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1-10 使命と定め [アスカケ第4部瀬戸の大海]

4-1-10 使命と定め
そこへ、アスカがやって来た。
タマソたちは、アスカを見つけると、今までの話はなかったかのように、押し黙り、岩に座ったままで居た。アスカは、男たちの空々しい様子に気づきながらも、何食わぬ顔をして、タマソの隣に座り、独り言のように話し始める。
「私、生まれた里を知らないんです。」
アスカの言葉に、タマソたちは驚いた。アスカは構わず話し続けた。
「赤子の時に、小舟に乗せられ、ヒムカの国のモシオという浜に流れ着いたらしいんです。アスカと言う名も、そこでいただいたもの。父様や母様のお顔すら、知りません。」
アスカは、じっと海を見つめて話し続けた。
「物心ついた時には、塩焼き小屋で働いていました。朝から晩まで、火をおこし、塩を煮詰めて過ごししました。辛かったけれど、皆、優しくしてくださって・・でも、だんだん、知恵がついてくると・・・私は生まれて来なかったほうが良かったんだろう・・父様も母様も、私が要らないから捨てたのだろうとか・・・生きている事に何の意味があるのだろうと・・そんな事ばかり考えるようになっていました。」
長い黒髪、白い肌、美しい娘が目の前で身の上話を話し始め、男たちは皆一様に驚き、同情した。
「生まれて来ない方が良いなんて!」
アスカは、タマソの言葉ににっこりと微笑んだ。
「カケル様と出会ったのはそんな頃でした。自らの生きる意味を求めて、旅をしていると聞きました。そして、自分のできることを精一杯やる事だけを考えていらしたんです。」
「生きる意味を求める旅?」
「ええ・・アスカケと言うんです。九重の南、ナレの村の古い掟。男の子は十五になると、村を出て、旅をする。カケル様も、ヒムカ、阿蘇、葦野、行く先々で、自分にできる事を精一杯やって・・・時には、命を落とすほどの危険な目にも遭われました。それでもなお、自らの生きる意味を問い続けていらっしゃいます。」
「強きお方なのだな・・。」
「ええ・・・おかげで、九重には、多くの友ができました。隼人の長、不知火やイサの里、那の津のハクタヒコ様も立派なお方でした。・・でも、一番強きお方は、邪馬台国の女王、伊津姫様でしょう。」
「邪馬台国の女王?」
「ええ、今、九重の国々は、邪馬台国の女王伊津姫様を心の頼りに一つにつながりました。・・伊津姫様は、カケル様と同じ、ナレの村の生まれ。カケル様の妹同然にしておられました。」
タマソたちは、まるで御伽噺でも聞くように、アスカの話に耳を傾けた。
「伊津姫様は、カケル様より一つ年が若く、幼き頃に父も母も亡くされて・・カケル様の母様に育てられました。カケル様がアスカケに出る年、伊津姫様も自らの出生の秘密をお聞きになられました。・・そう、邪馬台国の王の血を継ぐ者であると・・・。」
「タマソとおんなじだ!」
カズが言う。タマソは、カズを遮るように、アスカの話の続きを聞いた。
「伊津姫様は、最初、戸惑われたそうです。それに、邪馬台国など遠い昔話の存在だと思っていらしたんですから。・・でも、カケル様とヒムカの国を旅され、先々で、邪馬台国の伝説を耳にし、人々の強き想いを受け止め、次第に、自分の為すべき事を定められたようです。」
「そのようなお方がいらっしゃるのか・・・。」
タマソは、自分の置かれた状況を省みて、深く考え込んだ。アスカは続ける。
「伊津姫様は、邪馬台国の王の血を継ぐものであるからこそ、たくさんの危険な目に遭われました。時には囚われの身となり、妖しげな薬を飲まされ、命すら危うい事もあったそうです。また、目の前で、多くの人々が戦で命を落とすのもご覧になられて・・自分が居るからこそ多くの命が奪われるのではないかと思い悩む日もあったとお話くださいました。」
「よく覚悟なされたなあ・・。」
「はい・・・。」
タマソは、アスカの話を聞き終えて、夕暮れが広がり始めた海をじっと見つめた。
「カケル様の事だが・・・。」
タマソは、アスカに遠慮がちに訊いた。
「・・・あの・・お姿は・・・。」
「恐ろしき獣人のお姿のことですか?」
「ああ・・・いつも、カケル様はあのお姿に?」
「私にもはっきりとは言えませんが・・・大事なものを守る時、腰の剣が力を与えてくれるのだそうです。でも、あのお姿の後には決まって、気を失なわれます。まるで、命を削っておられるようで・・・」
「正気なのか?」
「ええ・・体は恐ろしき獣のごとく変化していますが、正気です。・・・その証拠に、無闇に命を奪う事など滅多にありません。できるだけ傷つけぬようにしておいでなのです。皆、あの姿を見て、恐れ戦き、動けなくなってしまいます。命を奪わぬ為に、あのような恐ろしき姿になられるのだと思います。」
タマソは、納得したようだった。
「おい、みんな、宮殿へ行こう。俺は道を決めた。赤間のため、いや、アナトの国のために、命を捧げよう。王になるかどうかではない、自分のできることを精一杯やるのだ。」
タマソはそう言うと、立ち上がり、海に向かって拳を翳した。
カズもマサもサカも、タマソの言葉に同調した。

1-1-10吉野ヶ里.jpg
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