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1-5 防御 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

4-1-5 防御
宮殿の石段を目指し、多くの兵たちが進軍を始めた。
「さあ、みんな。これから戦だ!里を守る為に戦おう。」
タマソは、仲間たちとともに里の者たちに呼びかけた。
命からがら逃げ込んできた里の者も、皆立ち上がり、タマソに従った。手分けして、丸太を石段の上に積み上げる。こうする事で、兵達の矢も防げる。
「まだまだだ。しっかり引き付けて落とさねば効果がない。」
タマソは、じっと前進してくる兵を睨んだ。兵たちが、中段辺りまで来て、弓を構えようとした時だった。
「よし、落とせ!」
積み上げた丸太を一斉に落とし始めた。狭い石段の上から、次々に降ってくる丸太が、兵達を襲う。最前列にいた兵は、驚き、石段から脇に避けようとして崖を転落する。後ろに控えていた兵は何がおきたのか判らぬまま、丸太に襲われ下敷きになり、動けなくなった。だが、残った兵たちは、逃げることなく、再び石段を登って来る。再び、丸太が投げ落とされ、同じように下敷きになっていく。こうして大半の兵たちは、傷つき倒れていった。
「もう、丸太が無いぞ。どうする?」
兵達はまだ残っている。しかし、用意した丸太は全て落としきってしまった。
タマソは、皆の顔を見た。仲間達は、腰に下げた剣を手にした。
「やるしかない。」
皆、自信は無かったが、もう後へは下がれない。覚悟を決めていた。
「これを使いなさい。そんな見てくれだけの剣、役には立たぬ。」
そう言って、宮殿に逃げ込んだはずの王が、箱を持って立っていた。
「これまで、王らしき事など何も出来なかった事、許しておくれ。そなたたちの働きぶりを見て、私も、深く反省した。これからは民と朋に生きる覚悟じゃ。さあ、これなら、使えるだろう。」
王が差し出した箱には、漁師が使う銛に似た道具がたくさん入っていた。
「これは、赤間に伝わる武器なのだ。そなたたちの父や、爺様も使っていたはずだ。」
それを見た年老いた男が言う。
「これは・・鯨を突く大銛・・まだ、有ったのか。」
「鯨?」
誰かが訊く。
「赤間の沖には鯨がいる。昔は、皆で船を出して捕まえたのさ。一つ取れれば、しばらくは、里の者が皆、食べ物には困らないほどの大物さ。・・」
タマソは、銛を手にしてじっと考えていた。
遠い記憶の中に、父と船で沖へ出た時、黒い大きな山のような魚を見たことがある。きっとあれが鯨だったのだろう。
「よし、動ける者は皆、銛を持て!下から登ってくるのは鯨だ!皆で鯨を捕らえよう!」
タマソはそう言うと、先駆けて石段の上に立ち、銛を構えて雄叫びを上げた。
石段の下では、丸太に押しつぶされた様子に、残った兵たちは怖気づいた。
「どうした!進め!行かぬか!」
朱の衣服を纏い、大きな甲冑を身につけた将らしき男が、剣を翳して兵を威嚇する。
そのうち、兵達が逃げ出そうとするのを見つけると、剣で一人の兵を串刺しした。
「さあ、行かねば、お前たちもこうなるぞ!」
兵たちは、もはや正気を失い、泣きっ面になりながら、再び、闇雲に石段を登ろうとし始めた。

「あいつが大将か?・・なんて奴だ。・嫌がる者を脅して・・。」
石段の上から下の様子を見ていたタマソは、唇を噛み締めて吐き捨てるように言った。
そして、手にした銛を強く握り締め、目を閉じた。
幼い頃、父と供に沖へ出て、父が銛を突く姿を思い出していた。父は、揺れる船の上で、両足を踏ん張り、真っ直ぐ海面を見据えて、右手で銛を構え、左手を投げ出すほうに真っ直ぐに伸ばして、「えい!」と掛け声を掛けて一気に銛を投げた。父の銛は真っ直ぐに獲物に突き刺さった。
タマソをゆっくりと目を開けると、石段の下に見える大将を睨みつけた。そして、父の姿を思い浮かべながら、両足を踏ん張り、右手で銛を構えた。深呼吸を一つして、「エイ!」と掛け声を掛けると、思い切り銛を投げた。銛は、緩やかな弧を描くと、そのまま、朱の服を着た大将目掛けて飛んだ。
「グエッ」かすかに声が聞こえたと同時に、朱の服の男が丸太の上に転がった。タマソの投げた銛は、男の胸を貫いていた。それを見て、兵たちは怖れ慄き、転がるように石段を降り始めた。そして、一人の兵の姿も見えなくなってしまった。宮殿の広間では、歓声が上がった。
「やったぞ!追い払ったぞ!」
タマソの仲間達が歓声を上げる。兵たちを恐れ身を隠していた里の者たちも広場に出てきて、歓声を上げた。
タマソは、初めて人を殺めた。攻めてきた敵の大将とはいえ、胸を貫かれて横たわる姿を見て、自分のやったことが怖ろしくなり、その場に立ち尽くしていた。
「タマソ!やったな。あいつらをやっつけたんだ!」
仲間の声も耳に届かない。タマソは石段を駆け下り、将の傍に行った。将と思しき男はすでに事切れていた。タマソは男の胸から銛を抜き取り、小さく「すまない。赦してくれ」と言った。その様子を、石段の上から、王が見ていた。
歓声に沸く宮殿では、誰かが「今日こそは、奴らを逃がしはせぬぞ!」と言った。それに呼応するように、里の男達が銛を手に、石段を降り始めた。

1-1-5丸太.jpg
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シラネアオイ

おはようございます。昨日は釣りのため失礼いたしました!!
by シラネアオイ (2012-01-05 08:43) 

苦楽賢人

シラネアオイ様 コメントありがとうございます。
釣り・・良いですね。
釣果はいかがだったでしょうか?
ゆっくりお読みいただければ・・結構です。
今後ともよろしくお願いいたします。

by 苦楽賢人 (2012-01-05 09:04) 

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