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1-17 制圧 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

4-1-17 制圧
「黒竜」は浜の浅瀬に乗り上げるように着いた。船の脇の戸板が開いて、縄梯子が下ろされた。そこから、甲冑に身を包んだ兵が次々に降りてくる。剣や槍を構え、辺りを伺いながら、腰まで水に浸かりながら浜へ上がってきた。総勢二十名ほどの兵たちだった。そして、最後に、髪を大きく結い上げ、黒髭を湛えた屈強の男が、大剣を構えて浜に立った。
カケルやタマソたちは、気付かれぬよう、松原に伏せた格好で、その様子を見ていた。
兵たちの動きは機敏だった。赤間を襲った兵とは比べ物にならない。鍛えられ、命を奪うに心の咎めも感じないような冷たい表情をしている。兵たちは列を成すと、真っ直ぐ松原の向こうにある陶の村に向かった。もちろん、村人はいない廃墟なのだが、兵たちは、武器を構えて家々を壊すようにしながら次々に回って行った。
「どうします?」
タマソにもカケルにも問うように、ささやくような声で、カズが訊いた。
「立ち向かったところで勝ち目はないな。」
タマソが呟く。カケルが言う。
「いや、浜に上がってくれたのは好都合。船の上では手出しは出来ない。何とか、ここで・・。」
カケルはじっと兵たちの様子を伺っている。

「あの里に火をかけましょう。どうせ、あそこは捨てた村です。」
その声に振り向くと、タモツたちが居た。若衆も何人か連れていた。
「皆様が行かれてから、皆で話し合いました。怖気づいた者もおりましたが、息を殺して生きる毎日はもう嫌だと、誰とはなしに言い始め、隠れ里を守る者を数人残し、皆、ここへ参りました。」
タモツのすぐ脇にいた若衆が言った。
「反対側にも何人かおります。これで人数の上ではほぼ互角。ですが、我らには強い武器がありません。ですから、奴らが里に入っている間に、火をかけて、ばらばらにしましょう。」
その提案に、カケルは戸惑っていた。廃墟同然とはいえ、家を焼くのは忍びない。再び、ここで暮す事もままならぬだろうと考えたのだった。その様子を察してタモツが言う。
「我らが火をかけずとも、里に誰も居ないと判れば、怒りに任せてきっと奴らは火を放つでしょう。その前に、我らの手で火をかければ、きっと奴らは動揺して、逃げ惑うに違いない。そうすれば、我らにも勝機が訪れるでしょう。時はありません、さあ。」
カケルはタマソの顔を見た。
タマソの生まれ育った家もあり、今は亡き、父様・母様の思い出もあるはずだった。
タマソは決心したように言った。
「よし、ではタモツ様の進言どおり、火を放とう。カケル様、火矢を打てますか。」
カケルはタマソの心を確認し、弓を構える。
「里は、東西に一本、道があるだけです。両端と真ん中の三箇所に火を放てば、奴らも逃げ道を失い慌てるでしょう。」
タモツが言う。カケルは、こくりと頷いた。
矢頭に火がつけられた。カケルは、すっくと立ち上がり、松原を出た。大きく深呼吸をすると、弓を構える。一本目、高く構え力強く放った。きーんという甲高い音を発し、火矢が飛んでいく。東の口に立つ家の脇に置かれた稲藁に突き刺さり、火は燃え移った。二本目は、西之口、タマソの生家である。一気に弓を放ち、開いていた窓から家の中へ飛び込んだ。しばらくすると白い煙が漏れ始めた。そして、三本目。カケルは矢羽に甲高い音が出る細工をした。不思議そうにその様子を皆が見ていた。そして、弓を構えると、先ほどより更に天高く矢を放った。びゅんと音を立て、矢は飛んだ。そして遥か上空に打ち上がると、きーんと言う甲高い音をあたりに響かせて落ちてきた。里の中で物色していた兵たちは、甲高い音に驚き、家の中から出てきて、皆が空を見上げていた。そこへ、火矢が突き刺さった。運悪く、飛び出してきた兵の一人にその矢は突き刺さった。見る間に、その兵は火に包まれる。近くに居た兵たちは、何事が起きたのかと辺りを見回した。しかし、近くに敵の姿は見えない。それどころか、里の両端の家が火に包まれているではないか。火は次々に燃え移り、里の真ん中へ迫ってくる。先ほどまで、統制の取れた兵ではあったが、炎に囲まれ、動揺し、とにかく逃げ場を探して走り回る。兵を率いてきた頭目らしき男も、もはや、わが身を守る事に精一杯だった。大剣を振り回し、炎に包まれ、次々に倒れ掛かってくる家を払いながら、出口を探している。
ようやく、炎の海から逃げ出したところに、陶の若衆たちが待ち構えていた。手向かおうとする者は、若衆に殴り倒され、大人しく捕まる者は縄をうたれた。

「浜で火の手が上がっています。」
大船の見張り役が、ギョクとマサに告げる。アスカも船縁から様子を見た。確かに、浜の向こうから黒煙が上がっている。
「動いたようだな。では、我らも動くとするか。船を黒竜に寄せろ!」
帆を張り、一気に加速し、浜近くに止まっている「黒流」に大船は真っ直ぐに向かって行った。
黒船の見張りも里の異変に気付いたようだった。数人が船の屋根に上がって様子を伺っていた。
そこへ、大船が真っ直ぐに向かってきたのだ。最初は、味方の船かと油断をしていたが、異様な速さで突っ込んでくる様子に、黒竜に残っていた兵たちも敵襲だとわかった。しかし、その時には、大船は黒竜の一部を大破させ横付けされた。その衝撃に、何人かは船の外へ放り出された。
「さあ、乗り移れ!一気に片付けるのだ!」
黒竜の兵たちはあっけなく、ギョクたちに制圧された。

兵を率いてきた頭目は、すぐには見つからなかった。しかし、火が収まって程なく、焼け落ちた家の中で、火に捲かれて死んでいるのが見つかった。

1-1-17火事.jpg
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