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1-6 岩場 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

4-1-6 岩場
カケルとアスカは、浜にある海女小屋へ急いだ。
海女小屋は、大船のいる港からは、松原が死角になっていて見つからない場所だが、妙に胸騒ぎがしていたのだった。海辺に出たところで、手に竹籠を抱えている兵たちが浜辺をこちらに戻ってくるのが見えた。二人は、兵達をやり過ごし、すぐに浜小屋に向かった。
「タキ様!タキ様!」
海女小屋は、入口の筵簾や板のあちこちが捲れていて、明らかに、先ほどの兵たちが襲ったのが判った。海女小屋の中に飛び込んだが、中には人影は無かったが、囲炉裏端にはおびただしい血が流れていた。
「アスカ!こっちだ!」
カケルの声に、アスカは、海女小屋を飛び出ると、カケルの姿を探した。
「ここだよ、アスカ。」
アスカは声のするほうへ必死で掛けた。砂浜の先に、大きな岩が幾つも並んだ岩場があった。カケルが岩の上からアスカを呼んだ。
タキは、その間に隠れるように座っていた。二人ほどの海女も傍にいた。
「タキ様、大丈夫ですか?」
そう訊いたアスカに、タキはゆっくりと身を起こし微笑んだ。だが、顔色は白く、息も絶え絶えになっている。
「あいつら、いきなり入ってきて、・・みんな、驚いて、皆、小屋から飛び出したんだよ。兵が出て行って、戻ってみたら、タキ様が切られていたんだ。・・どうしよう・・タキ様・・死んじまうよ。」
海女はそう言って泣き崩れた。
タキの横たわっている周囲には、真っ赤な血が流れて広がっている。先ほどまで目を開けていたタキが、「ううう・・」と唸り、ガクッと力が抜け、息をしなくなってしまった。
「タキ様、タキ様、しっかりして!」
二人の海女はすがるように、タキの名を呼び続けたが、タキは目を開けなかった。
アスカは、じっと眼を閉じた。そして、首飾りをぐっと握り締める。
すると、柔らかな光が広がり始めた。アスカはそっと手を伸ばし、タキの体に触れた。アスカを包んでいる黄色い光が、タキの体も包み始めた。脇にいた二人の海女は、その様子に驚いて目を見開いたままじっとしている。やがて、光はその海女たちも包み込む。
温かい空気、体の中から温かいものが溢れてくる感覚、まどろみの中にいるような時間が過ぎる。
しばらくすると、タキが大きく深呼吸をした。そして、アスカの手を握り返した。二人の海女もタキが息を吹き返したのをしっかり確認した。「タキ様!」という呼びかけに、タキは目を開いて、手を持ち上げた。
「もう、大丈夫です。・・さあ、タキ様の手当てをしましょう。」
カケルは、岩の上から、宮殿や里の様子を見ていた。すると、兵達が、大船を目掛けて逃げてくるのが見えた。
「どうやら、タマソ様たちは兵を蹴散らす事ができたようだ。」
しばらくすると、銛を手にした、里の者たちが姿を見せ始めた。兵たちを追ってやってきたようだった。
「いかん、まだ、兵は残っている。深追いしてはだめだ!・・・アスカ、ここを頼む。」
カケルはそう言うと、岩から跳ね、浜へ走り出た。
「ダメだ、追ってはならん!」
里の者が大船に近づくと、大船から、再び、矢が放たれ始めた。
宮殿を襲った兵は、大船の兵の半数ほどであった。まだ多数の兵が大船には残っていたのだった。
宮殿で、兵を追い払った勢いでやってきた里の者は、慌てて、家の影に身を潜めた。
「これでは、何にもならぬ。・・・やはり、大船を攻めるしかないのか!」
カケルは、浜を駆けながら考えた。タマソたちも里の者を追ってきた。
「カケル様!」
「何故、宮殿に潜んでいなかったのだ!」
浜の岩陰に身を潜め、カケルとタマソは大船の様子を探った。
「将らしき男は、仕留めました。・・」
タマソが小声でカケルに告げる。カケルは、タマソが持っている銛先に血糊が着いているのを見て、あらかた見当がついた。タマソの言葉は、悲しみと嫌悪感に満ちているのを感じ、カケルは何も言わず、タマソの肩を掴んで、労わった。
「韓の船ではなさそうだな?」
「ああ、将の様子も韓の者ではなかった。きっと、佐波の海辺りをうろつく海賊だろ。韓の船を奪い、このあたりの里を襲っているに違いない。」
「きっと、兵たちもそれらの里から連れてこられた者たちなのだろう。脅され、嫌々ながら、付き従っているに違いない。」
カケルはじっと大船の様子を見ている。タマソが海岸の様子を気にしながら訊いた。
「・・・婆様たちは無事か?・・」
「タキ様は、兵に襲われ怪我をされておる。あそこの大岩の影に居られる。アスカが手当てをしたから、もう大丈夫だ。」
「なんて事だ・・・あいつら、絶対許さない。」
タマソは大船を睨みつけた。

1-1-6岩場海岸.jpg
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