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1-14 陶(すえ)の里 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

陶(すえ)の里
「ギョク様、ギョク様!」
船の上で、タマソがギョクを探している。ギョクは、マサと供に、船尾で風の加減を見て進路を見定めていた。
「おお・・ここに居られたか・・ギョク様、ひとつ頼みがあるのです。」
タマソは、およそ王とは思えぬ言葉で、ギョクに話しかける。
「お止め下さい。王ともあろう方が、頼みがあるなどと・・それに、私は貴方の臣下です。ギョクと呼び捨てにされて良いのです。」
ギョクは、タマソの前に跪き、そう答えた。マサはタマソの戸惑う様子を見て、にやりとした。
「いや・・王と言われても・・・まあ、良い。・・ならば、ギョク・・よ。・・済まぬが、陶(すえ)の里へ立ち寄ってくれぬか?」
陶の里とは、タマソの故郷であった。物心ついたころに、かすかな記憶の中に居る父と過ごした地である。
「それは良いでしょう。ちょうど、潮目が変わり始めたところ。これ以上は東へ進めそうもありません。・・ならば、その先に見える田の島(たのしま)辺りに船を停めましょう。・・陶の浜は浅瀬が続き、大船を着けるのは無理ですから。・・小船を出し、陶に向かわれると良いでしょう。」
大船は、佐波の海の中ほどにある、田の島(たのしま)と女の島(めのしま)の間に停泊する事になった。いずれの島も、水が無いために、人は住んでいない。水軍も潜んでいないようだった。
夜明けを待って、小船が降ろされ、タマソは陶の里へ向かう事にした。カズとサカ、そしてカケルとアスカも供をする事になった。
陶(すえ)の浜は、美しい砂浜と赤松が広がる穏やかな海岸だった。小船を浜に引き上げると、タマソは僅かな記憶を辿って、幼い頃に過ごした里を目指した。カケルは、静かすぎる浜の様子に、違和感を覚え、アスカの手を取り、自分の後ろを歩かせるようにした。
松原を抜けたところに、板葺き屋根の家が並んでいた。
「確か・・この辺り・・・ああ・・あそこだ!」
タマソは、並ぶ小屋の一番端に向かった。入り口の戸板は外れ、中は埃が積もり、長い年月、誰も使っていないようだった。タマソは、壁に立てかけられた銛を見つけ、手に取った。
「ここで暮らしたんだ。父様と・・。」
タマソはじっと銛を見つめ、思わず涙を流した。その様子を見て、カケルとアスカは一旦その場を離れ、他の家の様子を見て回った。
「お前、何者だ!そこで何してる!」
タマソはその声に振り返ると、数人の男が、櫓や銛を手に家の入り口に立っていた。身なりから、この村の漁師たちと思われた。殺気立っているのがひしひしと感じられ、今にも襲い掛かりそうだった。
「赤間より参った者だ。怪しいものではない。」
咄嗟に、タマソは男達の前に跪いて答えた。
「信用できぬ。この家で物色していたようだが・・屋代の水軍であろう。」
取り囲んだ男たちが、そう言って、タマソににじり寄った。
「どうしたんだ?!」
少し離れたところに居たカズとサカが、異様な雰囲気に慌てて走ってきた。それに反応するかのように、男達は手にした銛や櫓を掲げ、カズたちに向かって行き、揉みあいになり、あっという間に、ねじ伏せられてしまった。
 三人は、荒縄で縛られ、男たちに囲まれた状態で、家並みのある里から山手に続く道を連れられていった。
 
しばらく歩くと、巨岩が積み上がる崖の下に着いた。男たちは辺りを見回した後、岩の窪みを掘り、縄を見つけ出し、引っ張る。すると、赤土の地面から戸板が持ち上がり、その下に階段が続いていた。三人は縄を引かれその中に入っていく。しばらく歩くと、巨岩の裏側に出た。そこには、先ほどの里と同じほどの家並みが作られ、人々が家の前で、仕事をしているのだった。
「戻りました。」
三人を連れてきた男の一人が、一軒の家の前でそう挨拶すると、引き戸が開き、中から、初老の男が顔を見せた。
「里を物色しておりましたので、捕まえて参りました。あと二人居りましたが、見失いました。」
その言葉に、初老の男は、三人をしげしげと眺めた。
「赤間から来たと申しておりますが・・・。」
「ほう、赤間からのう?」
初老の男は、三人を再び舐めるように見た。そして、一瞬驚いた表情を見せたが、思いとどまった様子で言った。
「・・信用できぬな・・まあ良いだろう。あとでじっくり話を聞こう。牢に入れておけ。」
タマソとカズ、サカは、縄で縛られたまま、巨岩のすぐ脇にある牢に入れられた。

カケルは、浜から上がった時からずっと誰かに見張られているのを感じていた。
一旦、タマソから離れた時、何か怪しげな雰囲気を察知して、アスカと供に身を隠していた。タマソたちが男たちに囚われた時、すぐに飛び出して止めようとも考えたが、争いで怪我を負わせるのを避けるため、しばらく様子を見る事にした。
そして、カケルはアスカを伴い、山手に向かう男たちを後を追い、隠れ里のある場所まで行き、巨岩の上から里の様子を探った。初老の男が、牢の近くであたりを見渡している。一瞬、気付かれたかと思ったが、その男は静かにその場を離れていった。
カケルは、タマソたちが牢に入れられたのを見届けると、すぐに里を後にした。

1-1-14右田岳2.jpg
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