「ここは、海女小屋さ。ここなら大丈夫。」
老婆はそう言うと、中に入った。小屋の中央辺りには、焚き火があった。その周りに、数人の女が裸同然の格好で横たわっている。
「お前たち、そこを空けな!ほら、みっともない格好してるんじゃないよ!」
その声に起き上がった女達は、入口に、見知らぬ男が、それもかなりの男前が立っているのを見つけ、ばたばたと衣服を直し、隠れるように、部屋の隅へ座り込んだ。
「皆、朝から浜に出ていたからね・・ここで、体を温めてるんだ。さあ、そこへお座り。」
老婆は、二人を囲炉裏端へ座らせ、自分も定位置のように囲炉裏端に座った。
「私はタキ。ここらの海女の頭だ。あんたら、九重から来たんだろ?」
老婆は、鋭い眼光でカケルを見て、そう言った。
「・・はい・・那の津から船で参りました。私はカケル、これがアスカです。」
カケルとアスカは改めて礼を言い、頭を下げた。
タキは、二人をしげしげと見た後で、急に柔らかな表情になった。
「二人連れで海峡を超えて・・・一体、何処へ行こうというんだ?・・許されぬ仲と言うわけでもなさそうだが・・。ここ、赤間の関は、今、物騒なんだ。・・いや、さっきの奴らはたいした事はない。・・大船が行き来していた頃は賑やかだったんだがね・・今は寂れてしまって。旅の者がうろつくと皆、警戒する。その内、何か起きそうでねえ。」
「我らは、悪さをする為に来たわけではありません。」
タキは、他の海女が運んできた湯を飲みながら、言った。
「そんな事、判ってるさ。だが、腰に剣、背に弓を持っていれば、誰だって不安さ。・・まあ、九重では、そういう身なりでもなんてことは無いのだろうがね。」
アスカは意を決したように話した。
「私は、生まれた里を知りません。赤子の時、船に乗せられ流れ着いたのが、ヒムカのモシオの里でした。・・我が里を探して旅をしております。」
「里探しかい?・・・だが、赤子ならそれほど遠くから来たわけでもないだろうに。」
「・・カケル様と九重の地は回りました。ですが、手がかりも無く。那の津のハクタヒコ様から、赤間に行けばよいのではと教えられたのです。」
「ここに手がかりがあると?」
アスカは、そっと首飾りを外して、タキに渡した。
「これが、赤子だった私とともにあったそうです。この紋様に何か手がかりがあるのではないかと・・ここに来れば、何か判るだろうと思って参りました。」
タキはしばらく首飾りを見ていたが、思い当たる事はないようだった。他の海女も、アスカの話に興味を抱き、その首飾りを回して見た。だが、特に思い当たる事はなさそうだった。
「力になれそうに無いね。」
そう言ってタキはアスカに首飾りを返した。

「婆さん、何か食い物は無いかい!」
ぶっきらぼうな声で、入口の筵簾を跳ね上げて、大男が入ってきた。
「なんだい、その言い草は。ろくに仕事もしない奴に食わせるものなんか無いよ!」
タキはたしなめる様に返事をし、囲炉裏端から立ち上がり、土間に置かれた竹籠を覘いた。
「ほら、これでも焼いて食べな!」
そう言って、拳ほどの大きさのサザエと鮑を、その男に投げて渡した。男はそれを受け取るのと同時に、囲炉裏端に座っている二人を見つけて叫んだ。
「お前ら、ここに居たか!さあ、観念しろ。」
そう言うと、腰の剣を抜こうとしたが、サザエを持っていたので妙な格好になった。それを見てタキが言った。
「本当に、お前は馬鹿だね。一体、この人たちをどうしようって言うんだい?大体、さっき、お前達は、この人に手玉に取られたばかりじゃないか!さあ、大人しく囲炉裏端に座んな。」
そう言って、男の頭を小突いて、座らせた。
「こいつは、タマソ。私の孫だ。・・まともに仕事もせずに、里をうろついてるのさ。」
「何言っている、婆さん。俺たちが居るから、里の皆は安心していられるんだ。」
「何が安心だよ。大体、その剣だってまともに使えもしないくせに。」
「さっきは、場所が悪かったんだ。あんな狭いところじゃ、上手く動けない。」
「ほう・・なら、どこなら上手く動けるんだ?浜か?それとも、海の中か?一度、お前たちを集めて、海の中に沈めてやろうか!」
それを聞いて、仲間の海女たちも、「それが良い」「すぐに連れておいでよ」と囃した。
タマソはふくれっ面になって、囲炉裏にサザエと鮑を放り込んだ。
「体ばっかり大人になってしまって。いい加減、まじめに働く事を考えておくれよ。」
タキは、タマソの隣に座り、火の中のサザエを木の棒で突いた。

1-1-2海女小屋01.jpg
nice!(10)  コメント(1)  トラックバック(0) 

nice! 10

コメント 1

なまけもの

新年おめでとうございます。
本年も1年よろしくお付き合いお願いいたします!
by なまけもの (2012-01-02 22:35) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0