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1-13 守役 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

4-1-13  守役
タマソやカケルを乗せた大船は、穏やかな佐波の海を、ゆっくりと東へ進んでいく。
船は、ギョクが船頭(ふねがしら)となり、皆を束ねた。鍛えられた男たちはきびきびと動いた。
タマソの供として船に乗ったカズ・サカ・マサは、ただ呆然とその様子を見ていた。
「そなた達は、タマソ王の守役としてしっかり働かねばな。」
そんな三人を見て、カケルが声を掛けた。
「守役って言ったって、何をすればいいんだ?」
カズがおずおずと訊いた。
「それぞれ、得意なことがあるのではないか?」
三人は、顔を見合わせ悩んだ。赤間の里では、タマソに付いて悪さはしていたが、仕事らしい事等した事は無かった。得意なことと言われても何も浮かんでこなかった。
その様子を見て、近くにいたギョクが助け舟を出した。
「王の守役となれば、まず、王をお守りする事が肝要。王の脅威となるものを見つけ、排除すること。これが出来ねばダメだな。」
「そんな事いわれても、判らない。どこに脅威がいるって言うんだ?」
カズが半ばヤケクソになって言った。それを聞いたマサが何か閃いたようだった。
「そうか!そうだ。おい、カズ、お前の仕事が見つかったぞ。お前、赤間の里でも、高いところに登って遠くを見ていただろ。俺たちの中で一番、眼が利くじゃないか。そうだよ、お前がその脅威とやらを見つける役をすればいいんだ。」
マサの言葉にぼんやりとカズは考えてから、手を打った。
「そうか、目の役か。それなら任せとけ。俺の目は遠くまで良く見える。目の役だ!」
それを聞いて、ギョクが言った。
「船を進める時、必ず、見張りを立てます。風を見るのも大事だが、船の進むべき道を見つけるのも大事な事。では、カズ様には見張り役をお願いしましょう。」
ギョクの言葉に、カズは有頂天だった。
「それなら、この帆柱の天辺に登ったほうが良いだろ、よし!」
カズはいきなり帆柱に登ろうとした。
「お待ち下さい。見張り役は一人では無理です。四方をしっかり見なければなりません。手下をお持ちなさい。おい、誰か、見張り役のカズ様をお助けしろ!」
甲板にいた男が数人、カズの回りに集まった。皆、カズほどの低い背丈であった。カズはそのお琴たちを連れて、すぐに帆柱に登り始めた。
「俺は、どうすれば良い?」
背の高いサカがカズを見あげながら不安げに言った。
「サカ様は、弓を引いた事はありますか?」
サカは首を横に振った。
「ならば、剣は?」
再び首を横に振った。カケルは、サカの背の高さ、腕の長さをじっくり観察した。
「銛を突く腕には自信があるのだが・・・。」
サカがぼそりと言った。
「それは良い。ならば、サカ様、船の男たちに、銛を教えてやってください。船では、魚を取る事は大事な事です。それに・・・戦になった時、銛で戦う事もあるでしょう。・・赤間からたくさんの銛を積んで来ました。皆に教えてやってください。」
「・・それで良いのか?・・」
「ええ、きっと、サカ様は将としてのお役目を果たされるはずです。」
サカの目が輝いた。
「よし、銛を覚えたい奴はいるか?俺と来い!」
サカはそう言うと、船底に納めた銛を取りに言った。
「最後は、マサ様ですね。」
マサは、二人の様子をじっと観察していた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「私は、やりたい事があります。」
カケルとギョクは、マサの言葉に聞き入った。
「私は、ギョク様に着いて、船を操る術を覚えたいのです。いつまでも一つの船では心もとない。王の水軍としてたくさんの船を従えるようにならねばなりません。その為にも、船を操る術を覚えなければなりません。」
「マサ様は思ったとおりのお方だ。思慮深く、知恵もある。きっと良き船頭になれるでしょう。良いでしょう。私が最初からお教えしましょう。」
ギョクは、マサの手を取り、頷き、船尾に導いていった。
船の上では、皆、それぞれに仕事を受け持ち、船は進んでいった。

「アスカ、済まぬな。」
船縁に腰掛け、静かに波を見つめるアスカに、カケルは言った。アスカは、ふっと顔を上げてカケルを見た。
「お前の里を探す約束・・また遅くなってしまうな。」
アスカはにっこりと微笑んで答える。
「良いんです。まだ、何の手がかりも無いんです。それより、今、為すべき事をしっかり果たしましょう。・・それに、この海の先を見ていると、何か、とても大切なものが待っているような気がするのです。・・きっと、私の里は、この海の向こうにあるはずです。そう信じています。」
カケルもアスカの視線の先を見た。

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