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1-15 牢の中 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

4-1-15 牢の中
「カケル様、あのままで宜しいのですか?」
アスカは、隠れ里を後にして浜に向かうカケルに訊いた。
「あの里の者たちは悪い人たちではない。きっと水軍を恐れ、あそこに隠れ住んでいるのだろう。浜から見知らぬ者が入ってきたのだ。捕らえるのは当然だろう。・・とにかく、すぐに大船に戻り、ギョク様たちと手を考えねばならぬ。」
カケルは、浜に戻るとすぐに小船を出し、田の島沖に停泊している大船に戻った。
陶の里で起きた事はすぐにギョクたちに知らされた。大船では、ギョクとマサがカケルの話を聞き、どうするか相談した。
「大船をなんとか陶の里の沖まで進めましょう。浅瀬を見極めれば何とか近づけるはず。そして、タマソ様たちをお救いするために兵を出しましょう。」
ギョクが言った。
「いやそれでは、陶の里者達が抗うやもしれぬ。そうなれば、タマソ様たちが危うい。」
マサが反対した。
「ではどうする?」
ギョクが問う。マサは答えに困った。
「この船には、アナトの国の旗が掲げられております。浜から旗が見える場所まで船を進めましょう。隠れ里に居らした初老のお方は、知恵者とみました。あのお方が、旗をご覧下されば、きっと・・争いなしに済むと思います。」
「上手く行くと良いが・・・。」
翌朝早く、大船を陶の浜の沖まで進める事になった。

夜の事だった。牢に入れられた三人の下に、初老の男が女を従えて姿を現した。初老の男は、牢の戸を開けて、中に入ってきた。そして、三人の前に座り、深々と頭を下げた。初老の男の様子に三人は驚いていると、その男が穏やかな口調で話を始めた。
「私は、この村の長、タモツでございます。そして、こっちは妻のヒナ。ご無礼をお赦し下さい。」
予想外の言葉に、三人は更に驚いていた。
「あなた方は、アナトの王族でいらっしゃいますね。・・いや、昼間、お会いした時、その服装と何より、腰の剣で、もしやとは思いましたが・・紛れもなく、アナトの王の剣でしょう。」
その言葉に、カズが少し偉ぶって応えた。
「そうさ。紛れも無くアナトの王、タマソ様である。」
「こら、カズ・・私はまだ王ではないぞ!。」
タマソはそう言ってカズを戒めた。
「やはり、そうでしたか。村の若衆は、水軍に怯え、見知らぬ者はすべて水軍だと決め付けております。・・これまでも度々村が襲われております故、仕方なき事。すぐにあの場で問えば良かったのでしょうが・・それでは、若衆の面目も立たない。それで、仕方なくこの仕打ちとなってしまったのです。お許し下さい。」
タマソは、陶の長、タモツに向かい話した。
「私は、タマソと申します。父はサダ、母はタマ。この陶の生まれです。」
「なに・・サダと申されたか・・鯨取りの名手・・あのサダの・・そうか、そうだったか。・・母様には申し訳無い事をしました。子を産んでのち、介抱の甲斐も無く・・命を・・我らの力が及ばず申し訳ないことをした。そしてサダも、あの水軍に・・・。それにしても、ご立派になられたものだ。」
長タモツの脳裏には、この村で起きた悲しい出来事がありありと浮かんできていた。傍にいたヒナも思い出し、涙した。
「タキ様はお元気か?・・そなたを連れ、赤間へ戻られたが・・。」
タマソは、この間の経緯を、タモツとヒナに聞かせた。

「それでは、強き国アナトを今一度興されると言われるのですか?」
「ええ、赤間で私は決意しました。今のまま、水軍に怯えて暮らすのはこれ以上耐えられない。赤間で水軍を討ち果たした時、決意しました。まだまだ、力不足でしょうが・・」
タマソの決意をタモツは嬉しそうに聞き入っていた。
「我らには、カケル様という強いお方は付いておられるのです。」
サカが口を挟んだ。
「カケル様?」
「ええ・・遥か九重の南より参られました。かの邪馬台国も再興されたお方です。何しろ、特別なチカラをお持ちなのです。何も怖いものなどありません。」
「特別なチカラとは?」
タモツの問いに答えようとカズが身を乗り出した時、タマソが止めた。
「いや、それは今はお話できません。それに、カケル様をお力を頼りにせず、我らの力で、水軍を倒し、佐波の海に平和を築かねばなりません。そうして、ようやく私は、アナトの王と名乗ることを許されると思っています。何卒、我らに合力いただけないでしょうか?」
「合力するのはやぶさかではありませぬが・・我らが何のお役に立てましょうか・・。」
タモツは少し戸惑い、答えた。タマソが言う。
「赤間で水軍を討ち果たした時、我らも最初は、ただ逃げ惑うばかりでした。ですが、カケル様の知恵をお借りし、皆で力を合わせて戦いました。きっと、勝機はあるはずです。」
「わかりました。明日の朝、皆と相談してみましょう。」

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