SSブログ

1-11 タマソの決意 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

4-1-11 タマソの決意
宮殿の広間では、里のおもだった者たちが集まり、これからの事を相談していた。
「此度は、カケル様のご活躍もあり、水軍を蹴散らす事はできましたが・・再び、ここへ参るでしょう。その時は、防ぎきれるかどうか・・・。」
里の年長の男が話すと、王がくぐもった声で答える。
「・・昔のように、赤間の軍がいた頃ならば、何も恐れる事などないのだが・・今や、なす術もない・・・長年、何もせず過ごしてきた報いじゃ。許せよ。」
カケルは、皆に聞いた。
「あの頭目は、死に際に、屋代の水軍と名乗りました。屋代の水軍とはいかなるものなのです?」
広間にいた者は顔を見合わせた。詳しく知るものは無いようだった。王がわずかな記憶を頼りに話し始めた。
「ここ赤間は、昔、韓の国と東国とを繋ぐ要衝の地として栄えた。この赤間関を抜け、東国に向かうには、屋代の関を超えねばならなかった。大船が盛んに行き来していた頃は、屋代あたりの漁民が、水先案内を生業にしていたと聞く。・・おそらく、屋代の水軍とは、その漁民の集まりではなかろうか。」
「なぜに、水軍となり里を襲うのでしょう?」
カケルは訊いた。
「今では、韓と東国を行き来する船はない。生業がなくなり、食うに困り、里を襲うようになったに違いない。」
「では、赤間だけでなく、このあたりの里はみな同じようにあの水軍に襲われ、食べ物を奪われたり、命を奪われたりしているという事でしょうか?」
「きっと、そうであろう。・・・捕まえた兵たちに訊けばわかる事だ。」
話しの成り行きを聞いていた里の者がふと漏らすように言う。
「あいつらを退治せぬ限り、我らに安息は無い。・・どうにか、あの水軍を征伐できぬものか。」
その言葉に、里の者たちは、カケルの顔を見た。獣人に変化したカケルの姿を目の当たりにした者たちは、カケルの力に期待したのだった。
そこへ、タマソたちが戻ってきた。
「おお・・タマソ、よく戻った。さあ、お前からもカケル様にお願いしてくれ。カケル様のお力をもって、あの水軍を全て退治していただくのじゃ。」
里の長老らしき男が、タマソに近寄り、肩を叩き、そう言った。
タマソは、里の者たちの考えはとうに見当がついていた。タマソは、広間に集まる里の者たちをじっくりと見回し、改めて、王の前に進み出た。
タマソは一つ深呼吸をすると、王をきっと睨んで、強い口調で話し始めた。
「この里、いや、この国を守るのは王族の仕事です。民が平穏に過ごせるよう、持てる力を全て使い、命を懸けてでも守り抜く事が出来る者こそが、王になるべきなのです。」
先ほどまでのタマソとは別人のように、雄弁に語る様子に、王をはじめ里の者たちは驚いていた。
「私は決心しました。王の血を継ぐ者が自分しかいないのであれば、それを受け入れ、この国のために命を捧げます。再び、民が安心して暮らせる、素晴らしきアナトの国を作りたいのです。」
タマソの決意の言葉に、皆驚いた。
カケルは、アスカの顔を見た。アスカは、にこりと微笑み返した。
王は、突然のタマソの言葉に戸惑いながらも、自ら何もして来なかった事を悔い、タマソの言葉を受け入れた。
タマソは、自分の言葉を皆が受け入れてくれた事を確認するように、皆の顔を見た。カズやマサやサカが声を上げた。
「新しい王の誕生だ!」
里の者は、その声に同調して声を上げた。
「待ってくれ!」
タマソは、歓声を遮るように言った。
「私には、まだ何もできません。ただ、この赤間で毎日ぶらぶらと生きてきただけなのです。今のままでは、王になどなる資格などありません。今のままでは駄目なんです!」
タマソはカケルの前に跪いた。
「カケル様、私とともに、屋代の水軍と戦ってください。アナトの国の平和のためには、屋代の水軍を征伐せねばなりません。ともに戦ってください。」
カケルは戸惑った。タマソの言うとおり、屋代の水軍を討ち果たさねば、佐波の海の村々に平和は訪れないのは明らかだった。しかし、水軍との戦が如何なるものか、見当もつかないのだ。自分に何が出来るか、まったくわからなかった。しかし、カケルは、タマソの真剣な眼差しや、赤間の里の人々の思いは痛いほどに判っていた。
「自分に何が出来るかわかりませんが、できる事は精一杯やりましょう。」
カケルはそう答えた。宮殿には歓喜の声が響いた。

カケルは、タマソたちを伴い、牢獄へ足を運んだ。
「カケル様、ここで何をしようというのですか?」
カケルは、タマソたちに訊いた。
「そなた達、あの大船を操れるか?」
タマソをはじめ他の者も顔を見合わせた。漁をする小舟ならば、多少心得はあるものの、韓舟など操った事はなかった。韓舟には、大きな帆が張られ、風を使って波間を進む。手漕ぎの船とはわけが違うのだった。
カケルは、牢の前に立ち、縄に縛られた兵たちを見た。皆、命を奪われる覚悟をしているのか、すでに死んだような目をして牢の中に座り込んでいる。

1-1-11牢獄.jpg
nice!(12)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 12

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0