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1-16 襲来 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

4-1-16 襲来
「大船が現れたぞ!」
隠れ里の巨岩の上に居た見張り役が、悲鳴のような声を上げた。
「昨日の奴らが乗ってきた船に違いありません。奴らを引き出し、浜へ連れて行きましょう。」
知らせに来た若い男は躍起になって、タモツに進言した。
「皆を集めよ!そして、牢の中からあの方たちをお出しするのだ。」
タモツは、そう下知してから、隠れ里の真ん中にある広場に出た。
事情を知らぬ若衆達は、タマソたちを、広場まで引っ張り出し、槍を突きつけて睨んでいた。
「止めよ!すぐに縄を解くのだ。このお方達は、水軍ではない。アナト国の王族の方たちじゃ。」
タマソの声に、若衆達は信じられないという表情をしながら、しぶしぶと縄を解いた。
タモツは、若衆たちを前に、昨夜、タマソから聞いた事を全て伝えた。若衆達は、恐縮したような表情をしていた。
「では、あの船は、アナトの王様の船でしょうか?」
その問いに、カズが見張台まで走って、船を確認した。
「おい、あれは我らの船じゃない。」
カズが叫んだ。タマソとサカも急いで見張台に登り、カズが指差す方を見た。
三人の目に入ってきたのは、少し小ぶりで、真っ黒に塗られた船だった。屋代の水軍が陶の村を襲う為にやって来たのだった。隠れ里のいる誰もが顔を見合わせ、水軍を恐れ、沈黙した。
「ここに隠れておれば大丈夫じゃ。そのために、遥かこの地に隠れ住んで居るのだ。」
タモツは皆を安心させる為に言った。その時だった。村を隠している大岩の頂上に人影が見えた。
「誰だ!」
人影は、大岩からさっと飛び上がると、広場の真ん中に立った。カケルだった。
カケルは、大船が陶の浜に着くより一足先に、隠れ里のタマソたちに知らせる為に来たのだった。大岩の影でしばらく里の様子を探っていたが、タマソたちが陶の長達と話し合っている様子を見て、姿を現したのだった。突然、中央に飛び降りてきた見知らぬ男に、皆、腰を抜かして驚いた。
「驚かせて済みません。カケルと申します。」
タモツは、タマソ達から、すでに聞き及んでいた為、動じなかったが、若衆達は、驚き座り込んだまま、手に槍を構えている。
「あれは、屋代の水軍の船です。中には三十人ほどの兵がいるようです。」
カケルは、小舟で浜へ上がる前に、黒船の様子を探っていたのだった。
それを聞いてタマソが言った。
「ここで息を潜め、通り過ぎるのを待ちますか?それとも、我らと供に戦いますか?」
陶の里の若衆は、現実になった戦いに怖気づいて、声も出せない。そっとタモツを見ると、タモツも若衆の表情に戸惑い、首を横に振らざるを得なかった。そして、
「我らはこれまでずっとこの隠れ里で息を潜めてきた。奴らが行き過ぎれば其れで良いのだ。」と残念そうに呟いた。
「タマソ様、もう我らの船が姿を見せる頃でしょう。行きましょう。」
カケルがタマソに告げた。タマソたちは、タモツや里の若衆に頭を下げ、隠れ里を後にした。
木々に身を隠しながら、ゆっくり海岸の松原に入った。黒船は随分近くにまで寄せている。

田の島沖から、陶の浜を目指して大船も向かっていた。しかし、潮の流れが悪く、風を捉えても思うようには船は進まない。帆柱の上の見張り役は必死に目を凝らして行く手を見ていた。
「ギョク様!船が居ります。・・・真っ黒な船が浜へ近づいております。」
見張り役の叫ぶ声に、ギョクは驚いた。
「黒船に間違いないか!」
「ええ・・・ありゃあ、黒竜です。間違いない。」
ギョクたちは元はと言えば、屋代の水軍。仲間の船は良く知っている。ギョクは渋い顔をした。その様子に、マサが尋ねた。
「黒竜とは厄介な相手ですか?」
ギョクは、しかめっ面で答えた。
「屋代の水軍の中でも、取り立てて頭領が気に入っている船だ。誰よりも多くの里を襲っている。この船より小ぶりだが、作りが違う。潮に逆らっても進める上に、甲板の上に厚い板の屋根を持っているから、矢を放ってもびくともしない。そして、小さな窓から矢を放ち、船同士の戦なら負けることは無い。厄介な相手なのです。」
「黒竜」の名を聞いて、皆、俯いてしまった。完全に戦意を喪失している。
「どうしますか?」
マサが再びギョクに尋ねた。
「このまま戦っても、容易には勝てないだろう。・・・」
帆柱の上の見張り役が再び叫んだ。
「どうやら、浜に上がるようです。・・陶の村を襲うようです。」
陶の村に囚われているタマソたちの安否も心配である。ギョクが決心した。
「船を進めよう。・・奴らはまだこの船が屋代の水軍の船だと思っているだろう。ぎりぎりまで近づいて、奴らの様子を探る。隙があれば、船に乗り移って戦うのだ。アナトの旗を降ろせ!」
ギョクの言葉に、皆、顔を上げた。
「そうさ、きっと大丈夫さ。カケル様も浜にはおいでになる。タマソ様や陶の村の者たちにも合力を願いでているはずだ。そうさ、大丈夫さ。」
甲板にいた男が言うと、皆も勇気付けられたのか、再び、てきぱきと動き始めた。潮も戻り、ゆっくりと「黒竜」に大船は近づいていった。アスカは甲板で、近づく黒船を睨みつけていた。

1-1-16松原.jpg
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