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1-4 悲鳴 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

4-1-4 悲鳴
大船はゆっくりと、関を越えて、赤間の港に近づいてきた。
「あれは、韓船。また里を襲うつもりであろう。」
険しい表情のまま、王は呟いた。
「ここには、里を守る兵など居らぬ。また、多くの民が命を奪われ、連れ去られる。もはや、抗う事も、里の者を守ることもできぬ王など、王ではないな・・。」
そう言うと、宮殿の中に入ってしまった。
「アスカ、里へ行くぞ!お前は、どうする?」
「海女小屋の方たちが心配です。私も参ります。」
二人は石段を駆け下り、里へ向かった。

港にいた里の者たちは、大船の接近を知って、我先にと、家へ戻ろうとした。狭い路地は、逃げ惑う人で混乱している。
大船が港に入ると、船縁からたくさんの男たちが顔を見せた。男達は、甲冑と冑を身につけ、手には弓を構えている。そして、一斉に、矢を放ち始めた。
逃げ惑う者が次々に射抜かれて、悲鳴とともに倒れていく。穏やかだった里が、一変して戦場になってしまった。抵抗する者など居ない。それでも、大船からは矢が放たれる。

カケルとアスカが里に入ったときには、大船は船着場に着けられ、船の中から兵たちが、列を成して降りてくるところだった。兵たちは、剣を手に、港に居る者を捕えたり、そこらに置かれた品物を次々に奪い、船へ運び始めた。女や子どもたちは、縄に繋がれ船に乗せられていく。抵抗する男達は、その場で切り捨てられていく。惨い光景が広がっていく。

「カケル様、カケル様!」
物陰から、カケルを呼ぶ声がした。海女小屋に居たタマソが、数人の仲間とともに、家の陰に隠れていた。カケルとアスカは、タマソの隠れているところへ身を潜めた。
「酷い事になった。あいつら、里の物をみんな奪っていくつもりだ。」
苦々しくタマソは言うと、様子を伺っている。
「タキ様たちはどうされました?」
アスカが訊くと、
「海女小屋に潜んでる。あそこにはやって来ない。じっとしてろと言って来たんだ。」
「タマソ様、これからどうされる?」
「どうするって・・俺たちにはどうにもできないさ。あれだけの兵に敵うわけ無いだろ!」
一緒に居た仲間たちも、皆、俯いている。
「里を守るのが、貴方達の仕事でしょう?・・何も出来ないの?」
アスカは、やや憤慨して聞いた。すると仲間のひとりが言った。
「俺たちだって何とかしたいさ。タマソの父様は、あいつらに殺されたんだ。母様だって、連れ去られたまま、行方知れずさ。出来るなら、あいつら全員、八つ裂きにしてやりたいさ!」
タマソは、剣の柄をぐっと握り締め、悔しさを堪えているようだった。
カケルが言った。
「里の者を守りましょう。そして、あいつらを追い払いましょう。」
「どうやって?俺たちの何倍もいるんだぞ?」
タマソはカケルをじっと見つめ答えを待った。
「まず、里の人たちを、崖の上の宮殿へ行かせましょう。里の人に知らせる事はできますか?」
仲間の一人が、答える。
「ああ・・家々の裏道は知ってる。そこを通って知らせよう。」
「宮殿に逃げた後どうする?」
タマソがカケルに訊く。
「そこで、あなたたちが里の人たちを守ってください。あそこは崖に囲まれています。攻め上ってくるには石段を使う他ありません。一方から攻めてくる敵を防ぐのは少人数でも可能です。」
それを聞いた他の者が不安げに言う。
「だが・・俺達は、武器が無い。こんな剣、ろくに使えないんだ!」
「ならば、山の木を切ってください。丸太を作り、登って来る兵達へ落とせばいい。石でも良い。投げ落とすのは誰でも出来るでしょう。里の者にも手伝ってもらえばよいでしょう。」
皆、お互いの意思を確認するように、顔を見合わせ頷いた。
「時はありません。急ぎましょう。」
「カケル様たちはどうされる?」
「私とアスカは海女小屋へ行ってみます。タキ様たちが心配です。」
皆、話し合ったとおり、動いた。タマソ達は、裏道を使って、家の中に潜んでいる人たちに、宮殿へ逃げ込むように伝えた。里の者たちは、兵達に見つからぬよう、山沿いに宮殿まで向かった。
タマソは一足先に宮殿に入った。宮殿から、先ほどの王が顔を見せたが、タマソの話を聞き、「好きにすればよい。」と言ったきり、また、宮殿に篭ってしまった。
逃げ込んできた里の者たちも手伝って、宮殿の裏の木々を切り倒し、丸太を何本も作り、石段の上に運んだ。
港に着けられた大船の前では、兵達が終結していた。里の者が、宮殿に逃げ込んだことを知り、大船の上から頭目らしき男が兵たちに檄を飛ばした。
「抗う者は皆殺しだ!」

1-1-4石段.jpg
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コメント 2

ami

ご訪問ありがとうございました^^
今年も宜しくお願い致します。
又楽しみにお邪魔させていただきます^^
by ami (2012-01-04 09:11) 

hana2011

遅くなりましたが...新春のお喜び申し上げます。
本年も宜しくお願い致します。

宮殿まで行く通路でしょうか。
趣の感じられる石段が素敵です。
by hana2011 (2012-01-04 15:44) 

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