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1-8 タキの秘密 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

4-1-8 タキの秘密
大船の上には、タマソや仲間たちが、縛り上げた兵を見張るように立っていた。大船の輩をカケルやタマソが蹴散らした知らせは宮殿にも届き、里の者たちや王も船にやってきていた。
浜の岩場でタキの介抱をしていたアスカたちも、タキを支え、少し遅れて大船に来た。
怪我をしたカケルは、すでに元の姿に戻っていたが、傷からの出血が多く、気を失ってしまっていて、アスカが、傍らで手を握り回復の手当てを試みた。しかし、タキの回復のために力を使いきっていたために、すぐにはカケルは目を覚まさなかった。
「婆様!」
タマソは、タキの顔を見るとすぐに駆け寄り労わった。
「アスカ様のお陰じゃ・・もう大丈夫・・大丈夫。」
そう言ってタマソの頭を撫でた。大きな体をしていても、心の中はまだ子どもである。婆様の様子を見て、思わず泣き出してしまっていた。
「どうして、すぐに逃げなかった!」
タマソは、タキを問い詰めるように言った。タキは、謝るばかりだった。その様子を見て、海女の一人が言った。
「タキ様は、小屋に大事なものがある。盗られる訳にはいかないって小屋に残ったんだよ。」
「何だよ、大事なものって、あの小屋にそんな大事なものなんか無いだろう!」
タマソは、タキを再び問い詰める。タキは、懐から小さな袋を取り出した。
「これだよ。」そう言って、タマソに手渡した。タマソが袋を受け取ると、袋の中を覗いた。中には、象牙の小さな刀があった。取っ手には、朱や緑で細かい細工が施され、先には錦糸の房も着いていて、高貴な者が懐に持っておくようなものだとすぐに判った。
「これって何だ?婆様のものか?・・どこで手に入れた?」
船の様子を見るために集まっていた里の者の中に、王の姿もあった。王は、その小刀を見てはたと思い出していた。
「すまないが、それを見せておくれ。」
人垣を分けて、王がタマソの傍にやってきた。王は、タマソから小刀を受け取り、じっと見入っている。そして、ふいにタキに向かって訊いた。
「そなた、これを何処で手に入れた?誰から譲り受けたのじゃ?」
その言葉に、タキは目を伏せたまま答えなかった。
「これは、私が亡き姫に与えたもの。何故、ここにある?さあ、答えよ!」
「おい、婆様!ちゃんと答えろ!俺も知りたい。さあ、答えるんだ!」
タマソもタキに迫った。タキは観念したようにその場に座り込んだ。そして、右腕の袖をたくし上げてから、王の前に突き出した。
「王様、これを覚えておいででしょうか?」
タキが突き出した右手には、不思議な文様の刺青があった。王は、その腕をしげしげと見てから急に顔色を変えた。
「お前・・・まさか・・・タキノワ、タキノワなのか?」
「はい、王様。お久しぶりでございます。」
王は、その名を口にしてからがっくり肩を落とすように座り込んでしまった。タマソは一体何が起きたのかわからなかった。ただ、王とタキには何か特別な縁がある事だけは判った。
「婆様、ちゃんと判るように教えてくれ!」
タキは、タマソの目をじっと見て、ひとつため息をついてから話し始めた。
「私は、若い頃、陶(すえ)という村に居たのさ。王様も若かった。王がひととき、陶の村においでになった事があったんだ。その時、私がお傍でお世話をした。その縁で、私はここ赤間へきたんだ。しばらくは宮殿に暮らしたよ。そして、王の子を身篭った。だが、王にはすでに后様が居られたが子がなかった。身篭った私が目障りだと、身重な私は、宮殿を追い出されたんだ。」
「済まない、済まなかった、許してくれ、タキノワ!」
王はその場に頭をこすり付けて謝っている。
「私は、里に戻って、女の子を産んだ。タマと名付けた。親子二人、貧しかったが楽しく暮らしていたんだ。しばらくして、宮殿からの使いが来て、娘を連れて行くと言うんだ。王家を継ぐ者だと言ってね。もう力づくさ。泣く泣く、娘と別れたんだ。」
タキの言葉に、王は悲鳴のような声で再び詫びた。
「済まなかった・・許しておくれ・・王妃には子どもが出来なかった・・王家の血を守る為、已む無くそうしたのだ・・・」
ひたすら謝る王を軽蔑の目で見ながら、タキは続ける。
「・・娘を奪われ生き甲斐を失い、一時は死のうかとも思ったんだ。だけど・・どうしてもわが子を取り戻したくて、赤間にやって来たのさ。ここの海女たちは優しかった。私の境遇を聞いて、力を貸してくれたんだよ。宮殿にいた娘に、私がここに居る事を伝えてくれた者が居てね、それから、時々、ここで会えるようになったんだよ。」
タキが、娘と再会できたという話を聞き、里の者たちも喜んだ。
「だけど・・それがいけなかったんだ。ある日、娘はここの漁師と恋仲になってしまった。もちろん、男は娘が姫だなんて知らない。娘には男と別れるように言ったんだ。添い遂げる事等できないからとね。」
王は、ゆっくり顔を上げてタキの話しの続きを話し始めた。
「ああ・・確かに姫は、赤間の漁師と夫婦になりたいと言い出した。もちろん、反対した。あの娘には、すでに、韓の国から王子を迎える支度ができていたのだ。アナトの国を守る為にも、韓の国との縁がどうしても必要だった。だが・・あの娘は聞き入れなかった。そして、赤間崎から身を投げた。・・可哀想な事をしてしまった。すべて私が悪いのだ。・・本当に済まなかった・・」

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