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1-18 月夜の浜 [アスカケ第4部瀬戸の大海]

4-1-18  月夜の浜
カケルたちは、屋代の水軍の根城を目指した。大船は、タモツたちに引渡し、佐波の海一体を守れるようにしてきた。
タマソやカケルたちは「黒竜」に乗り込んだ。強い潮の流れを読み、島々の間を抜けて、屋代へ向かった。
「もう少し先へ進むと、島々が連なるところに入ります。おそらく、あちこちに水軍の船が潜んでいるでしょう。気を締めて臨まねばなりませぬ。」
ギョクが遠くに視線をやり、カケルたちに話した。
「手前に見えてきたのが、上の島、そしてその先の大きな島が水軍の根城となっている屋代ヶ島、その左手には畠ヶ島。この三つの島には里があります。他の小さな島には人は居りません。」
ギョクはゆっくりと指差して教えた。
「どれほどの船が潜んでいるのでしょう?」
カケルがギョクに尋ねると、ギョクは首を横に振った。
「水軍が一度に集まった事はありません。それぞれが、頭領から指図を受けているに過ぎません。一度、屋代で見た限りでは、十隻ほどは居たでしょうか。・・三つの島それぞれに船は戻りますから、少なくとも三十隻はいるでしょう。」
それを聞いたカズが、急に心配顔になって言った。
「それほどの敵を相手に戦など・・勝ち目はないぞ。」
それを聞いてサカが言った。
「一度に集まった事がないのだ・・ここら辺りにいるのはせいぜい数隻だろう。一つ一つ、やっつけてしまえば良いんだ。」
サカの言う事は正しかった。それぞれが頭領から指図を受けているのなら、数隻程度の集団に過ぎない。戦い方もあるだろう。しかし・・とカケルは考えていた。それほど多くの船を相手にどれほどの戦をせねばならないか、命を落とす者も多く出るに違いない。もっと別の方法で、屋代水軍を討つことを考えねばならないと思っていた。
「ギョク様、屋代の頭領とはどのような人物ですか?」
カケルが訊いた。ギョクはしばらく考えてから答えた。
「私は直接会った事はありません。限られた者しか、館へは入れず、兵達の前に姿を見せたこともありません。ただ、頭領は潮を操る神の力があると聞いております。その力で、海を行き交う船を操り、水軍を作ったのです。」
「何かの術を使うということですか?」
タマソが尋ねた。
「いや・・それもまた人伝に聞いた話ゆえ、真偽の程は判りませぬ。」
船は東へ進んでいく。先ほどギョクが話した上の島がはっきりと視界に入ってきた。南側に開けたあたりに、船着場と人家数軒並んでいるのが見える。
「これ以上舟を進めると、水軍に見つかります。潮も止まりましたゆえ、二つ島に着けましょう。」
ギョクはそう言うと船を二つ島に向けた。二つ島とは、小さな岩礁が少し顔を出した小島と寄り添うように一回り大きな島が並んでいるところだった。船は二つ島の砂浜近くで停められ、男たちは、船を降り島へ上がった。
水を確保し、夕餉を摂った。その後、皆、思い思いの場所で休息した。

穏やかな海、月が煌々と輝いている。タマソが一人、砂浜に立ち、夜の海を眺めている。
「眠れませんか。」
カケルが声を掛ける。
「カケル様・・・この先、どうなるのでしょう。」
タマソの声は沈んでいた。カケルはじっとタマソを見た。
「勇んで、赤間からここまでやって参りました。陶では、カケル様のお力を借り、何とか水軍を制圧できましたが・・この先、多くの水軍とどう戦えばよいのか・・サカの言うように、一隻ずつを相手にするとしても、どれほどの戦をせねばならぬのか・・・どうにも不安で堪りません。」
タマソはそう言うと、砂浜に座り込んでしまった。カケルは、隣に座り、低い声で答えた。
「私も同様です。ギョク様の話では、相当の敵がいるはずです。きっと、多くの者が命を落とす事になるでしょう。」
「しかし、水軍を成敗せねば、安寧な日々は参りません。どうすれば良いのでしょう。」
必死な形相で問うタマソの言葉に、カケルはまだ答えを持ち合わせていなかった。しばらく、沈黙のまま、遠く暗い海を見ていた。視線の先には、幾つかの小さな島や岩影が見えるが、水軍の本拠とされる屋代ヶ島がどのあたりか判らなかった。ふと、カケルの頭に考えが浮かんだ。
「タマソ様、水軍の島はどこなのでしょうか?」
カケルの問いに、タマソは視線を遠くに向け、睨みつけるように探ったが判らなかった。
「判りません。敵が何処に居て、どのようなものなのか・・」
「そうなのです。我らはまだ水軍の正体を知りません。ギョク様の話で、三十隻ほどではないかと考えているだけです。実際に、どれほどの兵がいるのか判らず、ただ不安を抱えても仕方ありません。まずは、敵の正体を知る事が肝要です。」
「しかし、そのためには船を進めねばならぬ。多くの敵が居れば、皆命を落とす事になる。」
「ええ・・それに我らは余りにも少なすぎます。援軍も増やさねばなりません。」
「援軍と言っても・・・このあたりは水軍だらけではないだろうか?」
「それとて、判らぬ事。この辺り一帯の様子を探りましょう。」

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